ケモノだから王族を追放されたけど存外元気にやってます~国家もなにもかも全ては模倣から始まる~

岸谷 畔

文字の大きさ
8 / 13

第8話 マヘンドラの本気

しおりを挟む
ついにこの時が来てしまった。あの熊の首を一瞬で切り落としたマヘンドラとの闘いの儀。既に集落の方で準備は万端のようで、闘いのためのある程度の広さのサークルが設けられていた。



民衆は期待のまなざしを僕に向けてくる。正直やめてくれと思った。僕は期待されるのは嫌いではないが、過度な期待を抱かれ、最終的に失望されるのは凄く嫌いだ。なぜならば、それは他人の上辺だけしか見ておらず、本質を見ていないからだ。



本当の人格や、その人物の本質を見て嫌いになるのであればまだいいのだが、勝手に期待され、勝手に失望されるのが一番困るし一番不快だ。僕だってどちらかと言えば他人の期待には応えたい。が、期待をする人ほど、期待に応えるたびに要求がどんどん大きくなっていく。そうして期待に応えられなくなった瞬間、そういった人間は手のひらをクルリと反して去っていくというわけである。



もし、もし。この集落の人間達がそういった人間だったらどうしよう。僕がマヘンドラとの勝負に負けたら今まで僕が出会った、勝手に他人に期待して勝手に失望して去っていく人間達と同じことをするのだろうか。考えれば考えるほど、足にも手にも力が入らなくなっていく。が、そんな僕を、マヘンドラはポン、と文字通り物理的に背中を押して励ましてくれた。



「さあ、気楽にやりましょうぞ!」



僕はもうやるしかないと思い、その用意されたサークルの中にマヘンドラと入る。そして、僕とマヘンドラは与えられた剣を握り、指定された位置についた。



「それでは、これより、シン様とマヘンドラの闘いの儀を始めます!それでは両者、位置についてーーー闘いをはじめっ!!」



と、審判が勢いよく声を発すると同時に、マヘンドラは容赦なく僕の懐めがけて剣を振りかざした。僕は脊髄反射的に後ろに退いて攻撃を避ける。



「中々・・・!」



ちょっと待ってくれ。やっぱり僕はマヘンドラに勝てない。その瞬間、そう思った。このままじゃ本当にやられる!そう思った僕は、全身に程よく力を込め、獣化し、獅子獣人の姿へと変身した。



「・・・!獣化しましたか・・・!」



「うん!・・・というか獣人の姿にならないとマヘンドラに勝てないよ!」



僕は身体能力の上がった獣人の姿で、マヘンドラに剣で斬りかかる。リヤは空間属性の魔法をこのサークルの中に付与しているとは言っていたものの、やはり他人に対して傷をつけるという行為には慣れていない。僕は峰打ちをマヘンドラへと放った。



「ぐっ」



峰打ちとはいえ、しっかりと力を込めたため、マヘンドラには重い一撃が入った。マヘンドラは僕の一撃に、思わず後ろに後ずさる。



「シン様・・・今度はこちらから行きますぞ・・・!」



マヘンドラは特殊な体勢で剣を構え、僕にその切っ先を向けた。そして、魔法を発動する。それは、アーシャが使った収穫の際に必要な魔法とは全く毛色が違う、"戦いのための魔法ーーーー"



「雷魔法ーーーー"帯電!"」



マヘンドラがそう呪文を詠唱すると、彼が持つ剣は電撃を帯びた。そして、その刀で僕に斬りかかってきた。



僕はすかさず避けたが、マヘンドラの電撃を帯びた刀から、雷が迸る。その迸った雷の一つが、僕の身体へと当たった。



「ッ!?」



僕はあまりの痛みと衝撃に苦痛で顔を歪めた。それを見てマヘンドラはニヤリと笑っている。そして彼は意気揚々と雷属性の魔法についての解説を始めた。



「そう!これこそが雷属性の真骨頂!何かに魔法による電撃のオーラを付与し、物体の強度を高めつつ、敵に攻撃を避けられても、飛び散る電撃や雷で感電させる―――近接戦闘では無類の強さを誇るのです!」



そしてマヘンドラは更に構えを作った。そうそれは、次に発動する魔法の合図でもある。



「さあ、シン様!これから私が使うのは、我が一族に伝わる奥義です!この奥義をあなた様に使うということは、あなた様を私は認めたということです。・・・・避けないでくださいね?」



マヘンドラは意味深な発言をすると、両手を天に挙げた。すると、先ほどまで晴れ渡っていた夜空は、一瞬にして雲に覆われる。



「え・・・ちょっ」



「雷魔法ーーー"轟雷!"」



そして僕の元に、極太の電撃の柱が墜ちてきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

処理中です...