〝凡才の魔女〟ルーコの軌跡~才能なくても、打ちのめされても、それでも頑張る美少女エルフの回想~

乃ノ八乃

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第二章 エルフのルーコと人間の魔女

第60話 依頼と報酬と思わぬ成果

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 次の日の朝、宿屋を後にした私達はまず最初に依頼達成の報告をすべくぎるどへと向かっていた。

「ふわぁぁ……なんだかまだ疲れが抜けない気がするよー……」

 眠そうな顔で瞼を擦り、大きな欠伸をするサーニャに隣を歩いていたアライアがふっと笑みをこぼす。

「まだ寝てても良かったんだよ?今日はそんなに急ぐ用事があるわけじゃないし」
「それはそうですけど……いつまでも寝てるようなだらしない姿をルーコちゃんに見せたくないじゃないですか」

 ぶうたれるように頬を膨らませてそういうサーニャ。

 昨日あれだけの魔法を使ったのだから疲れが残るのも当然だろうし、特にそれがだらしないとも思わないのだが、サーニャとしては気になるらしい。

「サーニャは変なところで見栄っ張りだよね。そういうところはトーラスにそっくりだ」
「……別に似てません。あのバカ兄と一緒にしないでくださいよ」

 似てると言われてあからさまに嫌そうな表情を浮かべ、早足でずんずんと先に行ってしまった。

「……サーニャさん、似てるって言われるの物凄い嫌がってましたよ?」
「あの子とトーラスは兄妹ながらにそりが合わないからね。似てると言われればああなるのはしょうがないよ」

 それがわかっていながらあえてそう言ったのはどうしてだろうと思っていると、それに気付いたアライアが肩を竦めて答える。

「……本当に仲が悪いわけじゃないんだろうけどさ。ああも険悪そうに見えるとついそこを突きたくなるというか」
「……もしかしてアライアさんって結構いい性格してます?」

 思わず漏れたその言葉にアライアは目をぱちくりさせた後、ぷっと吹き出し、声を上げて笑った。

「ちょ、どうしたんですか。急に」

 突然笑い出した事に戸惑う私にアライアは「ごめんごめん」と笑いを嚙み殺しつつ、息を整えて言葉を続ける。

「うん……いや、ルーコちゃんもサーニャに負けず劣らず毒舌だと思ってね。まさかあそこまで直球に聞かれるとは」
「え、あ、えっと……」

 思った事をそのまま口にしたのがまずかったのかとあたふたする私を見たアライアはさらに吹き出してしまい、収拾がつかなくなり始めていた。

「━━━━二人とも何やってるのー!はやくいくよー!」

 そんな折、やけに遅い私達を気にしてか、先に進んでいたサーニャが遠くの方から呼びかけてくる声が聞こえてくる。

「ほら、サーニャが呼んでるし、早く行こうか」
「で、でも……」

 いいからとそのままアライアに手を引かれた私は一緒になってサーニャに追いつき、そのままぎるどへと一直線に向かっていった。


 目的地にたどり着き、中へと足を踏み入れた私達はいつもとは違う慌ただしいぎるど内の雰囲気に少し圧倒されていた。

「……物凄く忙しそうですね」
「……うん、一日経った後だけど、全然落ち着いてないみたい」

 昨日の今日でまだ忙しさは残ってるんじゃないかと思っていたけど、ここまで慌ただしいのは予想外だ。

 正直、この空気の中で依頼の達成報告をするのは中々に気が引ける。

これは一旦出直した方がいいんじゃ……。

 明日とまではいかなくとも時間を空けるべきなんじゃと思う私の考えを知ってか知らずか、アライアが何でもないような顔で私とサーニャの背中を押した。

「まあ、一日くらいじゃあれの後処理は終わらないよ。それよりもぼーっと立ってたら邪魔になるから早くいくよ」
「え、ちょっとアライアさん?」
「お、押さないでくださいよ」

 アライアにぐいぐいと背中を押されて連れていかれたその先の受付には目の下に濃ゆい隈を浮かべながらもせわしなく働くエリンの姿があった。

「━━━━あ、皆さん。いらっしゃい」

 そのあまりの忙しなさ故にどうしようか迷っていると、エリンの方がこちらに気付いたようで向こうから声を掛けてくれる。

「や、エリン。昨日ぶりだね」
「ええ、今日は依頼の達成報告にきたのかしら?」

 声を掛けられてなお、動けないでいる私とサーニャの代わりにアライアが挨拶を返し、エリンもまた何事もないような様子でそれに応じた。

「まあね。ほらルーコちゃん」
「え、あ、はい……」

 促されるまま受付の前までやってきた私は改めてエリンを見やり、その隈と疲れた表情に思わず尻込んでしまう。

「…………えっと、大丈夫ですか?エリンさん」
「え、何がです?」

 恐る恐る具合を聞くも、エリンは本当に何を聞かれているのか分からないといった様子で首を傾げるので私の後ろにいたサーニャが堪らず口を開いた。

「何がって……その目に下の隈、凄い事になってますよ」
「ああ……ごめんなさい。昨日から大忙しで寝る暇がなかったんですよ…………あのクソのせいで」
「……素が出てるよエリン」

 寝てない事で相当いらいらが溜まっているらしく、聞こえるか聞こえないかの声量で毒を吐くエリンにアライアが呆れてたしなめる。

……エリンさん、実は怖い人なのかな?

