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第二章 エルフのルーコと人間の魔女
第70話 止まらない言い合いと突然の襲撃
しおりを挟む次の日、宿屋を後にした私達は魔動車を走らせて、ジアスリザードの群れが住み着き始めた森へと向かっていた。
「――信じられません!せっかく宿屋の人が作ってくれた料理にあんな大量の調味料をかけるなんて」
昨日の夕食の事と朝食の事を思い出して憤る私を向かいに座るノルンがまあまあと諫める。
「トーラスだって悪気があったわけじゃないだろうし、味だって個人の好みがあるから仕方ない部分もあるんじゃないかしら」
「だとしてもですよ、あれだけ調味料をかけて食べ終わった後で〝まずくはないが、ちょっと物足りない味付けだったな〟とか言うのはあまりに失礼じゃないですか!?」
実際にそう思っていたとしてもそれを声に出す必要はないし、仮に感想を共有したいのだとしても、食べ終わったその場、それも声を潜めるでもなく普段の声量で口にするのは流石に無神経が過ぎるだろう。
「…………別に嘘を言ったわけじゃないんだからいいだろ」
運転しながらも、話に耳を傾けていたらしいトーラスが抗議の言葉を吐く。
「噓じゃなかったとしても、普通は作ってくれた人に気を遣ってそういう言葉は控えると思うんですけど?」
「……気を遣う云々に関しては君に言われたくはないな。昨日、宿屋の玄関口で周りに配慮せずとんでもない事を口走ったのを忘れたとは言わせないぞ」
「あれは外の世界の常識と少しずれてただけで、私は別に変な事を言ったつもりはありません。無神経なだけのトーラスさんと一緒にしないでください」
「っ誰が無神経だ……!この…………」
「二人とも止めなさい!もういつジアスリザードと遭遇してもおかしくないんだから――――」
私達の口喧嘩を仲裁するためにノルンがそう言いかけた矢先、何かに気付いたらしいトーラスが魔動車を急に止めた。
「痛っ……」
「っ……何ですか急に」
急に止まった反動で体をぶつけた事を抗議すべく、トーラスの方を向くと、いつになく真剣な表情で車外に目線を向けているのが見える。
「……何かあったの?」
「……囲まれている。たぶん目的の群れだ」
「なっ……いつの間に……」
いくら口喧嘩していたとはいえ、魔物の群れに囲まれていたら視界に入って気付いてもおかしくないのに全くそんな兆候も見えなかった。
「数は分かる?」
「正確には分からないが、少なくとも二十や三十じゃ済まないだろうな」
「……どうします?このまま魔動車で一旦、離脱するって手もありだとは思いますけど」
思考を切り替え、どうやってこの場を切り抜けるかを考えてそう提案すると、トーラスが首を振って答える。
「……いや、ここは降りて交戦すべきだ。確かに囲まれたこの状態で戦うのは不利だろうが、それでも離脱に失敗した場合を考えるとまだその方がましだろう」
「でも、この囲まれてる状況で正面から全部倒すのは無謀ですよ。何か作戦はあるんですか?」
「それは……」
「……どうやらあんまり考えてる時間はなさそうよ」
ノルンの一声に外へと目をやると、人の倍くらいの大きさで全身を鱗に覆われた魔物がぞろぞろと出てくるのが見えた。
あれがジアスリザード……武器や鎧を装備した個体も見えるけど、たぶん例の騎士団から奪った装備だね。
騎士の構え方は知らないが、それでも私の目にはジアスリザード達のそれは中々にしっかりしたものに映った。
「……とにかく魔動車からは降りるぞ。このまま籠って攻撃されたら帰りの足を奪われるからな」
「……そうね。ひとまずこの群れを魔動車から引き離しましょう」
その意見に賛同し、手早く必要な物を取ってから一斉に車外へと飛び出す。
「こっちだっ急げ!」
トーラスが声を上げて駆け出すのに合わせて私とノルンも走り、魔動車から距離を取る。
あえて大きな声を上げたのはジアスリザード達の注意を引きつけるため。
その思惑は上手くいったようで私達を囲んでいたジアスリザード達が一斉にこちらへ向かってきていた。
