〝凡才の魔女〟ルーコの軌跡~才能なくても、打ちのめされても、それでも頑張る美少女エルフの回想~

乃ノ八乃

文字の大きさ
63 / 172
第二章 エルフのルーコと人間の魔女

第60話 依頼と報酬と思わぬ成果

しおりを挟む

 次の日の朝、宿屋を後にした私達はまず最初に依頼達成の報告をすべくぎるどへと向かっていた。

「ふわぁぁ……なんだかまだ疲れが抜けない気がするよー……」

 眠そうな顔で瞼を擦り、大きな欠伸をするサーニャに隣を歩いていたアライアがふっと笑みをこぼす。

「まだ寝てても良かったんだよ?今日はそんなに急ぐ用事があるわけじゃないし」
「それはそうですけど……いつまでも寝てるようなだらしない姿をルーコちゃんに見せたくないじゃないですか」

 ぶうたれるように頬を膨らませてそういうサーニャ。

 昨日あれだけの魔法を使ったのだから疲れが残るのも当然だろうし、特にそれがだらしないとも思わないのだが、サーニャとしては気になるらしい。

「サーニャは変なところで見栄っ張りだよね。そういうところはトーラスにそっくりだ」
「……別に似てません。あのバカ兄と一緒にしないでくださいよ」

 似てると言われてあからさまに嫌そうな表情を浮かべ、早足でずんずんと先に行ってしまった。

「……サーニャさん、似てるって言われるの物凄い嫌がってましたよ?」
「あの子とトーラスは兄妹ながらにそりが合わないからね。似てると言われればああなるのはしょうがないよ」

 それがわかっていながらあえてそう言ったのはどうしてだろうと思っていると、それに気付いたアライアが肩を竦めて答える。

「……本当に仲が悪いわけじゃないんだろうけどさ。ああも険悪そうに見えるとついそこを突きたくなるというか」
「……もしかしてアライアさんって結構いい性格してます?」

 思わず漏れたその言葉にアライアは目をぱちくりさせた後、ぷっと吹き出し、声を上げて笑った。

「ちょ、どうしたんですか。急に」

 突然笑い出した事に戸惑う私にアライアは「ごめんごめん」と笑いを嚙み殺しつつ、息を整えて言葉を続ける。

「うん……いや、ルーコちゃんもサーニャに負けず劣らず毒舌だと思ってね。まさかあそこまで直球に聞かれるとは」
「え、あ、えっと……」

 思った事をそのまま口にしたのがまずかったのかとあたふたする私を見たアライアはさらに吹き出してしまい、収拾がつかなくなり始めていた。

「━━━━二人とも何やってるのー!はやくいくよー!」

 そんな折、やけに遅い私達を気にしてか、先に進んでいたサーニャが遠くの方から呼びかけてくる声が聞こえてくる。

「ほら、サーニャが呼んでるし、早く行こうか」
「で、でも……」

 いいからとそのままアライアに手を引かれた私は一緒になってサーニャに追いつき、そのままぎるどへと一直線に向かっていった。


 目的地にたどり着き、中へと足を踏み入れた私達はいつもとは違う慌ただしいぎるど内の雰囲気に少し圧倒されていた。

「……物凄く忙しそうですね」
「……うん、一日経った後だけど、全然落ち着いてないみたい」

 昨日の今日でまだ忙しさは残ってるんじゃないかと思っていたけど、ここまで慌ただしいのは予想外だ。

 正直、この空気の中で依頼の達成報告をするのは中々に気が引ける。

これは一旦出直した方がいいんじゃ……。

 明日とまではいかなくとも時間を空けるべきなんじゃと思う私の考えを知ってか知らずか、アライアが何でもないような顔で私とサーニャの背中を押した。

「まあ、一日くらいじゃあれの後処理は終わらないよ。それよりもぼーっと立ってたら邪魔になるから早くいくよ」
「え、ちょっとアライアさん?」
「お、押さないでくださいよ」

 アライアにぐいぐいと背中を押されて連れていかれたその先の受付には目の下に濃ゆい隈を浮かべながらもせわしなく働くエリンの姿があった。

「━━━━あ、皆さん。いらっしゃい」

 そのあまりの忙しなさ故にどうしようか迷っていると、エリンの方がこちらに気付いたようで向こうから声を掛けてくれる。

「や、エリン。昨日ぶりだね」
「ええ、今日は依頼の達成報告にきたのかしら?」

 声を掛けられてなお、動けないでいる私とサーニャの代わりにアライアが挨拶を返し、エリンもまた何事もないような様子でそれに応じた。

「まあね。ほらルーコちゃん」
「え、あ、はい……」

 促されるまま受付の前までやってきた私は改めてエリンを見やり、その隈と疲れた表情に思わず尻込んでしまう。

「…………えっと、大丈夫ですか?エリンさん」
「え、何がです?」

 恐る恐る具合を聞くも、エリンは本当に何を聞かれているのか分からないといった様子で首を傾げるので私の後ろにいたサーニャが堪らず口を開いた。

「何がって……その目に下の隈、凄い事になってますよ」
「ああ……ごめんなさい。昨日から大忙しで寝る暇がなかったんですよ…………あのクソのせいで」
「……素が出てるよエリン」

 寝てない事で相当いらいらが溜まっているらしく、聞こえるか聞こえないかの声量で毒を吐くエリンにアライアが呆れてたしなめる。

……エリンさん、実は怖い人なのかな?

