54 / 148
【第一章】青い地球
第五十四話……デスペナルティ
しおりを挟む
「……ゲームの中で地球を見たって?」
「見たんだよ、あれはきっと地球だと思う」
「そりゃあ、ゲームを作った人がそういうものを作っただけじゃないか?」
私はゲームを薦めてくれた兄に電話をしていた。
「他にも前に、コンビニのTVでゲームの宇宙船を見たんだよ」
「……」
私はまくし立ててしゃべる。
兄は意外と冷静に聞いてくれた。
……ゲームの中での話にも、うんうんと頷いてくれた。
「じゃあそういう現実もあるんだろうな……」
「ぇ!?」
私は驚く。
リアリストな兄なら、そんなのは空想だと笑って否定してくれることを期待していた自分がどこかにいたのだ……。
「カズヤ……重力って知っているか?」
「知ってるよ、そんなもの……」
「じゃあ、説明してみろ!」
「えと、……」
説明できなかった。
身近な事象が当たり前だと思い、深く考えることを私はしてこなかったのだ。
「今の人類には重力もはっきり説明できないんだ」
「今いる空間は4次元までしか人類は説明できないけど、もっと多次元の存在の可能性は大いにあるし、むしろ精神の世界も否定されたわけじゃない」
……兄が言うことはこうだった。
我々の説明できる範囲は4次元まで。
しかし、宇宙を全て説明するには5次元以上の事象が必要である。
もしかするとVRゲームの世界が、その5次元以上の向こうの世界であることも否定できないということだった……。
「……じゃあ、ゲームの世界で死んだらどうなるんだろ?」
「それは分からないけど、とてもリアリティ溢れる世界なら、それに応じたペナルティがあるかもしれないな……」
「…………」
「……」
兄と電話を終えた後、PCでこのゲームのマニュアルを読んだ。
……ゲーム内の死について、一切表記が無い。
デスペナルティがあるとかお金が半分になるとか、一切書かれていなかったのだ。
突然心配になり、ネットでも情報を調べてみたが、とくにそれらしき記事も無かった。
……もし、ゲーム内の死が、リアルの自分の精神の死に直結していたら。
しかし、ひとしきり考えた後。
私は再びゲーム用のカプセルに入ることに決めた。
それは生活費を稼ぐという社会的使命以外に、もはやある程度の私の幸せが、このゲームの中の世界にあることを私が本能的に知っていたからだった。
……結局、リスクに応じたリターン。
きっと世界はそういうふうにできているんだろう……。
カプセルに入った私はそう自分に言い聞かせつつ、だんだんと白い煙に包まれ、意識をゲームの世界に移した。
☆★☆★☆
「アルデンヌ星系を支配下に置いてほしい?」
超光速ビデオチャットで、私は蛮王様と話していた。
説明がややこしいので、アルデンヌ星系のワームホールが私の故郷と繋がっているかもしれないと伝えた。
……もしかしたら、真実かもしれないが。
もし、真実だった時に備え、信頼できる人に統治してほしかったのだ。
もし、この世界の進んだ軍事力が地球の方に向いたら、地球はアッという間に占領されてしまうだろう。
レーザービームが飛びかい、宇宙戦艦が跳梁跋扈する世界に勝てるわけがないのだ。
「……うーん、多分お金がいるなぁ……」
「え?」
顔をしかめた蛮王様が言うには、アルデンヌ星系は帝国の重要軍事拠点だが、人はほぼ住んでおらず、経済的価値は低い。
よって、星系の開発利権を購入するという形でならあるていど支配が出来るという。
しかし、それは関連する軍上層部や政府高官に莫大な賄賂が必要とのことだった。
……まずは関係構築からといったところなのだろう。
そして、今の私にその資金余力は疑わしかった。
今までの投資はある程度収益が見込めたのだ。
しかし、軍事的にしか価値のない星系に投資するのは、ハンニバル開発公社としては難しかったのだ。
現在のハンニバル開発公社はかなり大きくなっており、その株式の6割は普通の民間の方が持っている状況だった。
株主を説得できる利益要素が全くない投資案件だった。
