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第六章 決別の選択肢
絶望のバルコニー(1)
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「……急にどうしたの、セレンティア。リリー様を鞭で打ってみて、興奮した…?」
「そうみたい、ね。私、ほんの少し前までは処女だったのですもの、こんな狂宴やお稽古に付き合わされたら乳房を吸われたいと思っても、おかしく無いのではなくて…」
唾液を啜り、頬を撫でて舌を合わせる。奥まで舌先を伸ばした所で突っかかりのようなものを感じ、ターニアに視線を合わせた。
「昔、父に開けられたピアスの穴の跡よ…。塞がるまでには、もう何年かかかるでしょうね。さっき、貴方に言ったでしょう…? 鞭を打つためには、身体で痛みを覚えなくてはならない。それと同じように、誰かの舌に穴を開けるためには、自分が穴を開けなくては学ばない」
「貴方の家、失礼だけど少し変わっているわね…」
「ヘイヴェン侯爵家は、汚れ仕事を受け持つ事で元老院の地位を保っている家系ですからね…。狂っていると、言っても相応しいわ。
でも、私が産まれる前は、そこまで酷いわけでは無かったの。少し前までの私の瞳の色は赤茶色だった…。だから、第一王女のお気に入りとして囲われたのだけど、ご覧の通り色は抜けてしまったでしょう? 女の八つ当たりの結果よ」
赤い瞳の子供が産まれた際は、生まれつき日差しに弱い事や、騒動に巻き込まれないよう神の子として神殿に引き取られると聞いている。それが貴族の娘の中で、しかもカスティア王女と同じ色を持っていたら、気に入られて家ごと囲われてもおかしくない。だが、色が抜け落ちただけで扱いを変えるとは…。
「どうして、カスティア王女は…、貴方のお家の家格を下げるような事をなさったの?」
「彼女は、王族に産まれた赤茶色の瞳の姫君として、社交界入りするまでは神殿で暮らしていたわ。でも、当時は聖なる力を貰えるなんて信じ込むバカな神官も居て、何度となく犯され続けたの…。それで人間不信になり、大人になって権力を得てから、自分を汚した相手を処刑した。その事で王に不審がられて、王族の間でも孤立してしまわれた。
だから…、同じ瞳を持ったルターニアの事を、仲間だと思ったのでしょうね。それを裏切ったのだから、何をされても仕方ない話よ」
どこか諦めたかのようなターニアは、初めて心底悲しそうな顔を見せた。恐らく、コルセットを外した奥には、知られたくない傷痕が残されているのだろう。酷い仕打ちを受けても、それでも自分と同じ立場に置かれた王女の事を見捨てられない。
単に歯車がずれただけなのに、王は自分の娘を信じ切れず、王女はそれを恨んで女王の座を目論む。瞳の色が変わってしまった仲間には汚れた仕事を任せ、それでも手の内からは離したくはない。
「でも私は、結構あの子の事を気に入っていてよ…。彼女は、この国の女王となり治世を保ちたい。私は、居城に住み始めた彼女のための侍女となり、側で仕えたい…」
「——侍女に、なりたいの?」
「居城に住むことが許されるのは、全部で最大でも五人限り。国王とその伴侶、従僕の二人、話し相手の侍女よ…。私の家は居城を守るお役目だった。だから、小さい頃から居城に住みたいと願うのは、不思議な話では無い。
堅牢な城の中に聳え立つ居城、庭に咲く花々と従僕と侍女のお墓。王のための部屋に、従僕と侍女の小さな部屋。誰からも見られる事はない、永遠に出られない牢獄の中に貴族の娘が入れる、唯一の方法が侍女よ」
確かに絵本などで居城の話を読んだ時は、訪れてみたいと憧れを抱いた事はあった。でも、決して外には出られない檻の中なんて、きっと数ヶ月も持たずに気が狂ってしまうだろう。
ターニアは、少し躊躇してからコルセットを外し、カスティア王女に入れられた花のタトゥーと乳房のピアスを見せてくれた。手を加えられた彼女の身体そのものが誇りであり、美しさを感じさせてくれる。
まだ時間も早かったので、そのまま二人で湯に浸かると、ターニアに対する同情ではなく、同い年の自分が身綺麗な身体で居ることに安堵して、涙が溢れてしまう。
リリーは奴隷として枷を付けられ、ターニアは嫉妬から身体を変えられた。自分が不幸だなんて嘆いて居たけれど、侍女としての調教を受けても胸に穴なんて何もない、一人で拗ねていただけの狭い気持ちの侯爵令嬢セレンティア。
夜着を纏い、抱き合うように一つのベッドで仮眠を取る。彼女の息遣いや孤独を感じて目は覚めたままで、遠くからは鞭に打たれる少女の叫びが聞こえるような気がして不安になっていく。