 まだ出会って二日と経っていない中で他人の事を知るのは難しいとはいえ、あれだけ優しそうで笑顔を絶やさなかった彼女との差に少し驚いてしまった。

「え、あ……んんっ、えっと、それで依頼の達成報告に来たんですよね?」
「へ、あ、はい」

 さっきの言葉はなかった事にしたのか、エリンは咳払いの後、何食わぬ顔をして半ば強引に話を進めてくる。

「ならちょうど良かったです。昨日、あなた達が倒したダイアントボアの素材やお肉なんですけど、もしよろしければ必要分以外はギルドに売りませんか?」
「え、売る……?」

 エリンによるとなんでもダイアントボアの素材や肉は中々出回らないため、ぎるどとしては多少、値が張ってでもそれらを売ってほしいらしい。

「もちろん、必要な素材は売らなくても構いませんし、相場よりも少し高めに買い取るつもりです。どうですか?」
「どうですかと言われても……」
「いいんじゃないかな。あれだけの巨体から取れる素材なんてどうせ持て余すだろうし、それをギルドが買い取ってくれるっていうんならありがたい話だと思うよ」

 言われてみればサーニャの言う通り、あの巨体からは相当な量の素材や肉が取れるだろう。

 それを全部私達で消費するのは不可能、必ず余りは出るし、腐る可能性を考えたら売ってしまうのが手っ取り早い。

「それじゃあ、いるいらないは私が判断しようか?ルーコちゃんとサーニャの装備に使えそうな素材は分かるし、発注も私がしてるから」
「あ、お願いします。私はその辺分からないので……」
「アライアさんに任せておけば大丈夫だろうし、私も異存はありませーん」

 同意を受け取ったアライアはそのままエリンと交渉を進め、最終的に解体費用と運送料を売った代金から引いたものが、私達の手元にやってきた。

その際、アライアさんが解体費用と運送料を値切り、エリンさんがげんなりとした表情を浮かべていたのは少し可哀そうだと思った。


 無事売却を終え、今度は依頼の達成報告の手続きを進めてもらう事に。

「━━はい、じゃあこれで依頼は完了です。ご苦労様でした」

 依頼の達成報酬を受け取り、確認していると、エリンが「ルーコちゃんにはこれを」と言って薄い紙のような何かを差し出してきた。

「えっと、これは?」
「それはギルドカードといって、冒険者の個人情報が記録されるものです。再発行は大変ですから紛失しないように気を付けてください」

 一応、ぎるどの方でも情報は管理しているため、再発行は可能だが、新しくそれを読み込ませなければいけないのでかなりの時間が掛かる上、その間は依頼を受ける事ができなくなるらしい。

……小さくて薄いものだから本当に気を付けてないと失くしそうで怖い。

 手に待ってみた感じ、見た目に反して強度は問題なさそうだけど、やはり紛失には最新の注意を払う必要がある。

「あ、それと、今回の一件でルーコちゃんには二等級魔法使いの試験へ挑む権利が与えられますから良ければ申請してみてください」
「……え?」

 ついでのような感じでエリンに口から出てきた思わぬ一言に唖然として声が漏れ出てしまう。

 確か二級に上がるための試験を受けるにはいくつかの依頼をこなさないといけなかった筈だ。

「……あ、もしかしてダイアントボアを倒した事が実績として認められたんですか?」
「その通りです。サーニャさんと二人だったとはいえ、ギルドとしてはダイアントボアを討伐できた時点でその実力は二等級以上だと判断しました。だから試験を受けて合格すれば問題なく昇級できますよ」

 サーニャの言葉に頷き肯定するエリン。

 依頼をこなす目的が実力を測るためだというならダイアントボアを倒した事でそれらを省略できたというのも分かる。

 けれど、私がやった事はただの時間稼ぎで直接とどめを刺したわけじゃない。

 それなのにこうして評価されるのは分不相応な気がしてしまう。

「……もちろん、ルーコちゃん自身がまだだと判断したのなら無理にとは言いません。けれど、これだけは言わせてください。この評価は正当なもの……過大評価も過小評価もしていません。だから変な遠慮は不要ですからね」

 私の内心を見透かしたかのようなエリンの言葉。それはさっきまで頭をよぎっていた後ろ向きな考えを吹き飛ばしてくれるものだった。

「……わかりました。その時がきたらよろしくお願いします」
「……はい、ではその時までお待ちしてますね」

 優しい笑みと共にそう返してくれたエリンに改めて礼を言い、私達はぎるどを後にする。

━━次に私がぎるどへくるのは二等級の試験を受ける時だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界召喚されたが無職だった件〜実はこの世界にない職業でした〜

夜夢
ファンタジー
主人公【相田理人(そうた りひと)】は帰宅後、自宅の扉を開いた瞬間視界が白く染まるほど眩い光に包まれた。 次に目を開いた時には全く見知らぬ場所で、目の前にはまるで映画のセットのような王の間が。 これは異世界召喚かと期待したのも束の間、理人にはジョブの表示がなく、他にも何人かいた召喚者達に笑われながら用無しと城から追放された。 しかし理人にだけは職業が見えていた。理人は自分の職業を秘匿したまま追放を受け入れ野に下った。 これより理人ののんびり異世界冒険活劇が始まる。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...