 まだ出会って二日と経っていない中で他人の事を知るのは難しいとはいえ、あれだけ優しそうで笑顔を絶やさなかった彼女との差に少し驚いてしまった。

「え、あ……んんっ、えっと、それで依頼の達成報告に来たんですよね?」
「へ、あ、はい」

 さっきの言葉はなかった事にしたのか、エリンは咳払いの後、何食わぬ顔をして半ば強引に話を進めてくる。

「ならちょうど良かったです。昨日、あなた達が倒したダイアントボアの素材やお肉なんですけど、もしよろしければ必要分以外はギルドに売りませんか?」
「え、売る……?」

 エリンによるとなんでもダイアントボアの素材や肉は中々出回らないため、ぎるどとしては多少、値が張ってでもそれらを売ってほしいらしい。

「もちろん、必要な素材は売らなくても構いませんし、相場よりも少し高めに買い取るつもりです。どうですか?」
「どうですかと言われても……」
「いいんじゃないかな。あれだけの巨体から取れる素材なんてどうせ持て余すだろうし、それをギルドが買い取ってくれるっていうんならありがたい話だと思うよ」

 言われてみればサーニャの言う通り、あの巨体からは相当な量の素材や肉が取れるだろう。

 それを全部私達で消費するのは不可能、必ず余りは出るし、腐る可能性を考えたら売ってしまうのが手っ取り早い。

「それじゃあ、いるいらないは私が判断しようか?ルーコちゃんとサーニャの装備に使えそうな素材は分かるし、発注も私がしてるから」
「あ、お願いします。私はその辺分からないので……」
「アライアさんに任せておけば大丈夫だろうし、私も異存はありませーん」

 同意を受け取ったアライアはそのままエリンと交渉を進め、最終的に解体費用と運送料を売った代金から引いたものが、私達の手元にやってきた。

その際、アライアさんが解体費用と運送料を値切り、エリンさんがげんなりとした表情を浮かべていたのは少し可哀そうだと思った。


 無事売却を終え、今度は依頼の達成報告の手続きを進めてもらう事に。

「━━はい、じゃあこれで依頼は完了です。ご苦労様でした」

 依頼の達成報酬を受け取り、確認していると、エリンが「ルーコちゃんにはこれを」と言って薄い紙のような何かを差し出してきた。

「えっと、これは?」
「それはギルドカードといって、冒険者の個人情報が記録されるものです。再発行は大変ですから紛失しないように気を付けてください」

 一応、ぎるどの方でも情報は管理しているため、再発行は可能だが、新しくそれを読み込ませなければいけないのでかなりの時間が掛かる上、その間は依頼を受ける事ができなくなるらしい。

……小さくて薄いものだから本当に気を付けてないと失くしそうで怖い。

 手に待ってみた感じ、見た目に反して強度は問題なさそうだけど、やはり紛失には最新の注意を払う必要がある。

「あ、それと、今回の一件でルーコちゃんには二等級魔法使いの試験へ挑む権利が与えられますから良ければ申請してみてください」
「……え?」

 ついでのような感じでエリンに口から出てきた思わぬ一言に唖然として声が漏れ出てしまう。

 確か二級に上がるための試験を受けるにはいくつかの依頼をこなさないといけなかった筈だ。

「……あ、もしかしてダイアントボアを倒した事が実績として認められたんですか?」
「その通りです。サーニャさんと二人だったとはいえ、ギルドとしてはダイアントボアを討伐できた時点でその実力は二等級以上だと判断しました。だから試験を受けて合格すれば問題なく昇級できますよ」

 サーニャの言葉に頷き肯定するエリン。

 依頼をこなす目的が実力を測るためだというならダイアントボアを倒した事でそれらを省略できたというのも分かる。

 けれど、私がやった事はただの時間稼ぎで直接とどめを刺したわけじゃない。

 それなのにこうして評価されるのは分不相応な気がしてしまう。

「……もちろん、ルーコちゃん自身がまだだと判断したのなら無理にとは言いません。けれど、これだけは言わせてください。この評価は正当なもの……過大評価も過小評価もしていません。だから変な遠慮は不要ですからね」

 私の内心を見透かしたかのようなエリンの言葉。それはさっきまで頭をよぎっていた後ろ向きな考えを吹き飛ばしてくれるものだった。

「……わかりました。その時がきたらよろしくお願いします」
「……はい、ではその時までお待ちしてますね」

 優しい笑みと共にそう返してくれたエリンに改めて礼を言い、私達はぎるどを後にする。

━━次に私がぎるどへくるのは二等級の試験を受ける時だ。
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