「もっと会社を大きくすればいいんですわ!」
「そうしたら、小さな不採算事業もできますわ♪」
「そのとおりポコ!」
「もっとお金を稼ぐニャ♪」
みんなに励まされる
……そうだった。
この世界の私は、現実世界のような一介のサラリーマンではない。
むしろ大きな会社の社長であるのだ。
さらに言えば、大きな武力や船もあるのだ。
「もっと稼いで見せます!」
「期待しているよ!」
胸を張って宣言する私に、蛮王様は満面の笑みで答えてくれた。
その言葉に甘えて、新規ミスリル鉱山やアダマンタイト鉱区への投資資金を、蛮王様から大量に借り付けることにした。
「……また借金ですか?」
副官のクリームヒルトさんは口をへの字にする。
明らかにご機嫌斜めだ。
「借金大王ポコ!!」
「貧乏人は嫌いニャ!」
しかし私は、再び大きな借金をして、エールパ星域の開発を一気に推し進めた。
足りないものはハンニバルで他星系まで出向き、大量に取り寄せた。
お金で買える小さな権利関係も、次から次へと購入していった。
……そういった開発案件に追われ、2か月はあっという間に過ぎていった。
☆★☆★☆
惑星アトラスに戻った私は、あるていど傷が回復したという設定だった。
「新しい油井が出来たポコ!」
「新規開発鉱区から金が採掘されましたわ!」
軍には復帰していないが、ハンニバル開発公社の社長としてやることは沢山あった。
そして、たまには皆とも楽しく過ごす休日も作った。
……PIPIPI
蛮王様から超光速ビデオチャットが入る。
「……何の御用でしょう?」
もはや私は完全に商人の態だ。
軍務はほぼしていないので仕方は無いのだが……。
多分用事は開発案件だろうとおもった。
「……」
「え?」
「准将に昇進だ!」
「あ……ありがとうございます!」
なんだか分からないが、遂に将官への道が開ける。
その時の私は、まさに正式な提督への階段を一歩踏み出そうとしていた。
「見たんだよ、あれはきっと地球だと思う」
「そりゃあ、ゲームを作った人がそういうものを作っただけじゃないか?」
私はゲームを薦めてくれた兄に電話をしていた。
「他にも前に、コンビニのTVでゲームの宇宙船を見たんだよ」
「……」
私はまくし立ててしゃべる。
兄は意外と冷静に聞いてくれた。
……ゲームの中での話にも、うんうんと頷いてくれた。
「じゃあそういう現実もあるんだろうな……」
「ぇ!?」
私は驚く。
リアリストな兄なら、そんなのは空想だと笑って否定してくれることを期待していた自分がどこかにいたのだ……。
「カズヤ……重力って知っているか?」
「知ってるよ、そんなもの……」
「じゃあ、説明してみろ!」
「えと、……」
説明できなかった。
身近な事象が当たり前だと思い、深く考えることを私はしてこなかったのだ。
「今の人類には重力もはっきり説明できないんだ」
「今いる空間は4次元までしか人類は説明できないけど、もっと多次元の存在の可能性は大いにあるし、むしろ精神の世界も否定されたわけじゃない」
……兄が言うことはこうだった。
我々の説明できる範囲は4次元まで。
しかし、宇宙を全て説明するには5次元以上の事象が必要である。
もしかするとVRゲームの世界が、その5次元以上の向こうの世界であることも否定できないということだった……。
「……じゃあ、ゲームの世界で死んだらどうなるんだろ?」
「それは分からないけど、とてもリアリティ溢れる世界なら、それに応じたペナルティがあるかもしれないな……」
「…………」
「……」
兄と電話を終えた後、PCでこのゲームのマニュアルを読んだ。
……ゲーム内の死について、一切表記が無い。
デスペナルティがあるとかお金が半分になるとか、一切書かれていなかったのだ。
突然心配になり、ネットでも情報を調べてみたが、とくにそれらしき記事も無かった。
……もし、ゲーム内の死が、リアルの自分の精神の死に直結していたら。
しかし、ひとしきり考えた後。
私は再びゲーム用のカプセルに入ることに決めた。
