婚約令嬢の侍女調教

和泉葉也

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第三章 侯爵令嬢としての心得

奴隷たちの花蜜(2)

「―――ここは、レイチェル公爵家の邸内庭園です。
 本日はこちらで、作業をして頂きます」

 クロームファラにいつもより短い鉄棒を取り付けられ、空腹による眩暈と息切れに襲われていたセレンティアは、床に這いつくばりながら到着させられた庭園を力なく見渡す。
 入り口は二重の扉に衛兵、大振りの鍵が取り付けられており、普段は立ち入る事のない特別な場所だとすぐにわかった。
 外壁は赤いレンガで統一されており、天井は吹き抜けとなっていて、中央のガラス扉とテラス席にだけ贅沢な屋根装飾が施されている。
 中央から囲うように水路が引かれ、苔や淀みの一つもない、清純な清水が草花を潤していた。

「外国からの賓客や、特別なお客様をお迎えする際のパーティー会場としても使われますの。セレンティア様には、遠方のロイヤルアゼールから寄贈された花奴隷のお手入れをお願いしますわ」

 クロームファラはシンボルとなっている中央のガラス扉を開いていくと、中から彫刻のようにも見える三人の人影が姿を見せた。
 中央に背の低い深い藍色の髪の青年が座っていて、それに淡い白色の髪をした二人の女性が寄り添っている。薄い布のような衣装を身に纏い、手指にはそれぞれの髪の色に合わせた宝石が飾られていた。全員眠っているようで目は閉じており、ガラス扉が完全に開かれても微動だにしなかった。

「まずは三人の靴を脱がせて、花を整えて下さいませ。時間はたっぷり有りますから、気になさらずにゆっくりとお手入れをなさって」

 それだけ告げると、這いつくばったまま動けないでいるセレンティアを無視したまま彼女は庭園を後にした。
 昼食が入っているらしい、ランチバスケットをわざわざ置き、厳重に鍵を閉めていった事からして、ここを出られるのは夕方以降になるだろう。

 没落し、後妻のラクトン夫人によるの散々で伯爵家は火の車ではあったが、貴族であるセレンティアは今まで食事に飢えた事など一日たりとも無く、異母弟妹と後妻によって家での居場所は失いつつあったものの、父や幼い頃からの使用人たちの愛情に包まれて、寒さに震える思いや労働の厳しさを味わった事もなかった。

「……一日食事を抜かれたくらいで、こんなに、眩暈を起こすものなのかしら?」

 大切なものを燃やされたショックや緊張も有ったが、それほどまでに食事を求める程の飢えや渇きが出てくるとは考えにくい。
 眼を閉じると食べ物の事ばかり思い出し、涎を垂らしながら中身が入っていないだろうランチバスケットの方に目が向いてしまう。
 もしかしたら、中に何かが入っているかもしれない。牛乳やお砂糖や蜂蜜だけでも……。あの蜂蜜は美味しかった、舌をとろかせて芳醇な香りが広がって、何度も何度も喉を潤してくれた。

「あの三人の事を花奴隷と言っていたけど、彼らの分の食事も。もしかしたら入っているかもしれない。何とか事情を説明して、少しでも分けて貰えたら……」

 椅子に腰かけたままの三人の元に近寄っても、動かないように命令されているのか指先の一つでも上げる事はない。まずは靴を脱がせないと、話もしてはいけない決まりなのかもしれない。

「鉄棒が邪魔をして、金色の蔦を外せないわ……。口で開くしかないようね」

 三人の足には金色の蔦模様の金具が取り付けられており、何度繰り返しても固定された手では金具を外すことは出来なかった。首を振って髪を巻きつけ、長い時間をかけて口と顎の力で外していく。
 ようやく全員分の金具を外すと、深い藍色の髪の青年が同じ色の瞳を開いてセレンティアを見つめた。

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