1 / 4
青い金糸雀 (サチ視点)
偶然の再会
しおりを挟む
ずっとずっと好きだった。
子供の頃から貴方のことが。
変な子だと思われたくなくて黙ってた。
蓋をした感情は暗く重く、僕を蝕んだ。
【青い金糸雀】
地方の小さな町で僕たちは生まれ育った。
自然豊かな町は若者には退屈で。
高校を卒業した彼は夢を叶えるため都会へと旅立った。
まだ中学生の僕は絶望の日々を送るしか無かった。
高校に進学してから頑張って勉強して親を説得して。
都会の芸術系の専門学校に進めることになった。
彼の幼なじみである僕の兄から彼の住所を聞き出して。
近い場所にアパートを借りた。
でも会いに行く勇気は無くて。
偶然の再会に期待していた。
「あ……」
その年の夏。夕暮れの商店街。
正面から歩いて来る、ギターケースを背負った長身の青年。
彼は僕の方を見て目を逸らし、もう一度見て足を止める。
「……サチ?」
大好きな低い声で名前を呼ばれただけで舞い上がってしまった。
必死に心を落ち着かせてから、口を開く。
「……シンさん。久しぶり」
「おぉ!元気だったか?」
「うん。シンさんも元気そうだね」
「元気元気。コウからサチがこっち来てるって聞いてたけど。まさか会えるとは思ってなかった」
「僕も」
会いたかったけど会えるとは思ってなかった。
どうしよう。泣きそう。
感情のジェットコースターに乗っている僕に気づくことなく、彼は腕時計に目をやる。
「あ。サチ。この後、時間ある?」
「……うん。あるけど」
「バンド仲間と飲みに行くからお前も……って、サチまだ未成年だよな。居酒屋なんか行ってもつまんねーか」
「行く!」
せっかく再会できたんだ。
どうにか繋がりを作りたい。
「そうか?」
「うん。楽しそうだし」
すると、シンさんは何故かため息をついた。
「あー。やっぱやめとくか」
「何で?」
「アイツら絶対サチにムリヤリ飲ませるから」
「僕はいいけど」
「ダメだ。コウに言われてんだよ」
「兄ちゃんに?何て?」
シンさんが僕の頭を撫でて言う。
「サチに何かあったら殺す。ってな」
兄は過保護だ。
僕の上京も最初は反対してた。
都会は怖いところだから、って。
「大丈夫だよ」
「俺が大丈夫じゃない」
「兄ちゃんには黙ってるから」
「……サチ。悪い子に育ったな」
「子供扱いしないでよ」
彼はまだ渋ってたけど。
どうしても逃がしたくない僕は強引に同行した。
狭い居酒屋のテーブル席。
僕は彼の隣に座らされる。
少しして彼のバンドの仲間というお兄さんが二人、向かい側に座った。
ベースとドラムの人らしい。
「ボーカルの人は後から来るんですか?」
僕の何気ない言葉で場が明らかに暗くなった。
「え?あの、僕、何かまずいこと……」
「抜けたんだよ。ボーカル」
「え?そうなの?」
「俺のやり方が気に食わないって」
「そうなんだ……」
どうやら今日の飲み会は、今後のことの話し合いと憂さ晴らしらしい。
僕は話に加われず、一人寂しくジュースを飲む。
ボーカルが居ないならシンさんが歌えばいいのに。
素敵な声だし歌も上手い。
結局、何も決まらないまま飲み会がお開きになり。
僕とシンさんは人影もまばらになった繁華街を並んで歩く。
「……あのさ。シンさん」
「ん?」
「シンさんが歌う、ってダメなの?」
「俺が?」
「シンさん歌上手いし。声も良いから」
「……うーん」
彼は星の見えない夜空を見上げ立ち止まった。
しばらく考えてから、何度か頷いて口を開く。
「うん。無いな。俺が歌うという選択肢は無い」
「どうして」
「俺は自分が作った曲を誰かに歌って欲しいんだよ」
「……そっか」
「そうなんだ」
「いい人が見つかるといいね」
「おう」
「シンさん」
「なに?」
「今からシンさんの家に行っていい?」
僕の言葉が予想外だったのか、彼は驚いた表情で僕を見る。
「……ダメだよね。あ、彼女さん居るよね。シンさんかっこいいし」
「別にいいけど」
「……え?いいの?」
「散らかってて良ければ」
シンさんが言うには今は彼女が居ないらしい。
誰も面倒を見てくれないから部屋が散らかり放題なのだと言う。
再会した商店街の先の坂道を上る。
その先に少し古い感じの二階建てアパートが見えた。
階段を上がった先の一番奥の部屋。
シンさんが玄関ドアを開けて先に入る。
蛍光灯の明かりに照らされた狭い室内は、予想以上の散らかりっぷりだった。
「早く入れよ。虫が入る」
「あ……うん。お邪魔します」
シンさん見た目は最強なのに。
人間的に欠けた部分がある。
そこが魅力でもあるんだけど。
「その辺、適当に座って」
「うん」
冷蔵庫の扉を開け閉めする音がして、シンさんは缶ジュースと缶ビールを手に歩いて来る。
「悪ぃな。こんなもんしか出せなくて。うわ、このジュース賞味期限が先月だ」
「大丈夫だよ。戴きます。って、シンさんまだ飲むの?」
「飲まずにいられないだろ。この状況」
シンさんが愚痴る。
バイトはクビになるしバンドは上手く行かないし彼女にフラれるし。
良いことが何も無いって。
テーブルの上にある煙草の箱に手をかけてから、彼は僕を見る。
「お前、煙草平気か?」
「あ……うん。大丈夫」
「ベランダで吸うか」
「気を使わなくていいよ。ここシンさんの家だし」
「そうか?」
シンさんが慣れた仕草で煙草に火をつける。
カッコよすぎて倒れそうだった。
こんな素敵な人を捨てる女の顔が見てみたい。
何気なく床に目をやると、避妊具の箱が落ちていた。
……そうか。
この部屋でシンさんは、彼女と。
「……サチ?何で泣いてんだ?」
「……え?」
「煙草、嫌だった?」
子供の頃から貴方のことが。
変な子だと思われたくなくて黙ってた。
蓋をした感情は暗く重く、僕を蝕んだ。
【青い金糸雀】
地方の小さな町で僕たちは生まれ育った。
自然豊かな町は若者には退屈で。
高校を卒業した彼は夢を叶えるため都会へと旅立った。
まだ中学生の僕は絶望の日々を送るしか無かった。
高校に進学してから頑張って勉強して親を説得して。
都会の芸術系の専門学校に進めることになった。
彼の幼なじみである僕の兄から彼の住所を聞き出して。
近い場所にアパートを借りた。
でも会いに行く勇気は無くて。
偶然の再会に期待していた。
「あ……」
その年の夏。夕暮れの商店街。
正面から歩いて来る、ギターケースを背負った長身の青年。
彼は僕の方を見て目を逸らし、もう一度見て足を止める。
「……サチ?」
大好きな低い声で名前を呼ばれただけで舞い上がってしまった。
必死に心を落ち着かせてから、口を開く。
「……シンさん。久しぶり」
「おぉ!元気だったか?」
「うん。シンさんも元気そうだね」
「元気元気。コウからサチがこっち来てるって聞いてたけど。まさか会えるとは思ってなかった」
「僕も」
会いたかったけど会えるとは思ってなかった。
どうしよう。泣きそう。
感情のジェットコースターに乗っている僕に気づくことなく、彼は腕時計に目をやる。
「あ。サチ。この後、時間ある?」
「……うん。あるけど」
「バンド仲間と飲みに行くからお前も……って、サチまだ未成年だよな。居酒屋なんか行ってもつまんねーか」
「行く!」
せっかく再会できたんだ。
どうにか繋がりを作りたい。
「そうか?」
「うん。楽しそうだし」
すると、シンさんは何故かため息をついた。
「あー。やっぱやめとくか」
「何で?」
「アイツら絶対サチにムリヤリ飲ませるから」
「僕はいいけど」
「ダメだ。コウに言われてんだよ」
「兄ちゃんに?何て?」
シンさんが僕の頭を撫でて言う。
「サチに何かあったら殺す。ってな」
兄は過保護だ。
僕の上京も最初は反対してた。
都会は怖いところだから、って。
「大丈夫だよ」
「俺が大丈夫じゃない」
「兄ちゃんには黙ってるから」
「……サチ。悪い子に育ったな」
「子供扱いしないでよ」
彼はまだ渋ってたけど。
どうしても逃がしたくない僕は強引に同行した。
狭い居酒屋のテーブル席。
僕は彼の隣に座らされる。
少しして彼のバンドの仲間というお兄さんが二人、向かい側に座った。
ベースとドラムの人らしい。
「ボーカルの人は後から来るんですか?」
僕の何気ない言葉で場が明らかに暗くなった。
「え?あの、僕、何かまずいこと……」
「抜けたんだよ。ボーカル」
「え?そうなの?」
「俺のやり方が気に食わないって」
「そうなんだ……」
どうやら今日の飲み会は、今後のことの話し合いと憂さ晴らしらしい。
僕は話に加われず、一人寂しくジュースを飲む。
ボーカルが居ないならシンさんが歌えばいいのに。
素敵な声だし歌も上手い。
結局、何も決まらないまま飲み会がお開きになり。
僕とシンさんは人影もまばらになった繁華街を並んで歩く。
「……あのさ。シンさん」
「ん?」
「シンさんが歌う、ってダメなの?」
「俺が?」
「シンさん歌上手いし。声も良いから」
「……うーん」
彼は星の見えない夜空を見上げ立ち止まった。
しばらく考えてから、何度か頷いて口を開く。
「うん。無いな。俺が歌うという選択肢は無い」
「どうして」
「俺は自分が作った曲を誰かに歌って欲しいんだよ」
「……そっか」
「そうなんだ」
「いい人が見つかるといいね」
「おう」
「シンさん」
「なに?」
「今からシンさんの家に行っていい?」
僕の言葉が予想外だったのか、彼は驚いた表情で僕を見る。
「……ダメだよね。あ、彼女さん居るよね。シンさんかっこいいし」
「別にいいけど」
「……え?いいの?」
「散らかってて良ければ」
シンさんが言うには今は彼女が居ないらしい。
誰も面倒を見てくれないから部屋が散らかり放題なのだと言う。
再会した商店街の先の坂道を上る。
その先に少し古い感じの二階建てアパートが見えた。
階段を上がった先の一番奥の部屋。
シンさんが玄関ドアを開けて先に入る。
蛍光灯の明かりに照らされた狭い室内は、予想以上の散らかりっぷりだった。
「早く入れよ。虫が入る」
「あ……うん。お邪魔します」
シンさん見た目は最強なのに。
人間的に欠けた部分がある。
そこが魅力でもあるんだけど。
「その辺、適当に座って」
「うん」
冷蔵庫の扉を開け閉めする音がして、シンさんは缶ジュースと缶ビールを手に歩いて来る。
「悪ぃな。こんなもんしか出せなくて。うわ、このジュース賞味期限が先月だ」
「大丈夫だよ。戴きます。って、シンさんまだ飲むの?」
「飲まずにいられないだろ。この状況」
シンさんが愚痴る。
バイトはクビになるしバンドは上手く行かないし彼女にフラれるし。
良いことが何も無いって。
テーブルの上にある煙草の箱に手をかけてから、彼は僕を見る。
「お前、煙草平気か?」
「あ……うん。大丈夫」
「ベランダで吸うか」
「気を使わなくていいよ。ここシンさんの家だし」
「そうか?」
シンさんが慣れた仕草で煙草に火をつける。
カッコよすぎて倒れそうだった。
こんな素敵な人を捨てる女の顔が見てみたい。
何気なく床に目をやると、避妊具の箱が落ちていた。
……そうか。
この部屋でシンさんは、彼女と。
「……サチ?何で泣いてんだ?」
「……え?」
「煙草、嫌だった?」
0
あなたにおすすめの小説
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
僕たち、結婚することになりました
リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった!
後輩はモテモテな25歳。
俺は37歳。
笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
勘違いへたれアルファと一途つよかわオメガ──ずっと好きだったのは、自分だけだと思ってた
星群ネオン
BL
幼い頃に結婚の約束をした──成長とともにだんだん疎遠になったアルファとオメガのお話。
美しい池のほとりで出会ったアルファとオメガはその後…。
強くてへたれなアルファと、可愛くて一途なオメガ。
ありがちなオメガバース設定です。Rシーンはありません。
実のところ勘違いなのは二人共とも言えます。
α視点を2話、Ω視点を2話の後、その後を2話の全6話完結。
勘違いへたれアルファ 新井裕吾(あらい・ゆうご) 23歳
一途つよかわオメガ 御門翠(みがと・すい) 23歳
アルファポリス初投稿です。
※本作は作者の別作品「きらきらオメガは子種が欲しい!~」や「一生分の恋のあと~」と同じ世界、共通の人物が登場します。
それぞれ独立した作品なので、他の作品を未読でも問題なくお読みいただけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる