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第二章 エルフのルーコと人間の魔女
第68話 学習する魔物と思わぬ事実
しおりを挟むゼペルと名乗る老人の案内で一軒の建物までやってきた私達は客間のような場所に通され、ひとまずそこで話を聞く事になった。
一人で住んでいるのか、建物の造り自体は簡素で、そこまで大きいという訳ではなく、この人数だと少し手狭に感じてしまう。
「――悪いがそんな大層なもてなしは期待せんでくれ。まあ、茶くらいは出すがな」
お盆に人数分の湯飲みを載せて持ってきたゼペルがそれを配り終え、席に着いたところでようやく話が始まった。
「さて、それじゃあ改めて聞くが、お前さんらがアライアの寄越した冒険者って事でいいんじゃな?」
確認の意味で再度そう尋ねてくるゼペルに私達は頷き、自己紹介も兼ねてまず最初にノルンが口を開く。
「私はノルン・エストニア。依頼を受けるに当たって、パーティのまとめ役を任されてます。横の二人はトーラスとルルロア、今回はこの三人で依頼に臨ませてもらいます」
「……よろしく」
「よろしくお願いします」
ノルンの言葉に合わせて私とトーラスが会釈をすると、ゼペルはふむと顎を擦る。
「ノルンにトーラスにルルロラじゃな。では改めて儂も名乗ろう。儂はゼペル・ヘテル。元冒険者で、今はこの村……〝リーゼス〟の警備を任されておる」
なるほど、元冒険者とはいえ、あの老体であそこまでの覇気を纏っているのは村の警備という仕事に携わっていたからか。
しかし、そうなってくると、今回の討伐対象の魔物はやはり一筋縄ではいかない可能性の方が高い。
警備を任されている以上、その辺の魔物に負けるような実力ではないのは確実。
にもかかわらず、〝魔女〟のアライアに依頼してきたという事はその魔物はゼペルの手に負えなかったという事だ。
「ではさっそくですが、今回の依頼内容について詳しく教えてもらえますか」
「……ああ、じゃが、その前に……やはりアライアの奴はこんのか?」
神妙な顔でそう尋ね返してくるゼペルにノルンが怪訝な表情を浮かべる。
「はい、今回は私達に任せるとの事なので……なにか不都合が?」
「いや、不都合というあれでもないのじゃが……まあ、話を聞いてもらった方が早いか」
難しい顔でそう言ったゼペルは一口、お茶を啜ってから依頼の概要を語り始めた。
「今回の討伐対象はジアスリザードという魔物での。その群れが村に近い森に居座り始めたので安全のためにと依頼したんじゃ」
「じあすりざーど?」
「ジアスリザードは群れで行動する知能の高い魔物よ。体格が人に似ているのもあって過去には武器を扱う個体もいたと言われてるわ」
聞いた事のない名前に首を傾げているとノルンが丁寧に説明してくれる。
武器を使う魔物というのは確かに珍しいが、いないわけじゃない。
集落に残された古い資料しか知らない私でもそういう魔物の存在を知っているのでそれ自体が問題という訳でもないだろう。
「……ジアスリザードの群れは確かに厄介だが、それでも二級がそろったパーティがいれば対処できる。この村の規模からして戦えるのがあんた一人って訳でもないだろう?わざわざ他に頼む必要はない筈だ」
くる前はどんな魔物でも問題ないと断じていたトーラスがそんな疑問を口にする。
言われてみればこの規模の村の警備がゼペル一人の筈がない。
トーラスの言う通りならジアスリザードの群れというのはこの村の戦力で対応できる筈なので、そういう疑問が出るのは当然と言える。
「……お前さんの言う通り、ただの群れならうちの戦力でどうとでもなる。しかし、今回の群れは事情が違うんじゃよ」
「事情が違う?」
「ああ、知っての通り、ジアスリザードの厄介なところは知能……とりわけ学習能力の高いところじゃ。だからしぶとく生き残った個体なんかはジアスリザードキング、あるいはクイーンと呼ばれ、群れを率いる長となる」
「知っています。けれど、それでもトーラスの言う通り、二級以上のパーティ編成なら苦戦する事はあっても、倒せないなんて事はない筈ですよ」
ジアスリザードの生態について語るゼペルにノルンがそう返すと、それに対してその通りだと肯定した。
「――じゃが、運の悪い事に今回の群れはただ生き残ったわけではない。奴らは偶然にもある小国の騎士団を壊滅寸前まで追い込んで学習してしまったんじゃよ……その戦い方を、の」
「っ……!?」
「か、壊滅……?」
「…………」
ゼペルの口から語られたその衝撃の事実を前に私達は思わず絶句してしまう。
物語の世界でしか知らないけど、騎士団っていったらその国の防衛を一手に担っている強力な戦力のはず……いくら小国って言ったって二級のパーティで倒せる魔物の群れに壊滅寸前まで追い込まれるのかな……。
騎士団というからには人数だってそれなりにいただろうし、一人一人の強さはもちろん、統率も取れていた事は想像に難くない。
私は実際にそのジアスリザードと戦った事がないからはっきりとしたことは言えないけど、話を聞く限りではやっぱり騎士団側に負ける要素があるとは思えなかった。
「……儂も当事者ではない以上、詳細は分からんが、その騎士団はどうやら大型の魔物を討伐した帰り道だったようでかなり疲弊していたらしくての、そこで運悪くジアスリザードの群れに遭遇して敗走したようじゃ」
「運悪くってそんな……」
学習を武器とする魔物の群れと偶々かち合った騎士団が偶然、そいつらにも倒せるほど疲弊していたなんて誂えた状況が果たしてそう簡単に起こり得るのだろうか。
誰かがそうなるように仕向けたなんて言うつもりはないけど、ただの偶然で片付けるにはどうにも気持ち悪い。
……いや、今は要因を気にしてる場合じゃない。問題はその群れが騎士団との戦いで何をどう学習したか、だ。
トーラスやノルンと違って私はまだそのジアスリザードという魔物の脅威を正しく認識できていない。
だから学習という特性が厄介だというのは理解できても、魔物の基本能力が上がるわけではないならそこまでの脅威足り得ないだろうと思ってしまう。
「…………それで、その後はどうなったんですか?」
「……生き残った騎士団員は命からがら国に戻ってその群れについてを伝え、すぐに討伐隊が組まれた。疲弊していたとはいえ、自国の騎士団がやられたんじゃ。念には念を入れて一級相当の実力者を集めていたらしい」
二級のパーティでも倒せる群れを相手にそれは過剰戦力だと思うのだが、ノルン達の表情を見るにそうでもないようだ。
「……じゃが、その万全を期したであろう討伐隊は返り討ちに遭い、半数を失って戻ってきたそうでの。ついぞ小国も群れの討伐を諦めざるを得なかったようじゃ」
「なっ……それだけの戦力が返り討ちに……?」
非正規とはいえ私達がこうして依頼を受けてここにいる時点で討伐対象が健在なのは薄々察していたけど、まさかその過剰戦力を返り討ちにしていたとは思わなかった。
「そこまでの規模と被害が出ているならギルドに報告がいっているんじゃないですか?」
「無論、報告はいっておるじゃろう。しかし、一級相当の実力者達を退けた群れに迂闊な戦力は投入できないと動向を見張るだけに止まっておる」
「迂闊な戦力って、今の私達はまさにそれなんじゃ……」
ここまでの話を聞いて流石に学習能力の高さが十分に脅威だとようやく理解し、たった三人でこの依頼に挑むのは無謀さに思わずそんな言葉が漏れる。
「……じゃから最初に聞いたんじゃよ。アライアの奴はこんのか、と」
確かにここまでくると〝魔女〟であるアライアに直接依頼したのは納得だ。
ギルドが迂闊に動けないこの状況で万が一、村が襲撃されでもしたら目も当てられない。
それならギルドに通すよりも直接依頼した方が早いと考えたのだろう。
「……私達はアライアさんから相手はそこそこの魔物だと聞いてたのに」
「……どの辺がそこそこなんですかね」
「……それに関しては流石に僕も同意する」
ここに来る道中であれだけ言っていたトーラスですら今の話を聞いて私達と同じ気持ちなったらしい。
(((はぁ…………)))
共通の認識として私達三人は心の中でアライアだから仕方ないかという思いと共に諦めのため息を吐くのだった。
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