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第五章 贅を尽くされた部屋
ヘイヴェン侯爵令嬢(2)
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ルターニアが座るのを確認すると、カースティ補佐官たちはサロンを後にした。てっきり彼も側に居てくれると思っていたが、使用人としての立場を重んじるかのようだった。
不安そうな表情を見せるセレンティアの髪飾りを撫で、レイチェル夫人は高らかに歓迎の乾杯を合図する。
二人の若い加入を讃え、傍に控えた召使いたちが一斉にお辞儀をし、ソーサーテーブルに乗せられた軽食や茶菓子をテーブルに運んでいく。
砂糖で固められた薔薇の花びらや、蜜を合わせた果実、焼きたてのマフィンやホイップクリームが立ち並び、参加者の誕生月に合わせた花の装飾が施されたティーカップに熱い紅茶が注がれた。ティースプーンには、それぞれの名前が刻印されており、いかにこの茶会が公爵家サロンでも重要な行事かを物語っている。
銀の小皿に乗せられた小さな砂糖菓子をカップに浮かべ、セレンティアは自分の名前の記されたスプーンでかき混ぜる。自分がとても特別な人間にでもなれたような気がして、湧き立つ賛美の言葉に目眩さえ覚える。
———無表情のまま、紅茶を口にしているだけだわ。
同い年の少女。ルターニアの動向がどうしても気になってしまい、セレンティアは話しかけてくる夫人方に相槌を打ちながら目線を泳がせる。
どうしてここに連れて来られたのか、何故別の派閥からこちら側に入ったのか。聞いてみたい話はたくさんあったが、席が離れていては声を掛ける事も出来ない。
しばらくすると、座席ごとのテーブルゲームが始まってしまい、セレンティアはひとまず遊戯に参加する事に決めた。
皿に乗せた焼き菓子をどれだけ積み上げられるかを競ったり、紅茶に追加する果実のフレーバーの中身の言い当てたりと、子供のような遊びが続いていき、レイチェル夫人やディルーク卿も楽しそうにビスケットの高さを競っていた。
ようやく席移動の時間となり、自分のティーカップを手にしたセレンティアは、辺りの様子を気にしつつルターニアの座るテーブルに向かった。
「こんにちは。失礼ですが、お隣の席に掛けてもよろしいかしら?」
「……ええ、歓迎するわ」
ルターニアは相変わらずの無表情で、美味しくなさそうにお茶を飲んでいた。ソーサーの茶菓子にも手を付けた様子はなく、テーブルナプキンでさえ最初のまま汚れてさえ居ない。
「ルターニア様で、よろしかったでしょうか? セレンティア・リグレットと申します」
「……ターニアで、いいわ。同い年なのに無駄な口調は無しにしましょう。私も、貴方とお話をしてみたいと思っていたのよ…。何より、大人たちの上辺だけの会話が続いていて、退屈していたの」
サロンの中央では、気鋭の詩人が新作の愛の唄を披露していた。二人だけで話していて咎められないか不安になったが、かなりの著名人だったらしく、レイチェル夫人まで熱心に聴き入っていた。
「ありがとう。私も、セレンでもセレンティアでも好きなように呼んで下さる。……ねえ、気になってたのだけど、どうしてずっとお茶会の最中に退屈そうにしていたの?」
「どうしてって…。この場所が普通では無い事くらいは、セレンティアも知っているでしょう? 牢獄の中に閉じ込められたようで、気が滅入ってしまうわ。貴方。もしかしたら、騙されてお屋敷に連れて来られたのではなくて?」
「最初は、そうだったのかもしれないけど…。もう、夫人に手を絡め取られてしまったもの。でも、私を本当に心配して下さって、嬉しいわ…」
そのひと言で全てを察したのか、ターニアは砂糖菓子を口にして髪を撫でた。助けを求めたとしたら、彼女は力になってくれたかもしれないが、紫水晶の鍵を手にしてしまった以上。もう手遅れだと、セレンティアは心の中で涙した。
不安そうな表情を見せるセレンティアの髪飾りを撫で、レイチェル夫人は高らかに歓迎の乾杯を合図する。
二人の若い加入を讃え、傍に控えた召使いたちが一斉にお辞儀をし、ソーサーテーブルに乗せられた軽食や茶菓子をテーブルに運んでいく。
砂糖で固められた薔薇の花びらや、蜜を合わせた果実、焼きたてのマフィンやホイップクリームが立ち並び、参加者の誕生月に合わせた花の装飾が施されたティーカップに熱い紅茶が注がれた。ティースプーンには、それぞれの名前が刻印されており、いかにこの茶会が公爵家サロンでも重要な行事かを物語っている。
銀の小皿に乗せられた小さな砂糖菓子をカップに浮かべ、セレンティアは自分の名前の記されたスプーンでかき混ぜる。自分がとても特別な人間にでもなれたような気がして、湧き立つ賛美の言葉に目眩さえ覚える。
———無表情のまま、紅茶を口にしているだけだわ。
同い年の少女。ルターニアの動向がどうしても気になってしまい、セレンティアは話しかけてくる夫人方に相槌を打ちながら目線を泳がせる。
どうしてここに連れて来られたのか、何故別の派閥からこちら側に入ったのか。聞いてみたい話はたくさんあったが、席が離れていては声を掛ける事も出来ない。
しばらくすると、座席ごとのテーブルゲームが始まってしまい、セレンティアはひとまず遊戯に参加する事に決めた。
皿に乗せた焼き菓子をどれだけ積み上げられるかを競ったり、紅茶に追加する果実のフレーバーの中身の言い当てたりと、子供のような遊びが続いていき、レイチェル夫人やディルーク卿も楽しそうにビスケットの高さを競っていた。
ようやく席移動の時間となり、自分のティーカップを手にしたセレンティアは、辺りの様子を気にしつつルターニアの座るテーブルに向かった。
「こんにちは。失礼ですが、お隣の席に掛けてもよろしいかしら?」
「……ええ、歓迎するわ」
ルターニアは相変わらずの無表情で、美味しくなさそうにお茶を飲んでいた。ソーサーの茶菓子にも手を付けた様子はなく、テーブルナプキンでさえ最初のまま汚れてさえ居ない。
「ルターニア様で、よろしかったでしょうか? セレンティア・リグレットと申します」
「……ターニアで、いいわ。同い年なのに無駄な口調は無しにしましょう。私も、貴方とお話をしてみたいと思っていたのよ…。何より、大人たちの上辺だけの会話が続いていて、退屈していたの」
サロンの中央では、気鋭の詩人が新作の愛の唄を披露していた。二人だけで話していて咎められないか不安になったが、かなりの著名人だったらしく、レイチェル夫人まで熱心に聴き入っていた。
「ありがとう。私も、セレンでもセレンティアでも好きなように呼んで下さる。……ねえ、気になってたのだけど、どうしてずっとお茶会の最中に退屈そうにしていたの?」
「どうしてって…。この場所が普通では無い事くらいは、セレンティアも知っているでしょう? 牢獄の中に閉じ込められたようで、気が滅入ってしまうわ。貴方。もしかしたら、騙されてお屋敷に連れて来られたのではなくて?」
「最初は、そうだったのかもしれないけど…。もう、夫人に手を絡め取られてしまったもの。でも、私を本当に心配して下さって、嬉しいわ…」
そのひと言で全てを察したのか、ターニアは砂糖菓子を口にして髪を撫でた。助けを求めたとしたら、彼女は力になってくれたかもしれないが、紫水晶の鍵を手にしてしまった以上。もう手遅れだと、セレンティアは心の中で涙した。
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