宇宙装甲戦艦ハンニバル ――宇宙S級提督への野望――

黒鯛の刺身♪

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【第一章】青い地球

第五十四話……デスペナルティ

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「……ゲームの中で地球を見たって?」



「見たんだよ、あれはきっと地球だと思う」



「そりゃあ、ゲームを作った人がそういうものを作っただけじゃないか?」



 私はゲームを薦めてくれた兄に電話をしていた。





「他にも前に、コンビニのTVでゲームの宇宙船を見たんだよ」



「……」



私はまくし立ててしゃべる。

兄は意外と冷静に聞いてくれた。



……ゲームの中での話にも、うんうんと頷いてくれた。





「じゃあそういう現実もあるんだろうな……」

「ぇ!?」



 私は驚く。

 リアリストな兄なら、そんなのは空想だと笑って否定してくれることを期待していた自分がどこかにいたのだ……。





「カズヤ……重力って知っているか?」

「知ってるよ、そんなもの……」



「じゃあ、説明してみろ!」



「えと、……」



 説明できなかった。

 身近な事象が当たり前だと思い、深く考えることを私はしてこなかったのだ。





「今の人類には重力もはっきり説明できないんだ」

「今いる空間は4次元までしか人類は説明できないけど、もっと多次元の存在の可能性は大いにあるし、むしろ精神の世界も否定されたわけじゃない」



 ……兄が言うことはこうだった。



 我々の説明できる範囲は4次元まで。

 しかし、宇宙を全て説明するには5次元以上の事象が必要である。

 もしかするとVRゲームの世界が、その5次元以上の向こうの世界であることも否定できないということだった……。





「……じゃあ、ゲームの世界で死んだらどうなるんだろ?」



「それは分からないけど、とてもリアリティ溢れる世界なら、それに応じたペナルティがあるかもしれないな……」



「…………」



「……」



 兄と電話を終えた後、PCでこのゲームのマニュアルを読んだ。



 ……ゲーム内の死について、一切表記が無い。

 デスペナルティがあるとかお金が半分になるとか、一切書かれていなかったのだ。



 突然心配になり、ネットでも情報を調べてみたが、とくにそれらしき記事も無かった。







 ……もし、ゲーム内の死が、リアルの自分の精神の死に直結していたら。





 しかし、ひとしきり考えた後。

 私は再びゲーム用のカプセルに入ることに決めた。



 それは生活費を稼ぐという社会的使命以外に、もはやある程度の私の幸せが、このゲームの中の世界にあることを私が本能的に知っていたからだった。





 ……結局、リスクに応じたリターン。

 きっと世界はそういうふうにできているんだろう……。



 カプセルに入った私はそう自分に言い聞かせつつ、だんだんと白い煙に包まれ、意識をゲームの世界に移した。

☆★☆★☆



「アルデンヌ星系を支配下に置いてほしい?」



 超光速ビデオチャットで、私は蛮王様と話していた。



 説明がややこしいので、アルデンヌ星系のワームホールが私の故郷と繋がっているかもしれないと伝えた。



 ……もしかしたら、真実かもしれないが。

 もし、真実だった時に備え、信頼できる人に統治してほしかったのだ。



 もし、この世界の進んだ軍事力が地球の方に向いたら、地球はアッという間に占領されてしまうだろう。

 レーザービームが飛びかい、宇宙戦艦が跳梁跋扈する世界に勝てるわけがないのだ。





「……うーん、多分お金がいるなぁ……」

「え?」



 顔をしかめた蛮王様が言うには、アルデンヌ星系は帝国の重要軍事拠点だが、人はほぼ住んでおらず、経済的価値は低い。

 よって、星系の開発利権を購入するという形でならあるていど支配が出来るという。



 しかし、それは関連する軍上層部や政府高官に莫大な賄賂が必要とのことだった。

 ……まずは関係構築からといったところなのだろう。





 そして、今の私にその資金余力は疑わしかった。



 今までの投資はある程度収益が見込めたのだ。

 しかし、軍事的にしか価値のない星系に投資するのは、ハンニバル開発公社としては難しかったのだ。



 現在のハンニバル開発公社はかなり大きくなっており、その株式の6割は普通の民間の方が持っている状況だった。

 株主を説得できる利益要素が全くない投資案件だった。





「もっと会社を大きくすればいいんですわ!」

「そうしたら、小さな不採算事業もできますわ♪」



「そのとおりポコ!」

「もっとお金を稼ぐニャ♪」



 みんなに励まされる

 ……そうだった。



 この世界の私は、現実世界のような一介のサラリーマンではない。

 むしろ大きな会社の社長であるのだ。

 さらに言えば、大きな武力や船もあるのだ。





「もっと稼いで見せます!」



「期待しているよ!」



 胸を張って宣言する私に、蛮王様は満面の笑みで答えてくれた。



 その言葉に甘えて、新規ミスリル鉱山やアダマンタイト鉱区への投資資金を、蛮王様から大量に借り付けることにした。





「……また借金ですか?」



 副官のクリームヒルトさんは口をへの字にする。

 明らかにご機嫌斜めだ。





「借金大王ポコ!!」

「貧乏人は嫌いニャ!」



 しかし私は、再び大きな借金をして、エールパ星域の開発を一気に推し進めた。

 足りないものはハンニバルで他星系まで出向き、大量に取り寄せた。

 お金で買える小さな権利関係も、次から次へと購入していった。



 ……そういった開発案件に追われ、2か月はあっという間に過ぎていった。







☆★☆★☆



 惑星アトラスに戻った私は、あるていど傷が回復したという設定だった。





「新しい油井が出来たポコ!」



「新規開発鉱区から金が採掘されましたわ!」



 軍には復帰していないが、ハンニバル開発公社の社長としてやることは沢山あった。

 そして、たまには皆とも楽しく過ごす休日も作った。





 ……PIPIPI

 蛮王様から超光速ビデオチャットが入る。





「……何の御用でしょう?」



 もはや私は完全に商人の態だ。

 軍務はほぼしていないので仕方は無いのだが……。



 多分用事は開発案件だろうとおもった。





「……」



「え?」



「准将に昇進だ!」



「あ……ありがとうございます!」





 なんだか分からないが、遂に将官への道が開ける。



 その時の私は、まさに正式な提督への階段を一歩踏み出そうとしていた。

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