婚約令嬢の侍女調教

和泉葉也

文字の大きさ
38 / 65
第四章 サディスト夫人の嗜虐

指先潰し(4)

しおりを挟む
「ラクトン夫人は、あまり社交界に出てこないから、私も気がつかなかったわ…。だからセレンは、夜会や公的の場にもあまり姿を見せなかったのね。貴方は、王族の血を継ぐ淑女。元男爵令嬢に過ぎないラクトン夫人とは、血統が違いすぎるわ」
「継いでいると言っても、母方だけの事ですし…」

「リグレット卿は、移民出身の貴族のため地位は低いけど、父君の御生母は前国王の第三王女。もっとも、一度落飾されて神官筋となられたから、世間には秘匿されている…。とは言え、血統の良さは充分で、早い段階の貴族院入りを期待されているわ。
 セレン、知っていて? 貴方には、王位継承権が有るのよ。順位こそは低いけれど、別にテオルースに嫁がなくても、ある程度の爵位のある相手なら、娘にノッデの称号を名乗らせる事が出来る。もちろん、このまま私の息子に嫁げば、将来の女王候補となるわ…」

 ーーー私に、王位継承権が…?

 考えてみれば、リグレット伯爵家は地位が低いわりに、カスティア王女派の派閥でそれなりの発言権を持っていた。何より、これ程までに領地が荒れ果てていても爵位を返上させられる事もなく、未だ地位を保って、更に格上となる侯爵を頂くのも、隠された血筋の良さが理由だろう。

 セレンティアは、このような狂った公爵家に嫁いでしまう前に、少しでも自分の血統について考えておくべきだったと酷く後悔した。
 もうこんな淫らな行いをしてしまい、屋敷に閉じ込められた無力な令嬢では、まだ先の婚約予定をひっくり返す事など出来はしない。

「こちらへいらっしゃい、衣装部屋へ案内するわ」

 レイン侍女長に服を正され、部屋の外に出るように促された。レイチェル夫人は優しく手を取り、忌まわしい記憶の残る衣装部屋へと連れて行く。
 中に入ると前よりも部屋は片付いており、レイン侍女長は奥の小部屋から、非常に細かな刺繍の施された真っ白なドレスや宝石箱を運んできた。

「貴方の花嫁道具よ。お父上が辺境伯夫人にお願いして作らせた、職人の手による一級品。
 お祖母さまは、私の息子との婚約予定を、とても喜んでおられたわ。王妃さまでさえ、こんな上等な生地に触れる事が少ないくらいの出来栄え。装飾品は、貴方の亡くなられたお母さまの…。伯母上の遺品を何とか買い戻させて、貴方のために持たせたと聞いているわ…。正式な婚約の際に渡すように言われていたのだけれど、先にお見せするくらいなら許されるでしょうね」

「お母、さまの…」

 渡された宝石箱を開いてみると、生前の母の胸元を飾っていた緑石の首飾りと、金の耳あてが収まっていた。色褪せていた石は磨き直され、新たに金細工が施されている。


「貴方はまだ、充分に若いわ。私の息子との婚約は、規定の年齢も満たさないし、まだ予定でしかない。若くて美しくて、どんなに酷くされても気高さを失わない高潔さと知性を備えている。
 もちろん、テオルースと婚約する方が喜ばしいけれど、私が望んでいるのは、貴方が貴族院のトップとなり、カスティアベルン殿下のための片腕となる事。聖女とも呼ばれる、次期女王を支える令嬢が、私は欲しいだけよ…」

「私が、カスティア王女殿下の…? 確かに私は王女殿下に焦がれていました。けれど、そんな大きな存在ではないわ」

「経験が、不足しているだけだわ…。貴方はこれまでの酷くされた行いに対して。とてつもなく違和感を感じているかもしれないけれど。貴族同士のお遊びは、こんなものよ。
 この国は女性上位で、女王が優遇される。過去の女王も即位まで婚礼が許されなかったせいで、女性を愛する者が多かったわ。リンやスウが、殿下の手元に置かれて居た事は知っていて? ベルン殿下はセレンティア・リグレット。貴方にも深い興味を抱いていてよ…」

 聖なる赤茶色の瞳を讃えた、王位継承から排されている次期女王候補。貴族への常識や酷くされた行いの記憶よりも、確かな野心にセレンティアは心を奪われる。

「花奴隷の庭園の鍵を、貴方に渡しておくわ。
 退屈な貴族たちは、性に奔放よ。セレンに不足しているのは酷くされる行いへの経験と知識だけ。どうして、花奴隷を上位貴族が囲って来たのか。どうして、酷くされる行いが普通なのか。社交界に出た姫君は、まず最初に学ばされる事実を、ゆっくりとあの子たちに教えて貰うといいわ」

 紫水晶細工が施された鍵を手渡され、針を刺された指先が酷く傷んだ。この鍵を手にしてしまったら、この指先は目の前の夫人の手によって噛み砕かれ、二度と何も知らなかった頃の令嬢には戻れないだろう。
 それでも深い野心と、自分の血統を知ってしまった気位とが警戒心を咎めてしまい、庭園の鍵を手の中に収めてしまった。受け渡したレイチェル夫人は、いつになく残忍な笑みを浮かべる。

「もう、侍女としてのお務めは不要よ。セレン。今日からは侯爵令嬢としての、贅沢な生活に慣れて頂くわ…。
 もちろん、マナーの教育は行うけれど、屋敷の出入りも自由よ。もしも恋しくなったら、リグレット卿の元へでも、テオルースの寝台の上にでも戻って構わなくてよ」

 指先の痛みが、女蛇に手足を絡め取られている事を教えてくれる。それでも、ここまで来た苦労や嫌な思い出。ちっぽけなプライドと野心がセレンティアの心を支え、手にした鍵を痛む手の平で強く握りしめた。

「承知しましたわ。リリーチェ姉さま。いえ、今日からは、レイチェル夫人とお呼び致します。
 これからは、私の敬愛するベルン殿下の身元に置かれますよう、ご指導願いますわ」

 二人の従姉妹は互いに手を繋ぎ、この国の今後の未来を誓い合う。お姫さまや結婚に焦がれ、優美な夢を語り合った幼い日々はもう遠く、計略のパートナーとしての従姉妹関係がここに生まれた。

第一部幕間
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...