それは生活費を稼ぐという社会的使命以外に、もはやある程度の私の幸せが、このゲームの中の世界にあることを私が本能的に知っていたからだった。
……結局、リスクに応じたリターン。
きっと世界はそういうふうにできているんだろう……。
カプセルに入った私はそう自分に言い聞かせつつ、だんだんと白い煙に包まれ、意識をゲームの世界に移した。
☆★☆★☆
「アルデンヌ星系を支配下に置いてほしい?」
超光速ビデオチャットで、私は蛮王様と話していた。
説明がややこしいので、アルデンヌ星系のワームホールが私の故郷と繋がっているかもしれないと伝えた。
……もしかしたら、真実かもしれないが。
もし、真実だった時に備え、信頼できる人に統治してほしかったのだ。
もし、この世界の進んだ軍事力が地球の方に向いたら、地球はアッという間に占領されてしまうだろう。
レーザービームが飛びかい、宇宙戦艦が跳梁跋扈する世界に勝てるわけがないのだ。
「……うーん、多分お金がいるなぁ……」
「え?」
顔をしかめた蛮王様が言うには、アルデンヌ星系は帝国の重要軍事拠点だが、人はほぼ住んでおらず、経済的価値は低い。
よって、星系の開発利権を購入するという形でならあるていど支配が出来るという。
しかし、それは関連する軍上層部や政府高官に莫大な賄賂が必要とのことだった。
……まずは関係構築からといったところなのだろう。
そして、今の私にその資金余力は疑わしかった。
今までの投資はある程度収益が見込めたのだ。
しかし、軍事的にしか価値のない星系に投資するのは、ハンニバル開発公社としては難しかったのだ。
現在のハンニバル開発公社はかなり大きくなっており、その株式の6割は普通の民間の方が持っている状況だった。
株主を説得できる利益要素が全くない投資案件だった。
「もっと会社を大きくすればいいんですわ!」
「そうしたら、小さな不採算事業もできますわ♪」
「そのとおりポコ!」
「もっとお金を稼ぐニャ♪」
みんなに励まされる
……そうだった。
この世界の私は、現実世界のような一介のサラリーマンではない。
むしろ大きな会社の社長であるのだ。
さらに言えば、大きな武力や船もあるのだ。
「もっと稼いで見せます!」
「期待しているよ!」
胸を張って宣言する私に、蛮王様は満面の笑みで答えてくれた。
その言葉に甘えて、新規ミスリル鉱山やアダマンタイト鉱区への投資資金を、蛮王様から大量に借り付けることにした。
「……また借金ですか?」
副官のクリームヒルトさんは口をへの字にする。
明らかにご機嫌斜めだ。
「借金大王ポコ!!」
「貧乏人は嫌いニャ!」
しかし私は、再び大きな借金をして、エールパ星域の開発を一気に推し進めた。
足りないものはハンニバルで他星系まで出向き、大量に取り寄せた。
お金で買える小さな権利関係も、次から次へと購入していった。
……そういった開発案件に追われ、2か月はあっという間に過ぎていった。
☆★☆★☆
惑星アトラスに戻った私は、あるていど傷が回復したという設定だった。
「新しい油井が出来たポコ!」
「新規開発鉱区から金が採掘されましたわ!」
軍には復帰していないが、ハンニバル開発公社の社長としてやることは沢山あった。
そして、たまには皆とも楽しく過ごす休日も作った。
……PIPIPI
蛮王様から超光速ビデオチャットが入る。
「……何の御用でしょう?」
もはや私は完全に商人の態だ。
軍務はほぼしていないので仕方は無いのだが……。
多分用事は開発案件だろうとおもった。
「……」
「え?」
「准将に昇進だ!」
「あ……ありがとうございます!」
なんだか分からないが、遂に将官への道が開ける。
その時の私は、まさに正式な提督への階段を一歩踏み出そうとしていた。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-
半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる