11 / 65
第二章 従う事への教育
燃やされたバスケット(3)
しおりを挟む
「——急務によりお出かけになられた、レイン侍女長の代わりに参りました。午後のお勤めも共にご一緒します」
侍女のレミエールが、拘束して自由を奪う残酷な鉄棒を手に、何もない室内へと戻ってきた。
あれから空の皿を前に、どうする事も出来なくなっていたセレンティアは、空虚にイスに座ったままレミエールを出迎える。
「代理のお役目、ご苦労様ですレミエール様。不勉強な私を、午後もどうかご指導下さいませ」
「さすがはセレンティア様。勤勉な心掛けは、淑女として相応しい。ですが、これはどうなさったのですか?」
手首と膝の布枷に鉄棒を取り付けてから、レミエールはうっかり履き直してしまったドロワーズを指差して、セレンティアのヒップを強くつねった。
「このような物は、当家がご用意した制服には含まれておりませんわ。まさかとは思いますが、セレンティア様は衣装部屋から盗みを働かれたのですか?」
「ち、違います! これは、私が持ってきた物です!」
「口では何とでも言えましてよ? ……ああ、そうでしたね。セレンティア様がご実家からお持ちになられたバスケットから、ご自身のお衣装を出されたのですか…」
レミエールはベルを取り出し呼び鈴を鳴らすと、すぐに小間使いのリンが姿を現した。
「セレンティア様のバスケットを開いて、お衣装を出して下さる?」
「…かしこまりました」
すぐにバスケットの中身は開かれ、手前のケースからいくつかの着替えや下着が取り出される。
「このような物を公爵家に持ち込まれて、万が一疫病の類が付着していたらどうなさるおつもりでしたの…。お衣装を縫われたお針子が嘆かれます。すぐに、このような物は暖炉に入れて焼却致しましょう」
リンは一度だけ躊躇ったが、すぐにバスケットの中身を取り出して燃えさかる炎へと投げ込んでいった。
咄嗟に静止しようとしたセレンティアは、無情にも鉄棒を掴まれて身動きが取れなくなる。
「やめて!! お止めになって下さい!!
それには、お母さまの写し絵と父からの手紙が……」
「不浄な物を、当家で置いておくわけには参りません。セレンティア様は嫁がれる予定なのですから、過去との決別も必要ですわ」
「何て事をなさるの! あれは、父からの贈り物だと言うのに、使用人からの刺繍や小さい頃から大切にしていた小箱も…」
拘束を掴まれているにも関わらず、セレンティアは必死に振り解こうとレミエールの頬を上体を逸らして叩いた。動揺すら起こさない彼女は冷静な顔のままで鉄棒を掴んだ手を離さず、紙や衣類が燃やされる臭いが室内を立ち込める。
「あ、貴方は、血の通った人ではないわ!! 公爵家が何だと言うの、どんなに階級が上の方であっても、行ってはならない事があるわ。私は、一年後に婚約等致しません。公爵夫人になんて、なるものですか!
こんな不条理な行いを平然と行う使用人を雇っているお屋敷は、母なる始祖神様のお怒りに触れて燃やし尽くされるといいのです!」
「私に何と申されましても、貴方さまは将来の奥方となられるお方ですわ。このような事で声を荒げてはなりません。そうですね、お薬で少し楽になさってから、午後のお勤め先に参りましょうか」
「……まだ、私は…」
ポケットから鉄箱を取り出し、レミエールは鎮静剤の入った注射針をセレンティアの腕に差し込んだ。すぐに酩酊のような症状が現れ、手足に力が入らなくなってくる。
抗議の言葉を紡ぎたくても口が巧く動かず、レミエールは身体の落ち着きを確認してから、レターナイフでセレンティアのドロワーズを切り裂いて、これもリンに燃やすように指示を出した。
「少々、セレンティア様を甘やかしてしまったのかも知れませんわね。午後の予定は変更して、罰としてお掃除をして頂きましょうか。
貴方さまには、公爵家の奥様となられるために覚えて頂く作法がたくさん有るというのに……初日からつまづいてしまっては、いけませんわ」
首にリードが取り付けられ、反抗する気力を失ったセレンティアは引き摺られながら部屋を後にする。
心の便りだった父からの贈り物の亡き母の写し絵を失い、手紙や使用人たちの縫ってくれた刺繍も燃やされ、彼女に残されたのは復讐の気持ちと公爵家への強い恨みだけだった。
