上 下
27 / 35
1章 チュートリアル

25話 魔王、ハノス

しおりを挟む
 (まったく腹立たしい。なんなのだこいつらは。どいつもこいつも我の眠りの邪魔じゃまばかりしおって。)

 魔王、ハノスは侵入者しんにゅうしゃと手下の攻撃を受け流し、攻撃しながらそんなことを考えていた。

 (…それにしても)

 ハノスは侵入者の1人、自分を「ついでに」倒すと宣言した男の持つ剣を見た。

 (あれは一体何だ。我に傷をつけた、あの剣は)

 ダメージはそこまで無かったものの、傷を負った事実に警戒けいかいくことはできない。

 (まずはあいつから始末しまつしておくべきか)

 すると、戦闘が始まってから一歩も歩かなかったハノスが、突然黒くかがやく剣を持った男、冬志へ向かって走った。

 唐突とうとつな行動の変化に冬志は一瞬あせりをみせる。しかし、すぐに構え、反撃の態勢たいせいになる。

 目の前までせまった瞬間…

 ハノスは、平野に1人飛ばされていた。

 (これは召喚魔法…いや、あの男のスキルか)

 地面に先ほどまでの戦闘のが残っている。

「こんなもので我をだまし切れると思うなよ。大男」

 しかし、いつまでもこんな日当たりのいい場所にいてはたまらない。早急さっきゅうに戻る必要がある。

「無駄に面倒を増やすな、愚物ぐぶつどもが」

 直後、ハノスの周りに無数に紫色の光が現れた。

 光は四方八方しほうはっぽうに飛びい、平野を破壊していく。数秒後、平野の幻影げんえいは消え、元の部屋へ戻っていた。

 ___誰もいない。

 (あのすきに逃げたか、あるいは)

 紫色の光を周りの彫像ちょうぞうへ飛ばす。破壊された彫像の後ろには誰もいない。

「ふん、大口を叩いた割には大したことはなかったな」

「それはどうかな」

 不意ふいに上から声が聞こえた。

 見上げる。が、誰もいない。

「こっちだ」

 今度は下、足下から声がした。見ると、冬志がかがんで剣を構えている。首を狙った横一閃よこいっせん。左腕で防ぐ。しかし、攻撃は背後からきた。『闇撃やみうち』だ。

 首に少しの傷を負い、反撃に出る。どこから取り出したのか、大きな禍々まがまがしい大剣を片手で振り下ろす。

 しかし、今までそこにいた冬志の姿は無くなっている。

 反応が遅れ、一瞬動きが止まる。その一瞬をダイフィルトとウル太郎が見逃さず、左右から攻撃を仕掛ける。ダイフィルトは鉄槌てっついの様な打撃だげきを、ウル太郎はあざやかな斬撃ざんげきを繰り出す。

 打撃を腕で防ぎ、斬撃を大剣でいなす。しかし、

「ちっ、馬鹿力が」

 少しずつダイフィルトの打撃に押され始める。

 紫色の光を飛ばし、ダイフィルトを後退こうたいさせた隙にウル太郎に攻撃を始める。ウル太郎は危険を察知し、すぐさま防御姿勢をとる。

「勘はいいが、その程度の防御に意味はない」

 大剣を横に振り、ウル太郎の胴体どうたいを狙う。

 当たる直前、何か柔らかい物体が大剣の動きをにぶらせた。

 …スライムだ。カルミアが召喚した複数のスライムが壁になり斬撃の威力をゆるめたのだ。

 それでも殺しきれない威力を冬志とウル太郎が防ぐ。

 無理矢理むりやり押し込もうとした瞬間、2人が消え、態勢をくずす。そこに光をまぬがれたダイフィルトが大鉈を叩きつける。大剣で防ぐが、態勢が悪い、上から体重を乗せてくるダイフィルトに押される。

「この…早よやられろやぁ!」

 ダイフィルトが更に力を入れてくる。踏ん張る足下に冬志が走り込んでくる。ふくらはぎを切られ、力が抜けて更に態勢が悪くなる。

 焦るハノスは自分の体を中心に、紫色の光を膨張ぼうちょうさせた。ダイフィルトと冬志はすぐさま後退。

「ウル太郎!カルミアを頼む!」

 ウル太郎がうなずき、カルミアを連れてその場を離れる。

 *

 およそ6階建ての魔王城、その最上階にあった魔王のいた部屋。そこから放たれた光によって、城は球状に破壊された。

 天井は無くなり、3階の床まで消え去っていた。

「危なかった…全員無事か?」

「うん、4人とも無事よ。スライム達も別のところに移した」

 4人は窓から飛び出し、カルミアの転送で3人が無事着地。冬志が落ちてきたカルミアをキャッチしてなんとか逃げ延びた。

 中にいる勇者2人は大丈夫だろうか。そういえば、外で戦っているであろう遼馬はいつになったら来るのだろうか。あれだけ自信満々に言っていたのだ。まさかやられている訳じゃ…

「貴様ら、まだ生きているのか。しぶとい奴らだ」

 少し疲れ気味に魔王がそう言った。
しおりを挟む

処理中です...