新説・川中島『武田信玄』 ――甲山の猛虎・御旗盾無、御照覧あれ!――

黒鯛の刺身♪

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第一話……甲斐の山猿!?

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――1560年5月。

 二万五千の大軍を率いていた今川義元は、桶狭間にて織田信長の奇襲を受けて壊滅。
 駿遠三の太守であった義元は、あえない最期を遂げてしまった。

 今川と同盟関係にあった武田と北条の勢力は削がれ、この機を敏にみた関東管領の上杉謙信は関東の諸国に北条追討の檄を飛ばす!

 前管領、上杉憲政ら関東の諸将は新興勢力の北条に駆逐されて、以前より越後(新潟県)の謙信を頼っていたのだ。
 彼等の反撃の機会が到来していた。

 上杉謙信率いる一万二千の北国勢は三国峠を越えて、関東平野に登場。
 北条憎しと関東の諸将は謙信の元に集まり、その数は八万に達したとされる。

 『関東管領ここにあり!』である。


 謙信は北条の本拠小田原城(神奈川県)を囲むも、北国勢の補給線近くの佐久(長野県)の碓氷峠に武田勢が現れたために、北条方の町屋敷を焼き払ったうえで本拠地の越後へ帰陣。


「次は甲斐(山梨県)の山猿討伐よ!」

 若き謙信は咆えた。
 謙信は春日山城(新潟県上越市)を進発。
 北信の諸豪族も集い、一万六千の兵を従えて北信濃の川中島へ向かった。


 甲斐の山猿こと、武田信玄とは1553年以来、四回目の槍合わせであった。

――謙信は8月に運命の地、川中島に再び入る。



☆★☆★☆

「……甲斐の山猿!?」
「誰がじゃ!(怒)」

「出兵じゃ!!」


 武田信玄はあらかじめ整備して置いた狼煙台を用いて、謙信の動きを甲斐の躑躅ヶ崎館(山梨県甲府市)にて、僅か二時間半で知る(※注1)。


 彼は情報を掴むと素早く伝令馬を出し、甲斐の国の有力豪族である小山田や穴山、信濃の国の伊那衆、諏訪衆、佐久衆、木曽衆、安曇衆などの信濃先方衆を素早く招集。

 本拠地『躑躅ヶ崎』を立った時には僅か三千だった兵も、葛尾城あたりで真田幸隆の兵を加えたころには二万を超える軍勢となっていた。

 彼は高速通信である狼煙台以外にも、領内に棒道と言われる軍用道を整備していた(※注2)。


 ……まさに孫子の旗である【疾き事風の如く】とは周到な準備も含めた戦略だったのである。




☆★☆★☆

(注1)信玄の本拠地から川中島までは直線距離で100km以上もある。ちなみにここは日本アルプスで知られる長野県北部~山梨県の険しい山岳地帯。

(注2)信玄は棒道以外に、素早い伝令の為に各地で替えの馬も準備していた。


【一口信玄メモ】……

 川中島とは長野県の北部であり、実は謙信の本拠地である新潟県上越市の方が、信玄の本拠地である山梨県甲府市より遥かに近いのである。

 信濃北部(長野県)は信玄の支配地として知られるが、実は信玄からの方が遠かったというのがあまり知られていない当時の事情である。

 信玄が狼煙台や棒道を作って、少しでも遅れず川中島に着きたかった当時の苦労が偲ばれます……。
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