侍女のレミエールが、拘束して自由を奪う残酷な鉄棒を手に、何もない室内へと戻ってきた。
あれから空の皿を前に、どうする事も出来なくなっていたセレンティアは、空虚にイスに座ったままレミエールを出迎える。
「代理のお役目、ご苦労様ですレミエール様。不勉強な私を、午後もどうかご指導下さいませ」
「さすがはセレンティア様。勤勉な心掛けは、淑女として相応しい。ですが、これはどうなさったのですか?」
手首と膝の布枷に鉄棒を取り付けてから、レミエールはうっかり履き直してしまったドロワーズを指差して、セレンティアのヒップを強くつねった。
「このような物は、当家がご用意した制服には含まれておりませんわ。まさかとは思いますが、セレンティア様は衣装部屋から盗みを働かれたのですか?」
「ち、違います! これは、私が持ってきた物です!」
「口では何とでも言えましてよ? ……ああ、そうでしたね。セレンティア様がご実家からお持ちになられたバスケットから、ご自身のお衣装を出されたのですか…」
レミエールはベルを取り出し呼び鈴を鳴らすと、すぐに小間使いのリンが姿を現した。
「セレンティア様のバスケットを開いて、お衣装を出して下さる?」
「…かしこまりました」
すぐにバスケットの中身は開かれ、手前のケースからいくつかの着替えや下着が取り出される。
「このような物を公爵家に持ち込まれて、万が一疫病の類が付着していたらどうなさるおつもりでしたの…。お衣装を縫われたお針子が嘆かれます。すぐに、このような物は暖炉に入れて焼却致しましょう」
リンは一度だけ躊躇ったが、すぐにバスケットの中身を取り出して燃えさかる炎へと投げ込んでいった。
咄嗟に静止しようとしたセレンティアは、無情にも鉄棒を掴まれて身動きが取れなくなる。
「やめて!! お止めになって下さい!!
それには、お母さまの写し絵と父からの手紙が……」
「不浄な物を、当家で置いておくわけには参りません。セレンティア様は嫁がれる予定なのですから、過去との決別も必要ですわ」
「何て事をなさるの! あれは、父からの贈り物だと言うのに、使用人からの刺繍や小さい頃から大切にしていた小箱も…」
拘束を掴まれているにも関わらず、セレンティアは必死に振り解こうとレミエールの頬を上体を逸らして叩いた。動揺すら起こさない彼女は冷静な顔のままで鉄棒を掴んだ手を離さず、紙や衣類が燃やされる臭いが室内を立ち込める。
「あ、貴方は、血の通った人ではないわ!! 公爵家が何だと言うの、どんなに階級が上の方であっても、行ってはならない事があるわ。私は、一年後に婚約等致しません。公爵夫人になんて、なるものですか!
こんな不条理な行いを平然と行う使用人を雇っているお屋敷は、母なる始祖神様のお怒りに触れて燃やし尽くされるといいのです!」
「私に何と申されましても、貴方さまは将来の奥方となられるお方ですわ。このような事で声を荒げてはなりません。そうですね、お薬で少し楽になさってから、午後のお勤め先に参りましょうか」
「……まだ、私は…」
ポケットから鉄箱を取り出し、レミエールは鎮静剤の入った注射針をセレンティアの腕に差し込んだ。すぐに酩酊のような症状が現れ、手足に力が入らなくなってくる。
抗議の言葉を紡ぎたくても口が巧く動かず、レミエールは身体の落ち着きを確認してから、レターナイフでセレンティアのドロワーズを切り裂いて、これもリンに燃やすように指示を出した。
「少々、セレンティア様を甘やかしてしまったのかも知れませんわね。午後の予定は変更して、罰としてお掃除をして頂きましょうか。
貴方さまには、公爵家の奥様となられるために覚えて頂く作法がたくさん有るというのに……初日からつまづいてしまっては、いけませんわ」
首にリードが取り付けられ、反抗する気力を失ったセレンティアは引き摺られながら部屋を後にする。
心の便りだった父からの贈り物の亡き母の写し絵を失い、手紙や使用人たちの縫ってくれた刺繍も燃やされ、彼女に残されたのは復讐の気持ちと公爵家への強い恨みだけだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる