宇宙打撃空母クリシュナ ――異次元星域の傭兵軍師――

黒鯛の刺身♪

文字の大きさ
13 / 56

第十三話……家宰フランツ撃たれる!

しおりを挟む
「……では、会議を始めるぞ!」

 フランツさんが議長として、この会議を執り行う。
 セーラさんはまだ幼く、何にしろ誰か大人が補佐する必要がある年齢だった。


「先ほど墜落した宇宙船は、惑星ドーヌル所属の宇宙船であった。かの惑星は友邦であり、我が惑星アーバレストと同じく、マーダ連邦との前線から遠い惑星である」

「ほぉ、すると。敵はそんな奥地まで攻め込んできていると?」


 白髪の年長武官が、皆を代表するかのように質問する。
 それに対してフランツさんが答える。


「……かも知れぬ」

「かも知れぬでは困る! 市民の血税で軍隊はあるのですぞ、早急の対応を!」

 そう厳しくまくし立てるのは、蒼髪の女性である政務系の文官だ。
 しかし、それは道理だ。
 平時は何も役に立たない我々兵隊を、日々食わしてくれるのは一般市民。
 こういう時に役に立たない軍隊は、まるで存在意義が無い。


「至急調査されたし!」
「そうだ、そうだ!」

 今度は議会系の野党の代表から声が上がる。
 この惑星アーバレストは形式上議会を持っており、かなり複雑な政治形態を保っていた。

 ……議事運営するフランツさんの旗色が悪くなりかけたころ。


「件の墜落宇宙船より、生体反応ありとのことです!」

「味方か!?」

「いえ、敵の模様!」

「なんだと!? すぐ向かうぞ!」

 セーラさんに大丈夫だと小声で声をかけ、フランツさんは急いで席を立つ。
 そして、会議は一時中断する。


「カーヴ殿、一緒に来てもらいたい!」

「はっ!」

 私はフランツさんに従い、墜落した宇宙船の現場へと急行することとなった。



☆★☆★☆

 コロニーから砂漠を30km進んだ先に、件の宇宙船は残骸を横たえていた。
 未だに黒い煙が燻り、熱砂とは違う熱気を帯びていた。


「敵の生存者はどこだね?」

「この先になります!」

 警備兵に居場所を聞き、保護服を纏い船内へと入る。


「……〇△♯▼!」

 通路の奥から、喚き声のような敵の言語が聞こえる。


【システム通知】……読解に成功。
 副脳を介し、同時通訳を行います。

 すかさず私の副脳の【言語読解システム】が自動作動。
 私の大脳へと電気信号で音声情報を伝達してきた。


「……チカヅクナ!」

 紫色の皮膚に怪しく黄色に光る眼をしたマーダ連邦の兵士は、ひどく足を怪我しており、怯えながらに光線ブラスターを構えていた。


「カーヴ殿、話せるのか?」

「ええ、少しなら!」

 私はフランツさんに通訳を務めるよう言われる。


「君たちはどこから来た?」

「……イワヌ! ソレハ極秘ダ」

「話してくれたら、君を安全に解放しよう。是非教えてほしい」

 フランツさんは優しい身振りで、マーダ連邦の兵士との会話に務める。
 それは、とても温かい時間と感じた。


 ……そう、その雰囲気に、一瞬安心した私がいたのだ。

――ドシューン

 気の抜けたブラスターの音が響く。
 気が付くと、フランツさんは敵兵により左上腕部を撃ち抜かれていた。


「救護班急げ!」

 私の声が船内を木霊する。
 私はフランツさんの防護服を破り、肉をかき分け動脈を冷凍止血する。
 それと同時に、護衛の兵士が急いで敵兵をスタンガンで気絶させた。


「フランツさん、しっかり!」

「……ああ」

 フランツさんは意識が朦朧としているようだ。
 私は軍師と呼ばれ、少しいい気になっていた様だ。
 こんな簡単な護衛にも失敗するなんて……。

 彼がいなくては、この惑星アーバレストは立ち行かない。
 返す返すも、自分の油断を呪ったのだった。



☆★☆★☆

「フランツ、しっかり!」

「伯爵様、御下がりください!」

 急いで屋敷の救護室に運ばれてくるフランツさんの体に、走り寄るセーラさん。
 それを目にして、いたたまれない気持ちになる私。


「カーヴ、何やってたんですか!」

「……す、すいません」

 私は項垂れながら謝るしかなかった。



――数時間後。

「手術は無事成功しました!」

 医師団から説明があり、私とセーラさんはホッと胸をなでおろす。


「しかし、絶対安静が必要で、少なくとも3か月は政務につけないでしょう」

「……さ、3か月」

 敵が近いと予想される中、家宰であるフランツさんは3か月もの間、絶対安静とのことだった。


「カーヴ、私どうしたら……」

「私がお支えします。大丈夫です!」

 項垂れるセーラさんを優しく抱きしめ、嘘でもいいから力強く励ますことが、今できる精一杯のことだった。



☆★☆★☆

 私はセーラさんを彼女の私室に送り届けた後、敵兵が収容されている特殊な部屋へと向かった。


「あ、これは軍師殿!」

「通してくれ!」

「はっ!」

 衛兵に敬礼した後、重厚な扉を開き、中へと入る。

 マーダ連邦の兵士は眠っており。
 その特徴的な黄色い眼は、紫の厚い瞼に覆われていた。

 私は前腕から生体で出来た針を取り出し、敵兵のこめかみに突き刺す。


【システム通知】……敵思考パルスと同調成功。
 誤差0.000268%以下。
 記憶の解明に入ります。

 私には敵兵の中枢神経から、情報を奪う術を持っていたのだ。
 それは、地球連合軍の戦術生体兵器として生まれた私の業でもあったのだが……。


【システム通知】……敵の記憶データの複写に成功。
 データの解明及び、解凍作業に入ります。

 ……どうやら成功か!?

 私は、ぐったりと疲れ、その場に蹲った。
 この手の作業は、大変に神経を使うものだった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

戦国鍛冶屋のスローライフ!?

山田村
ファンタジー
延徳元年――織田信長が生まれる45年前。 神様の手違いで、俺は鹿島の佐田村、鍛冶屋の矢五郎の次男として転生した。 生まれた時から、鍛冶の神・天目一箇神の手を授かっていたらしい。 直道、6歳。 近くの道場で、剣友となる朝孝(後の塚原卜伝)と出会う。 その後、小田原へ。 北条家をはじめ、いろんな人と知り合い、 たくさんのものを作った。 仕事? したくない。 でも、趣味と食欲のためなら、 人生、悪くない。

酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ

天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。 ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。 そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。 よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。 そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。 こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。

処理中です...