眠くなるよう何度となくまじないの呪文を唱え
て、息を潜めていると、ようやく部屋のドアがノックされた。
「そうみたい、ね。私、ほんの少し前までは処女だったのですもの、こんな狂宴やお稽古に付き合わされたら乳房を吸われたいと思っても、おかしく無いのではなくて…」
唾液を啜り、頬を撫でて舌を合わせる。奥まで舌先を伸ばした所で突っかかりのようなものを感じ、ターニアに視線を合わせた。
「昔、父に開けられたピアスの穴の跡よ…。塞がるまでには、もう何年かかかるでしょうね。さっき、貴方に言ったでしょう…? 鞭を打つためには、身体で痛みを覚えなくてはならない。それと同じように、誰かの舌に穴を開けるためには、自分が穴を開けなくては学ばない」
「貴方の家、失礼だけど少し変わっているわね…」
「ヘイヴェン侯爵家は、汚れ仕事を受け持つ事で元老院の地位を保っている家系ですからね…。狂っていると、言っても相応しいわ。
でも、私が産まれる前は、そこまで酷いわけでは無かったの。少し前までの私の瞳の色は赤茶色だった…。だから、第一王女のお気に入りとして囲われたのだけど、ご覧の通り色は抜けてしまったでしょう? 女の八つ当たりの結果よ」
赤い瞳の子供が産まれた際は、生まれつき日差しに弱い事や、騒動に巻き込まれないよう神の子として神殿に引き取られると聞いている。それが貴族の娘の中で、しかもカスティア王女と同じ色を持っていたら、気に入られて家ごと囲われてもおかしくない。だが、色が抜け落ちただけで扱いを変えるとは…。
「どうして、カスティア王女は…、貴方のお家の家格を下げるような事をなさったの?」
「彼女は、王族に産まれた赤茶色の瞳の姫君として、社交界入りするまでは神殿で暮らしていたわ。でも、当時は聖なる力を貰えるなんて信じ込むバカな神官も居て、何度となく犯され続けたの…。それで人間不信になり、大人になって権力を得てから、自分を汚した相手を処刑した。その事で王に不審がられて、王族の間でも孤立してしまわれた。
だから…、同じ瞳を持ったルターニアの事を、仲間だと思ったのでしょうね。それを裏切ったのだから、何をされても仕方ない話よ」
どこか諦めたかのようなターニアは、初めて心底悲しそうな顔を見せた。恐らく、コルセットを外した奥には、知られたくない傷痕が残されているのだろう。酷い仕打ちを受けても、それでも自分と同じ立場に置かれた王女の事を見捨てられない。
単に歯車がずれただけなのに、王は自分の娘を信じ切れず、王女はそれを恨んで女王の座を目論む。瞳の色が変わってしまった仲間には汚れた仕事を任せ、それでも手の内からは離したくはない。
「でも私は、結構あの子の事を気に入っていてよ…。彼女は、この国の女王となり治世を保ちたい。私は、居城に住み始めた彼女のための侍女となり、側で仕えたい…」
「——侍女に、なりたいの?」
「居城に住むことが許されるのは、全部で最大でも五人限り。国王とその伴侶、従僕の二人、話し相手の侍女よ…。私の家は居城を守るお役目だった。だから、小さい頃から居城に住みたいと願うのは、不思議な話では無い。
堅牢な城の中に聳え立つ居城、庭に咲く花々と従僕と侍女のお墓。王のための部屋に、従僕と侍女の小さな部屋。誰からも見られる事はない、永遠に出られない牢獄の中に貴族の娘が入れる、唯一の方法が侍女よ」
確かに絵本などで居城の話を読んだ時は、訪れてみたいと憧れを抱いた事はあった。でも、決して外には出られない檻の中なんて、きっと数ヶ月も持たずに気が狂ってしまうだろう。
ターニアは、少し躊躇してからコルセットを外し、カスティア王女に入れられた花のタトゥーと乳房のピアスを見せてくれた。手を加えられた彼女の身体そのものが誇りであり、美しさを感じさせてくれる。
まだ時間も早かったので、そのまま二人で湯に浸かると、ターニアに対する同情ではなく、同い年の自分が身綺麗な身体で居ることに安堵して、涙が溢れてしまう。
リリーは奴隷として枷を付けられ、ターニアは嫉妬から身体を変えられた。自分が不幸だなんて嘆いて居たけれど、侍女としての調教を受けても胸に穴なんて何もない、一人で拗ねていただけの狭い気持ちの侯爵令嬢セレンティア。
夜着を纏い、抱き合うように一つのベッドで仮眠を取る。彼女の息遣いや孤独を感じて目は覚めたままで、遠くからは鞭に打たれる少女の叫びが聞こえるような気がして不安になっていく。
眠くなるよう何度となくまじないの呪文を唱え
て、息を潜めていると、ようやく部屋のドアがノックされた。
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