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第三章 婚約レースの開幕

異国からの訪問者(1)

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「ようやく、ロイヤルアゼールとウェイクフィールドが重い腰を上げて使者訪問だけど、もう少し先触れを早めにして欲しかった所かな……」

 着付け係が色鮮やかなドレスを持ち出し、外の天気や気温に合わせていくつかの候補を提案してきた。
 両国の好まれそうな色合いとしては白だったが、二人揃って同じ色とも行かず、エリヴァルが大国のロイヤルアゼールを優先して白のドレスを選び、リリスは薄紅のベールが編み込まれたドレスを選択する。

「モーニングドレスに着替えた直後に本日訪問では、脱ぎ着するだけで汗をかいてのお出迎えになってしまうわね……」
「それが姫君の義務だよ。他国からの訪問が重なれば、日に六回も着替えを要求される事もある。
 ましてや、この国の要人は陛下や叔父上を除けばボクとリリスしか居ないのだから、婚約レースとやらに組み込まれてなかったら、毎日が着せ替え人形さ」

 厳密には、数少なくなった王族の代わりに元老院が来賓の補佐や応対を行ってはいる。だが、何せご老人の集まりなだけあって、外交向きとは言えないでいた。
 その理由でまだ若いニオブが広告塔のように働いているものの、エリヴァルのような王女と比べると他国の要人には釣り合わない身分のため、どうしても相手先からは望まれない接待相手だった。

「お見合いの最中だと言えば、向こうも頻繁に訪問して来なくなるからね。後継者不足を補うためにも、外交のお飾りを増やすためにも、ボクたち二人に種付けに励んで貰いたいのさ」
「まさかとは思いますが、庶民を突然侯爵令嬢にしただけで飽きたらず、将来的にも陛下か王弟オーカス様の養女とお考えに……?」

「だろうね……。そうでなかったら数年もかけて身上調査なんてしないし、庶子の姉上の存在を隠せる話題作りとしては、最適かな。そうなったら、リリスはボクを姉様と呼ぶ必要が出てくるよ」
「義父には、上等な胃の薬を差し入れしておきますわ」

 王の血筋の遠縁を養女にしたと思ったら、次は王族として引き取られていく。俗な書物の話題にされそうな商家のお伽噺が生まれて行って、リリスは頭を押さえながら着付け係から渡された冷水を飲み干した。

「他国の王太子や王族が公式に長期滞在するとなれば、陛下やボクの負担も減るからね。少なくとも、ロイヤルアゼールとウェイクフィールドの二カ国には誰も訪問する必要が無くなる……。
 まあ、皇位継承者ではなく、滞在するのは第三王子とか凶兆で外された双子の片割れとか……国にとってはそこまで重要な相手は選ばれなかったらしいけどね、暗殺の危険性が高いし」
「ま、まだ、ルブライト商会が裏で暗躍している事になっていますの?」

「……流行り病を偽装した暗殺の答え合わせ、にも見えるからね。国王に、第一王女と第二王子。3人も揃って棺桶の中では病と説明するには異様な話だ。案外、元老院が都合の良い噂話を流して王宮に人を近づけないようにしているんじゃないかな? ニオブを、もっと罪深く飲ませてやるべきだったねーーー」
「外交問題に関わりますから、歓迎会は遠慮しておくわ」

 手早く着替えを済ませたエリヴァルは、調度品と装飾選びに取り掛かる。まだ髪留めに戸惑っているリリスに好みの意匠を飾り付けていって、満足そうだった。

「どちらが先に来るかは知らないけれど、貢ぎ物や長期滞在の対価は高額な物ばかりだからね。保管庫の兵は、床を磨きながら待ち望んでいるさ。
 ついでにボクたちのどちらかと結ばれれば、将来の国王の父は約束されていて、祖国も安泰の両国関係は良好さ……」
「私に、そんな価値はないと思うけれど……」
「ーーーウィードの胸に抱かれたから、そっちを選びたいのかい?」
「そ、そんなつもりは……って、やっぱり聞いていたんですね、エリヴァルは」

「レッスン室の前で、艶っぽい演奏が流れていたからね。仲良き出来事は、今後の子作りに最適だよ」

 赤い宝石と果実をかたどったガラス細工をリリスの耳に付け、水色の鳥の意匠が施された耳飾りを自分に。それから少し不満そうにルージュを付けて、赤くなったリリスの唇を染めていった。
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