「っ魔動車から引き剝がせたのはいいんですけど、この後どうするんですか?」
「っそうね、とりあえずある程度開けた場所に移動したいところだけど、私達はこの森の地理には詳しくないわ。だから走り回って探すくらいしか思いつかない……」
そう言いながらノルンは戦闘を走るトーラスへ視線を向け、声を掛ける。
「……迷わず走ってるみたいだけど当てはあるの?」
「――そんなものあるわけないだろっ今はとにかく開けた場所に出るために勘で走ってるんだ!」
ノルンの問いに対して半ば自棄になった様子で答えるトーラス。
状況的に仕方なかった部分もあるが、それでもまさか何の考えもなしに走っているなんて思いもしなかった。
「勘っ!?そんな曖昧なもので当てもなく走ってるんですか?」
「うるさいっ!こんな状況でどうしろって言うんだよ!」
「こんな状況だからこそ闇雲に走り回らず、冷静に何か手を考えるべきですよねっ?」
「……ちょっと、こんな状況で揉めないでくれるかしら?」
走りながら大声で言い争う私とトーラスをノルンが心底呆れた声で止める。
大声を出しながら走るなんて体力の無駄でしかないのは分かっているのだが、それでも心情的に言わずにはいられなかったのだから仕方ない。
「――グガァァァツ!」
複数の鳴き声が聞こえたと思ったら、いつの間にか後ろだけではなく、横からも並走しているジアスリザードの姿が目に入る。
「っほら、貴方達が無駄な言い争いをしてるから追いつかれちゃったじゃない!」
「いや、それは僕達のせいって訳じゃ……」
「……強化魔法も使わずに走ってるだけですからそれは追いつかれますよ」
「こういう時ばっかり息を合わせないでくれるかしら……?」
ぴきりと青筋を立てるノルンに迫るジアスリザードの群れ以上の脅威を感じたところで、ようやく木の生い茂っていない開けた場所に辿り着く事ができた。
「――よし、ここなら存分に戦える」
どうだ僕の勘も捨てたものじゃないだろうと言わんばかりの顔を向けてくるトーラスにいらっとしつつも、ある事に気付いた私は思わず頬を引き攣らせる。
「……勘とか言う前に周りを見た方がいいですよ」
「何?」
「……どうやら私達はここに誘導されてたみたいね」
注意して周りを見ると草むらの陰から追ってきたのとは別のジアスリザード達が潜んでいるのが見えた。
知能が高いって話は聞いてたけど、即席で待ち伏せまでしてくるなんて……。
おそらく魔動車の音で私達が森に入った事に気付き、そこから待ち伏せを画策したのだろうが、あの短時間でここまで統率のとれた動きをしてくるとは思わなかった。
「グギャギャッ」
「グギャッ」
「ギャギャッ」
取り囲んだ事で自分達の優位を確信したのか、ジアスリザード達は愉悦の籠ったような鳴き声を上げている。
「……本当に大した勘ですね、トーラスさん」
「……うるさい」
「はいはい、喧嘩しない。ここまで囲まれたら戦うしかないんだから、いがみ合ってないできちんと協力して」
再び口喧嘩に発展する前にそれを止めたノルンは上着から何かを取り出し、それを身の丈ほどの杖に変化させて斜めに構えた。
「……心配しなくてもそれくらいは分かってる」
「……トーラスさんと同じ意見なのはあれですけど、私もその辺はきちんと線引きしてるつもりです」
ノルンに続いてトーラスが剣を抜き放ち、私もジアスリザード達を見据え、いつでも魔法が撃てるように身構える。
「…………本当にこういう時だけは息ピッタリね、あなた達」
呆れ笑いを漏らしつつも、すぐにジアスリザード達の方に向き直るノルン。
正直、この状況はかなりまずいが、死ぬつもりは毛頭ない。
今にも襲ってきそうなジアスリザード達を前に撤退も視野に入れながらも、私達はそれぞれ強化魔法を発動させた。
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---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
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