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中編(アルファーロ公爵視点)
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我が一人娘エルネスタと王家の恥である第三王子パスクワルとの正式な婚約のために王宮へと伺候した。こんな婚約など断ってしまいたいが、公爵家としての責務がそれを邪魔する。
婚約の打診までに時間があれば、いや、それ以前に王家の動きを察知できていれば、エルネスタを一時的に修道院へ入れるなり、姉の嫁ぎ先の隣国に預けるなりが出来ただろう。それを為す時間がなかったことが悔やまれる。いや、王がそれをさせないために葬儀のその日に使者を送るという恥知らずな真似をしたのだ。
王家からの婚約の打診が第二王子や第四王子であれば、私もこれほどには忌避しない。そもそも第二王子や第四王子であれば、あんな非常識な婚約の使者を送る必要はない。第三王子だからこそ、あんな非常識なことをしなければならなかったのだ。
第三王子自身に非はない。彼自身は可もなく不可もない、平凡な少年だ。いずれは臣籍降下することも決まっているので、王太子殿下や第二王子殿下ほどの優秀さも必要ないから、これまで特に彼自身が問題視されたことはない。
問題なのは彼の両親だ。つまり、国王ブラウリオとその愛妾マノラ。マノラは平民で、ブラウリオが王太子時代にお忍びで出かけた酒場で出会った酌婦だ。なのにとち狂ったブラウリオはその女を王太子妃にするなどとぬかした。ブラウリオには我が家とは別の公爵家の令嬢が婚約者となっていた。現王妃アルセリア陛下だ。愛妾との爛れた生活に終始するブラウリオに変わり国政を担っているのがアルセリア陛下であり、歴代の王妃で唯一『殿下』ではなく『陛下』の尊称を許されている。
公爵家の令嬢で何の非もない、国家機密を除いた王妃教育を終えているアルセリアとの婚約解消は難しいと愚かなブラウリオでも判ったのだろう。ブラウリオはアルセリアに冤罪をかけることで彼女を断罪し、婚約破棄しようとした。尤も、元々あまり頭の宜しくないブラウリオだ。アルセリアと現公爵である弟によって冤罪はあっさりと晴れた。
だが、ブラウリオを溺愛する現王太后によって全てはなかったことにされ、彼らの婚約は継続された。とはいえ、人の口に戸は立てられぬ。それなりの規模の夜会の席で行われたブラウリオの愚行はほぼ全ての貴族の知るところとなり、王家の権威は墜ちた。
ブラウリオの廃嫡も検討されたが、前国王夫妻にはブラウリオしか子がなく、その他の王位継承権持ちは醜聞にまみれて権威が失墜した王家を背負うことを拒否した。結果、ブラウリオは王太子のままだった。
尤も、ブラウリオの資質に漸く不安を覚えた前国王陛下によって、王妃にも執政権が与えられ、アルセリアはブラウリオの即位と共に王妃陛下となった。前国王陛下や側近たち、後援となる大貴族たちに叱られたブラウリオは不満はあるものの一応反省はしたらしく、暫くは大人しくしていた。そうして、王太子妃となったアルセリアは第一王子と第二王子を産んだ。
第二王子が2歳となったころ前国王陛下が退位され、ブラウリオが国王となった。ブラウリオは箍が外れたかのように複数の側室を後宮に入れた。尤もこれは、側室を求めたブラウリオに対し、王妃アルセリア陛下や国の重鎮たちが選定した王妃補佐が可能な才色豊かな令嬢を入れたことで何も問題は起きなかった。
だが、ブラウリオは不満だったようだ。それもそのはず、彼が考えていた側室はマノラだったのだ。婚約破棄失敗後もブラウリオはマノラと切れていなかった。事件からしばらくは大人しくしていたブラウリオも数か月もすると我慢できなくなったらしく、マノラと縒りを戻していたらしい。
いくら国王であるブラウリオが望んでも平民であるマノラを側室には出来なかった。仕方なく全てをブラウリオの私費で賄う愛妾として後宮に迎え、マノラは一番小さな宮を与えられた。そうして生まれたのが第三王子パスクワルである。
パスクワルは母が平民の愛妾であり、王位継承権を持たない庶子扱いだ。一応王子と認められてはいるが、それは成人し学園を卒業するまで。成人したら臣籍降下しなければならない。尤も、愛妾の息子に与えられる爵位はない。成人後パスクワルは平民となることも決まっていた。
マノラは慌てた。自分たちの愛息が平民落ちなど許せるはずがないと言って、婿入り先を探し始めた。だが、ここで愛妾のくせにマノラが様々な条件を付けたのだ。最低でも侯爵家とか、同年齢か一つ年下までとか、大人しい娘とか。
国政を回しているのは王妃アルセリア陛下だ。その後ろ盾は筆頭公爵家の実家だ。婚約者時代にアルセリア陛下を侮辱したマノラの息子を受け入れたい貴族などいない。それなのに恥知らずたちが愛息の婚約者に望外な条件を付けたことで、これまでパスクワルは婚約者が決まらずにいたのだ。
そして、マノラには都合のいいことに、同年の公爵令嬢が婚約者を失った。これ幸いとパスクワルとの婚約を捻じ込んできたのだ。
「では、条件を受け入れるのですな?」
国王ブラウリオを前にして私は言い放つ。それにブラウリオは頷いた。
私は婚約に際して条件を出した。『婚姻後即病を得て数年後に病死させる』と。
ブラウリオは我が子への愛情を持たないから、面倒なパスクワルの押し付け先が見つかり、それにマノラが満足することだけが重要なのだろう。あっさりと私の通常ならば有り得ない条件を受け入れていた。こんな条件を突きつけた私が言うことではないが、パスクワルは両親に恵まれないな。
しかし、これは私にとっては譲れない条件なのだ。
平民の、しかもあんな下品な女の息子を我が系譜に迎え入れるなど、あの女の血を我が公爵家に入れるなど有り得ないことなのだから。
婚約の打診までに時間があれば、いや、それ以前に王家の動きを察知できていれば、エルネスタを一時的に修道院へ入れるなり、姉の嫁ぎ先の隣国に預けるなりが出来ただろう。それを為す時間がなかったことが悔やまれる。いや、王がそれをさせないために葬儀のその日に使者を送るという恥知らずな真似をしたのだ。
王家からの婚約の打診が第二王子や第四王子であれば、私もこれほどには忌避しない。そもそも第二王子や第四王子であれば、あんな非常識な婚約の使者を送る必要はない。第三王子だからこそ、あんな非常識なことをしなければならなかったのだ。
第三王子自身に非はない。彼自身は可もなく不可もない、平凡な少年だ。いずれは臣籍降下することも決まっているので、王太子殿下や第二王子殿下ほどの優秀さも必要ないから、これまで特に彼自身が問題視されたことはない。
問題なのは彼の両親だ。つまり、国王ブラウリオとその愛妾マノラ。マノラは平民で、ブラウリオが王太子時代にお忍びで出かけた酒場で出会った酌婦だ。なのにとち狂ったブラウリオはその女を王太子妃にするなどとぬかした。ブラウリオには我が家とは別の公爵家の令嬢が婚約者となっていた。現王妃アルセリア陛下だ。愛妾との爛れた生活に終始するブラウリオに変わり国政を担っているのがアルセリア陛下であり、歴代の王妃で唯一『殿下』ではなく『陛下』の尊称を許されている。
公爵家の令嬢で何の非もない、国家機密を除いた王妃教育を終えているアルセリアとの婚約解消は難しいと愚かなブラウリオでも判ったのだろう。ブラウリオはアルセリアに冤罪をかけることで彼女を断罪し、婚約破棄しようとした。尤も、元々あまり頭の宜しくないブラウリオだ。アルセリアと現公爵である弟によって冤罪はあっさりと晴れた。
