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第一章 幼女エルフの偏屈ルーコ
第14話 続くお説教と慢心、諭すお姉ちゃん
しおりを挟む仕留めた二匹の魔物を他のエルフが解体をしている横で私は正座してまだお説教を受けていた。
「あのね、もちろんルーちゃんが約束してくれるのは嬉しいけど、どうしてあんな戦い方になってしまったのか自分でちゃんと分かってるの?」
「え、う、うん。さっき言った通り魔物の能力を見誤っていたたからで……」
理由に関してはもう説明した筈なのに、姉がもう一度それを聞いてきた事に戸惑いを隠せない。
「そうだね、それも理由の一つだよ。でも根本的な原因じゃない」
「根本的な原因?」
姉の言葉の意味がよくわからず、そのまま聞き返す。根本的な原因と言われても、さっき挙げた理由の他に思い当たる節はなかった。
「よーく考えてみて?あの時、ルーちゃんがどうしてああいう行動を取ったのかを」
「そんな事言われても……」
改めて考えても、やはり見誤っていたから対応が遅れ、ぎりぎりの攻防をするしかなかったとしか言えない。
「……本当は全部自分で気付いた方がいいんだけど、仕方ないかな」
そう言うと姉は浅くため息を吐きながら腕を組み、少し考え込むような仕種を見せる。どうやら姉には私自身にもわからない部分が見えているらしい。
「うーん……例えばルーちゃんは見誤ったからって言うけど、あの距離なら強化魔法を使って突進を避ける事も出来たのにどうしてそうしなかったの?」
「どうしてって……それはあの瞬間を逃したら魔物を仕留められないと思ったから……」
確かに姉の言う通り、避けようと思えばあの突進は避けられた。
けど、あの交錯で仕留めなければ戦いが長引いてこちらの手の内が割れ、魔物の攻勢が激しくなる。
そうなれば余計に仕留める機会が減ってしまい、どんどん不利になると思ったからこその判断だった。
「本当に?避けた後でも体勢を立て直して反撃する事は出来たよね」
「……反撃自体は出来たかもしれないけど、あの速度の魔物に拘束魔法を掛ける事が出来る瞬間はあの時だけだったし、『一点を穿つ暴風』以外の魔法だと鱗に阻まれるから、あそこを逃すわけにはいかなかったの」
少し長い詠唱に加え、風で弓を形成し、構えて射るという動作を必要とする『一点を穿つ暴風』はその場に留まらなければ使用する事はできない。
そのため遠くから狙い撃つか、相手が動きを止める、あるいはこちらが封じる事が使うための最低条件だ。
今回の場合は距離が近く、最初に戦った魔物のような失敗をするとは思えなかったので、拘束魔法を使ったのだが、あの巨体を縛るとなると魔力を込めるのに時間が掛かる。
そうなると後々、攻勢が激しくなると予測していた魔物との戦いで使えない事が容易に想像出来た。
「別に拘束魔法なら避けてからでも使えた筈だし、動きを封じなくても魔物から距離をとれば『一点を穿つ暴風』で狙う事も出来たでしょ?」
「……お姉さまなら出来るかもしれないけど、私には無理。あの魔物は速くて知能も高いから私の強化魔法じゃ振り切れないし、拘束魔法も避けながら使える規模だと通じないよ」
まあ、お姉さまならそもそも避けたり逃げたりしなくても真正面から打ち倒せるだろうけど。
「え、でも強化魔法で避けながら準備すればさっきの拘束魔法も使えたよね?」
「…………私、強化魔法を使いながら他の魔法は使えないんだけど?」
さも当然のように高度な事を要求してくる姉にしらっとした視線を向ける。
強化魔法と併用して他の魔法を使えるのは私の知っている限り、姉とあの人くらいだ。
もちろん私の知らないところで他にいるのかもしれないけど、それでも使えるのは少数派だと思う。
一応、詠唱だけなら強化魔法との併用も可能だが、魔力の直接的な操作や魔法の行使となると途端に出来なくなる。
これは私の努力が足りてないという事ではなく、出来る人と出来ない人が明確に分かれているのだ。
とある本の記述によると、その差は才能、あるいは感性といった類いによるもので、可能性が全くないとは言わないまでも、ほぼ努力だけではどうにも出来ないらしい。
無論、それを鵜呑みにするわけじゃないけど、自分の感覚的にも本の記述は的を得ていると私は思った。
「あ、そうだったんだ……。魔法を使う瞬間に強化魔法を切っちゃう癖がある事は気付いてたけど、まさか出来ないなんて思わなかったよ」
得心のいったという顔で姉は頷く。
私が強化魔法と他の魔法を併用出来ない事なんて、戦うところを何度も見ている姉ならとっくに気付いているとは思ったが、何も言わなかったのはそういう勘違いがあったからか。
「先に言っておくけど出来ないのは私の努力が足りないとかじゃないからね」
出来ないなら練習しようとか言い出す前に、機先を制してそれを封じておく。
こうでも言っておかないと姉は出来るまでやらせようとしてくるため、確実にここで止めておかなければならない。
「そうなの?」
「うん。普通の魔法なら別だけど、強化魔法との併用は個人の才能とかに左右されるから、どれだけ頑張っても出来ない人は出来ないんだって」
可能性が全くないわけではない事を伏せ、そういう記述の本があると言ってどうにか納得させようとするも、姉は腑に落ちないといった様子で首を傾げていた。
「んー……でも私は出来るし、そんなに難しい事だとは思わないんだけどなぁ……」
ちらりとこちらを見る姉の視線からは「頑張って練習してみたら案外できちゃうかもよ?」と言わんとしてるのが伝わってくる。
「それはお姉さまが使える側だからだよ。私も本に書いてある事が本当なのか確かめるために何度も試したけど、やっぱり出来る気がしなかったからね」
普通の魔法の同時使用が感覚的に右手と左手を一遍に動かすのに近いが、強化魔法との併用はまるで違う。
言い表すのが難しいけど、それでもあえて例えるなら右手と右手を同時に動かすという感覚だろうか。
もちろん人間もエルフも右手は一つしかないので、この表現が適当かと言われると悩むところだが、他に言い表すための言葉が思いつかなかった。
「そっかー……それならしょうがないね。併用が駄目ならその隙を上手く減らしていくしかないかな」
姉はまだ少し納得していないようだけど、それでも私が何度も試した事を知ると渋々引き下がった。
「私もそう思う。詠唱だけなら併用しながらでも使えるから、いままで通りのやり方で、切り替えの瞬間を短く速くしていくよ」
出来ない事を頑張るのが無駄とは言わないまでも、そこかける時間を使って他の技能を伸ばした方が効率的だろう。
それに出来ない事を頑張るよりも出来る事を突き詰めていった方が割り切ってやれる気がする。
「じゃあ次の練習からはその辺を意識して……と、少し話がそれちゃったね。とりあえずルーちゃんが避けた後の事を考えて迎え撃ったって事はわかったよ」
ようやく理由を理解してくれたらしい姉はそこまで言ってから言葉を区切り、でも……と続ける。
「やっぱり私は納得出来ないかな。確かに反撃するには絶好の機会だったんだろうし、そこを逃したら倒すのが難しくなるのもわかるけど、自分に及ぶ危険を考えたら避けるのが正解だったと私は思うよ」
「それは……」
確かに危険を考慮すれば避けるべきだったのかもしれないけど、やっぱり何度考えてもあの魔物仕留める機会はあそこをしかなかったと思う。
もちろん、見誤っていた事は反省すべきだけど、私はあの時の選択を間違いだとは思わない。
「……これも私が勝手に思ってた事だけど、いつものルーちゃんなら見誤る可能性も考えて一旦、逃げる事を選んでた筈だよ」
「…………」
いつもの私……というのはここまで魔法の練習を一緒にやってきた姉から見た私、という事だろう。
こと戦闘に関して、慎重で無茶をしない私だからこそ魔物二匹相手でも任せたのだと姉は言っていた。
実際、言われてみると自分でも姉の言っている事が的を得ているのがわかる。
拘束魔法が通じるだとか、魔物の判断力や速度を見誤ったとか以前に、自分への危険性を孕んだ賭けに出ること自体が私らしくない。
あの時、あの瞬間は逃したら倒せなくなると思っていたけど、指摘された今、冷静に考えれば他に立ち回り方があった筈だ。
例えばあの交錯で魔物の速度や判断力の高さがわかったのなら、それを逆手にとって油断を誘うだとか、目眩ましを張りつつ距離を取るだとか、やりようはあっただろう。
にもかかわらず、私がらしからぬ賭けに出たのは何故か。
色々考えた末、ようやく答えに辿り着いた私は自分の情けなさに思わず苦い表情を浮かべた。
「……ルーちゃんも自分で気付いたみたいだね。私が言った根本的な原因の意味を」
「……うん、私はいつの間にか慢心してたんだ。強化魔法を使えるようになって、魔物への恐怖にも慣れて、相手を倒す事を第一に考えたせいで視野も狭くなってた」
なるほど思い返してみれば恥ずかしいほどに私は増長していたらしい。
おそらく模擬戦や実戦を経た経験が自信以上に行き過ぎた結果なのだが、正直、こうやって姉に指摘されるまで微塵も気付かなかった。
「うんうん、ちゃんと反省できてるならそれで大丈夫。少し遅かったけど、ルーちゃんが自分で気付けたならきっと同じ失敗はしないと私は思うよ」
何度も頷いた後、姉はふっと柔らかな笑みを浮かべてからそれに……と言葉を続ける。
「慢心は確かに良くないけど、自分を見失わない範囲で自信を持つ事は大事だよ。だからルーちゃんには今回の事を上手く教訓にしてほしいかな」
そう言って姉は私の頭を優しく撫で始めた。
つまり、反省も必要だけど、慎重さだけでなく時には自信を持って踏み出す事も大事だから、今回の件で消極的になり過ぎないようにという事だろうか。
「……よし、これにてお説教は終わり。さ、私達も解体を手伝おうか」
撫でていた手をぱっと引っ込めた姉が解体作業を続けている他のエルフ達の方を指差しながら空いている手を差し出してくる。
「…………ちょっと待って足が痺れて動けない」
流れていた和やかな空気をぶち壊した空気の読めない発言に姉は苦笑し、仕方ないなぁと言ってぷるぷると足が震えて立てない私を背負い、ゆっくりと歩き出した。
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