〝凡才の魔女〟ルーコの軌跡~才能なくても、打ちのめされても、それでも頑張る美少女エルフの回想~

乃ノ八乃

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第一章 幼女エルフの偏屈ルーコ

第10話 魔術と優越感と笑顔のお姉ちゃん

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 私が気絶した時点で実戦練習は終了。その後、しばらくしてから意識を取り戻すと視線の先の姉と目が合った。

「…………何してるの?」

 自然とそんな言葉が口から漏れる。たぶん、気絶した私を姉が介抱してくれたのだろうとは察しがつくのだが、それにしては顔と顔の距離が近い。

「あ、ルーちゃん、目が覚めたんだね」

 質問に答えず、笑顔を浮かべる姉。その様子から、もしここで目が覚めなかったら何をされていたのかと考えるのも怖くなり、それ以上は追求しない事にした。

「……またお姉さまに勝てなかったな」

 さっきまでの練習を振り返り、ぼそりと独り言つ。まともに勝負すら出来なかった最初と違い、なまじ勝てそうだっただけに余計に落ち込んでしまう。

「そんなに落ち込まなくても大丈夫だよルーちゃん。最初に比べたらものすごい成長してるし、最後の攻防だってお姉ちゃん冷や冷やしちゃった」
「……それはお姉さまが手を抜いてたからでしょ?」

 確かに最後のあれは自分でも良かったように思う。けれど今、冷静に考えると、あの時の姉は驚いて少し余裕を崩していたものの、追い詰められてはいなかった。

 たとえば仮にあの時、跳躍を予想して魔法を撃ち放っていたとしても、姉は何らかの手段で防ぐなり、かわすなりをしていたように思う。

 もっと言えば、姉が最後に使った魔法を最初から使われたら私は手も足も出ずに負けていた筈だ。

 もちろん、そんな事をすれば実戦練習にならないので、そこに姉の配慮があったのは重々理解している。

 でも、姉が手を抜いていたという事に対する悔しさは隠しきれなかった。

「うっ……で、でも、冷や冷やしたのは本当だよ?ルーちゃん自身が気付いてるかわからないけど、強化魔法の練習をしている内に魔力の操作が上達して、魔法の発動速度や威力が格段に上がってるんだもん」

 姉の指摘した事柄に首を傾げ、さっきまでの攻防を思い返してみると確かにそんな気がしないでもない。

「強化魔法の練習を通して魔力操作を身に付けてほしいとは思ってたんだけど、まさかあんなに変わるなんて思いもしなかったよ」
「……でもそれって私の元々の魔力操作が酷かったから、それだけ差が生まれて驚いたって事じゃない?」

 どうにかして私を励まそうとしている姉に唇を尖らせて答える。

 自分でも拗ねた子供みたいだという自覚はあるが、それでも今の気分的に自然とこういう態度になってしまうのを抑えられなかった。

「確かに最初の頃の魔力操作は拙かったけど、ルーちゃんはまだ十才なんだよ?それを考えたら魔法を使えるだけでもすごいし、今はもう魔力操作だって上手に出来るようになったんだからルーちゃんは天才だよ!」
「……そうかな」

 私の言葉にそうだよ!と返す姉。たとえお世辞でもそこまで褒められると悪い気はしない。

「ふふふ……天才かぁ……」

 褒め言葉にすっかり乗せられ、機嫌を良くした私は、そこでふと、姉の魔法の腕を知ってから聞こうと思って事を思い出した。

「あ、そういえばお姉さまに聞きたい事があるんだけど」
「聞きたいこと?」

 私がそう言うと姉は首を傾げる。いや、まあ、さっきまでの会話の流れからすればあまりに唐突なので、その反応は当然か。

「うん。まずお姉さまは〝魔術〟って知ってる?」
「魔術?」

 聞き覚えのない単語なのか、姉が怪訝な表情を浮かべる。この時点で姉は魔術を知らないという事がわかったけど、それは使かどうかとは別問題だ。

「えっと、魔術っていうのは簡単に言えば魔法よりもすごい魔法……かな」
「魔法よりもすごい……魔法?」

 ますますわからないと困った顔をする姉に順を追って説明する。

「……魔術は魔法よりも効果や規模が大きくて扱いが難しく、詠唱が五つ以上の文節で成り立っている魔法の総称で、個人が独自に作り上げるものがほとんどだから、そもそも使える人が少ないらしいの」
「そう、なんだ……」

 あの場所に収蔵された本で得た知識を元にどうにか伝わるように噛み砕いて言葉を選ぶ。

 本当はもっと複雑かつ、抽象的な表現や作者の見解が書かれていたのだけど、その辺は微妙にずれていたので説明する必要はないだろう。

「それで私としてはお姉さまは魔術を使えるんじゃないかと思って」
「……え、私が?」

 魔術っていう言葉も知らなかったのに?と尋ね返してくる姉に私は首を横に振り、続ける。

「言葉自体は知らなくてもそういう魔法として認識してるとか、心当たりはない?」

 理論を知らなくても姉の才能なら魔術の領域にたどり着ける可能性は十分にある筈だ。

「うーん……ないこともないけど……」

 案の定、姉はさっき挙げた条件に合致する魔法に心当たりがあるらしい。なにやら複雑そうな顔をして言い淀んでいる。

「でもはまだ完成してないというか……その、実際に使えるかわからないというか……」
「?」

 姉にしては珍しい歯切れの悪い物言いに今度は私が首を傾げていると、観念したように小さく溜め息を吐いた。

「……確かに私はそういう魔法を創ったよ?でもその魔法の性質上、簡単には試せないから完成って言い切れなくて」
「試せない?」

 それはその魔法……もとい魔術の威力や影響が強過ぎておいそれと試せないと言うことだろうか。

「うん、魔法自体は出来てるんだけど、それがどのくらいまで効果を及ぼすのかがわからないの」
「……自分の身体ってお姉さま一体何をしてるの?」

 不穏な言葉に顔をしかめ、追求するような視線を姉に向ける。

 自分の身体を使うような類いの魔法は少なからずあるが、魔術という規模になると効果も危険性も想像すら出来ない。

「何って……あ、いや、まあ、ちょっと自分で……その、ね?」

 自分の失言に気付いたのか、慌てて取り繕うように言葉を濁すも、すでに遅い。姉が何かしら危険な事をしているのは明白だ。

「……まさかお姉さまの創ったのが治癒、回復系統の魔術で、その練習のために自傷した、とか言わないよね?」
「え、どうしてわかったの?」

 姉の使う魔法や自分で試すという言葉から推察してみたが、当たっていたらしく、姉は取り繕う事も忘れて尋ね返してきた。

「……やっぱりやってたんだね」
「あ、う、えと……で、でも大丈夫!ちゃんと治したし、痕も残ってないから!」

 もはや誤魔化しきれないと悟った姉は、認めた上で何の問題もないという方向に話を持っていこうと必死に弁明を始めた。

「そ、それにほら、きちんと効くかどうか試すためにはこれが一番分かりやすいし、万が一失敗しても自分の身体だから……」
「なにそれ……自分の身体だからどうなってもいいってこと?」

 どうやら姉は他人に配慮はしても自分にはとことん無頓着のようだ。

 以前足を捻った時、姉が何の躊躇いもなく治癒魔法を使った事のない私に治させようとしたのも、無頓着が故の行為だったのかもしれない。

 この分だと母から治癒魔法の基礎を教えてもらった後の練習も自分の身体を使っていた可能性が高い。

「……前にも言ったけど治癒や回復は人体に干渉するから失敗が構造を歪める可能性があるの。まして魔法よりも強力かつ複雑な魔術はより危ないんだよ?」
「うぅ……それは……」
「植物や動物を相手だと構造が違うから自分の身体を使うっていうのも分かるけど、それにしてもやり方はあるよね?違う?」

 私がそう言う度に姉はしゅんとして背中を丸め、小さくなっていく。その姿を見るとなんというか、いつもと逆の立場になったみたいでちょっとした優越感を覚えた。

「まあ、今こうして五体満足、無事でいるからこれ以上は何も言わないよ。でも最初の実戦練習の時にお姉さまが私に注意した通り、魔法は便利だけど危ないんだから、もっと安全な練習方法にしないとね」
「はい……」

 すっかり意気消沈する姉へ最後にそう言った私は、じゃあ今日はこの辺で終わりねと告げて踵を返し、その場を後にしようとする。

 本当は魔術についてもう少し話したかったが、流れ的にこのまま今日の練習を終わりに出来そうなので、その雰囲気に乗っかる事にした。

お姉さまには悪いけど、せっかくだから久しぶりにゆっくり本を読もうかな。

 少しうきうきした気分で一歩目を踏み出した瞬間、後ろから強い力で肩を掴まれた。

「……ルーちゃん、どこに行くのかな?」

 底冷えするような声にぞっとして振り向くとそこには満面の笑顔を浮かべた姉がいた。

「勝手にどこかに行くのは駄目だよ?今日の練習はまだ終わってないんだから」
「うぇ?で、でも……」

 まさか引き留められるなんて思っておらず、咄嗟に言葉が出てこない。

「確かにさっきのは私が悪かったし、これからはもっと安全な練習方法を考えるよ?でも、それとこれとは話が別。まだ時間はあるんだから、ね?」
「あ、あのお姉さま?その、私は久しぶりに本を読もうと……ちょっ、待って……」

 そのまま有無を言わさず連れていかれた私は、心なしかより厳しくなった姉との実戦練習を日が暮れるまで続ける事になるのだった。
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