だが、ブラウリオを溺愛する現王太后によって全てはなかったことにされ、彼らの婚約は継続された。とはいえ、人の口に戸は立てられぬ。それなりの規模の夜会の席で行われたブラウリオの愚行はほぼ全ての貴族の知るところとなり、王家の権威は墜ちた。
ブラウリオの廃嫡も検討されたが、前国王夫妻にはブラウリオしか子がなく、その他の王位継承権持ちは醜聞にまみれて権威が失墜した王家を背負うことを拒否した。結果、ブラウリオは王太子のままだった。
尤も、ブラウリオの資質に漸く不安を覚えた前国王陛下によって、王妃にも執政権が与えられ、アルセリアはブラウリオの即位と共に王妃陛下となった。前国王陛下や側近たち、後援となる大貴族たちに叱られたブラウリオは不満はあるものの一応反省はしたらしく、暫くは大人しくしていた。そうして、王太子妃となったアルセリアは第一王子と第二王子を産んだ。
第二王子が2歳となったころ前国王陛下が退位され、ブラウリオが国王となった。ブラウリオは箍が外れたかのように複数の側室を後宮に入れた。尤もこれは、側室を求めたブラウリオに対し、王妃アルセリア陛下や国の重鎮たちが選定した王妃補佐が可能な才色豊かな令嬢を入れたことで何も問題は起きなかった。
だが、ブラウリオは不満だったようだ。それもそのはず、彼が考えていた側室はマノラだったのだ。婚約破棄失敗後もブラウリオはマノラと切れていなかった。事件からしばらくは大人しくしていたブラウリオも数か月もすると我慢できなくなったらしく、マノラと縒りを戻していたらしい。
いくら国王であるブラウリオが望んでも平民であるマノラを側室には出来なかった。仕方なく全てをブラウリオの私費で賄う愛妾として後宮に迎え、マノラは一番小さな宮を与えられた。そうして生まれたのが第三王子パスクワルである。
パスクワルは母が平民の愛妾であり、王位継承権を持たない庶子扱いだ。一応王子と認められてはいるが、それは成人し学園を卒業するまで。成人したら臣籍降下しなければならない。尤も、愛妾の息子に与えられる爵位はない。成人後パスクワルは平民となることも決まっていた。
マノラは慌てた。自分たちの愛息が平民落ちなど許せるはずがないと言って、婿入り先を探し始めた。だが、ここで愛妾のくせにマノラが様々な条件を付けたのだ。最低でも侯爵家とか、同年齢か一つ年下までとか、大人しい娘とか。
国政を回しているのは王妃アルセリア陛下だ。その後ろ盾は筆頭公爵家の実家だ。婚約者時代にアルセリア陛下を侮辱したマノラの息子を受け入れたい貴族などいない。それなのに恥知らずたちが愛息の婚約者に望外な条件を付けたことで、これまでパスクワルは婚約者が決まらずにいたのだ。
そして、マノラには都合のいいことに、同年の公爵令嬢が婚約者を失った。これ幸いとパスクワルとの婚約を捻じ込んできたのだ。
「では、条件を受け入れるのですな?」
国王ブラウリオを前にして私は言い放つ。それにブラウリオは頷いた。
私は婚約に際して条件を出した。『婚姻後即病を得て数年後に病死させる』と。
ブラウリオは我が子への愛情を持たないから、面倒なパスクワルの押し付け先が見つかり、それにマノラが満足することだけが重要なのだろう。あっさりと私の通常ならば有り得ない条件を受け入れていた。こんな条件を突きつけた私が言うことではないが、パスクワルは両親に恵まれないな。
しかし、これは私にとっては譲れない条件なのだ。
平民の、しかもあんな下品な女の息子を我が系譜に迎え入れるなど、あの女の血を我が公爵家に入れるなど有り得ないことなのだから。
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