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32 逃げ続けた俺の選択
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「っ……」
体が重くなる。ずっと立っていたはずなのに、ようやく地に足がついたような感覚。俺は、長い夢でも見ていたのだろうか。夢であって、欲しかった。
「分かったケロ? これが新宮結の全て。君は忘れているだろうが、確かに新宮未来はこの村に存在し、君たちと同じ時を刻んだケロ。未来は言葉通り、身を削って君たちを守った。でも君たちは恩を仇以上で返した。恨まれて当然、ケロ」
木箱はウサギの口に加えられ、俺の手から逃げるように三笠木七葉の鞄に戻った。混乱した俺は開いたかじかんだ手で頭を押さえた。
「で、でも俺……いじめなんて、覚えてない……」
「だーかーらー! 何度も言わせるなぴょん!」
「でも! 本当に覚えてないんだ! これっぽっちも、何にもないんだよ!」
「いいか、ケロ? 記憶消去と記憶喪失は全くの別物ケロ。記憶喪失は頭の中に記憶の欠片が残ることが多い。だから何かの衝撃で記憶を思い出すことがあるんだケロ」
「しかし心操術式で発生する記憶消去は脳内の全てから指定した記憶を消し去る。だから思い出すことはない。誰に何を言われようと、記憶に違和感を感じても、決して思い出すことはない。だってそんなこと、頭の中に存在したという事実が消えているからケロ」
「そ、そうなんだ……」
不安定な返事が漏れる。一年前にそんなことがあったなんて未だに信じられない。だって、覚えてないんだもの。
高校一年生の春、転校生が来た。そんな重大ニュース、どんな馬鹿でも忘れる訳ないのに。
「でも、覚えてないじゃすまされないケロ。例え記憶がなくなっても、事実は消えない。君らがしらばっくれても未来が死んだという事実は変わらない。過去を変える術式を生み出さない以上、君も立派な殺人鬼だ」
「…………」
返す言葉もなかった。昨日、新宮にはなった言葉が全て自分に跳ね返ってくる。
信じられないけど、信じなくてはいけない。俺は、俺たちは、新宮に恨まれて当然の人間だ。
「妖術師は自己犠牲に溢れた正義のヒーローじゃないぴょん。だから私は……三笠木七葉はムスキチの味方をするぴょん。三笠木七葉は頑
張る人間を否定したくない。でも……君はどうしたいぴょん?」
「俺……ですか……?」
そんなの決まってる。これ以上被害者を出さないで欲しい。もう誰も死んで欲しくない。
でも。
「俺だって、死にたくない……皆にも、死んでほしくない……でも……俺たちが死ねば……新宮は満足するのかな……」
楽な道を選び続け、何の努力もしなかった俺は、姉の為にそこまで頑張れる新宮を、素直に凄いと思った。そして、否定できない。
新宮は俺達なんかよりずっと、生きるにふさわしい人間だ。俺たちがいなくなればきっと、新宮は元の正義感と自己犠牲溢れるヒーローに戻るはず。
……そもそも、俺達さえいなければ新宮は苦しむことなかった。人間を辞めることも、無理に笑うことも、ここに来ることもなかった。
本当の殺人鬼は、俺達なんだ。
「……ムスキチは言ってたぴょん。善人が報われる世界を望むと。だから三笠木七葉は望んだ。結のような頑張る人間が報われる世界を。だって……そんなのおかしいぴょん。どうして他人の為に頑張り続けた未来や結が傷つき続け、お前らみたいなクソが平和に生き続けるんだぴょん?」
「…………」
返す言葉もなかった。俺だって死にたくない。でも死んで当然の人間だとは思っている。
「三笠木七葉は寂しかったケロ……久しぶりに会った結は、三笠木七葉の知っている結じゃなかったケロ……本当は、三笠木七葉は結に笑って欲しいだけなんだケロ。だから結の願いを叶えるべきだと思ってた……でも時折、三笠木七葉は考えてしまうケロ。今の結を未来が見たら……どう思うだろうって、ケロ」
「…………」
知っているはずなのに、知らない。新宮未来という人物。俺たちが殺してしまった、世界一の善人。
「お前らは屑ぴょん。でも、そんな屑でも未来は最後まで君たちを守ろうとした。それを壊すのは……未来の意思に反する……。三笠木七葉は分からない……何が正解で、何が悪で、何が正義か……」
パペット達の声は、身体は、震えていた。理由は明白。主の三笠木七葉に迷いがあるから。
「……三笠木さんは、俺のことを恨んでる?」
「勿論ぴょん」
声は真っすぐで、即答。当然のことだが、声にならない声が出そうになった。
「君が未来に対して何をしたかは分からないし、確かめようもない。それでも君は立派な加害者ケロ。この村に住む全ての人間が、未来を
追い込み、自殺へと導いた。未来のおかげで生きていた人間が、ケロ」
「っ……」
「すべてを知った君には選択肢があるケロ。一つはその命をもって償うこと、もう一つは今すぐこの村から出て行くこと。この村の危険度はレベル4。生憎、結はこの村から離れられない。逃げるなら今ケロ。……ここまで付き合わせたお詫びケロ。特別に、見逃してあげなくもないケロ」
新宮と出会う前の俺だったら、纏わず逃げることを選んでいただろう。
友達も、爺ちゃんも、婆ちゃんも捨てて、自分だけが助かることを望んだ。
だけど。
「とても、自分勝手で、どうしようもないけれど……選択肢を増やしてもいい?」
「……残念ながら、三笠木七葉は頑張る人の味方ぴょん。君が、それ相応の覚悟を決めたのならば、三笠木七葉は喜んで協力しよう。さぁ、君は自分の意思で、何を選ぶぴょん?」
体が重くなる。ずっと立っていたはずなのに、ようやく地に足がついたような感覚。俺は、長い夢でも見ていたのだろうか。夢であって、欲しかった。
「分かったケロ? これが新宮結の全て。君は忘れているだろうが、確かに新宮未来はこの村に存在し、君たちと同じ時を刻んだケロ。未来は言葉通り、身を削って君たちを守った。でも君たちは恩を仇以上で返した。恨まれて当然、ケロ」
木箱はウサギの口に加えられ、俺の手から逃げるように三笠木七葉の鞄に戻った。混乱した俺は開いたかじかんだ手で頭を押さえた。
「で、でも俺……いじめなんて、覚えてない……」
「だーかーらー! 何度も言わせるなぴょん!」
「でも! 本当に覚えてないんだ! これっぽっちも、何にもないんだよ!」
「いいか、ケロ? 記憶消去と記憶喪失は全くの別物ケロ。記憶喪失は頭の中に記憶の欠片が残ることが多い。だから何かの衝撃で記憶を思い出すことがあるんだケロ」
「しかし心操術式で発生する記憶消去は脳内の全てから指定した記憶を消し去る。だから思い出すことはない。誰に何を言われようと、記憶に違和感を感じても、決して思い出すことはない。だってそんなこと、頭の中に存在したという事実が消えているからケロ」
「そ、そうなんだ……」
不安定な返事が漏れる。一年前にそんなことがあったなんて未だに信じられない。だって、覚えてないんだもの。
高校一年生の春、転校生が来た。そんな重大ニュース、どんな馬鹿でも忘れる訳ないのに。
「でも、覚えてないじゃすまされないケロ。例え記憶がなくなっても、事実は消えない。君らがしらばっくれても未来が死んだという事実は変わらない。過去を変える術式を生み出さない以上、君も立派な殺人鬼だ」
「…………」
返す言葉もなかった。昨日、新宮にはなった言葉が全て自分に跳ね返ってくる。
信じられないけど、信じなくてはいけない。俺は、俺たちは、新宮に恨まれて当然の人間だ。
「妖術師は自己犠牲に溢れた正義のヒーローじゃないぴょん。だから私は……三笠木七葉はムスキチの味方をするぴょん。三笠木七葉は頑
張る人間を否定したくない。でも……君はどうしたいぴょん?」
「俺……ですか……?」
そんなの決まってる。これ以上被害者を出さないで欲しい。もう誰も死んで欲しくない。
でも。
「俺だって、死にたくない……皆にも、死んでほしくない……でも……俺たちが死ねば……新宮は満足するのかな……」
楽な道を選び続け、何の努力もしなかった俺は、姉の為にそこまで頑張れる新宮を、素直に凄いと思った。そして、否定できない。
新宮は俺達なんかよりずっと、生きるにふさわしい人間だ。俺たちがいなくなればきっと、新宮は元の正義感と自己犠牲溢れるヒーローに戻るはず。
……そもそも、俺達さえいなければ新宮は苦しむことなかった。人間を辞めることも、無理に笑うことも、ここに来ることもなかった。
本当の殺人鬼は、俺達なんだ。
「……ムスキチは言ってたぴょん。善人が報われる世界を望むと。だから三笠木七葉は望んだ。結のような頑張る人間が報われる世界を。だって……そんなのおかしいぴょん。どうして他人の為に頑張り続けた未来や結が傷つき続け、お前らみたいなクソが平和に生き続けるんだぴょん?」
「…………」
返す言葉もなかった。俺だって死にたくない。でも死んで当然の人間だとは思っている。
「三笠木七葉は寂しかったケロ……久しぶりに会った結は、三笠木七葉の知っている結じゃなかったケロ……本当は、三笠木七葉は結に笑って欲しいだけなんだケロ。だから結の願いを叶えるべきだと思ってた……でも時折、三笠木七葉は考えてしまうケロ。今の結を未来が見たら……どう思うだろうって、ケロ」
「…………」
知っているはずなのに、知らない。新宮未来という人物。俺たちが殺してしまった、世界一の善人。
「お前らは屑ぴょん。でも、そんな屑でも未来は最後まで君たちを守ろうとした。それを壊すのは……未来の意思に反する……。三笠木七葉は分からない……何が正解で、何が悪で、何が正義か……」
パペット達の声は、身体は、震えていた。理由は明白。主の三笠木七葉に迷いがあるから。
「……三笠木さんは、俺のことを恨んでる?」
「勿論ぴょん」
声は真っすぐで、即答。当然のことだが、声にならない声が出そうになった。
「君が未来に対して何をしたかは分からないし、確かめようもない。それでも君は立派な加害者ケロ。この村に住む全ての人間が、未来を
追い込み、自殺へと導いた。未来のおかげで生きていた人間が、ケロ」
「っ……」
「すべてを知った君には選択肢があるケロ。一つはその命をもって償うこと、もう一つは今すぐこの村から出て行くこと。この村の危険度はレベル4。生憎、結はこの村から離れられない。逃げるなら今ケロ。……ここまで付き合わせたお詫びケロ。特別に、見逃してあげなくもないケロ」
新宮と出会う前の俺だったら、纏わず逃げることを選んでいただろう。
友達も、爺ちゃんも、婆ちゃんも捨てて、自分だけが助かることを望んだ。
だけど。
「とても、自分勝手で、どうしようもないけれど……選択肢を増やしてもいい?」
「……残念ながら、三笠木七葉は頑張る人の味方ぴょん。君が、それ相応の覚悟を決めたのならば、三笠木七葉は喜んで協力しよう。さぁ、君は自分の意思で、何を選ぶぴょん?」
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