〝凡才の魔女〟ルーコの軌跡~才能なくても、打ちのめされても、それでも頑張る美少女エルフの回想~

乃ノ八乃

文字の大きさ
79 / 172
第二章 エルフのルーコと人間の魔女

第76話 魔力集点と暴風による蹂躙

しおりを挟む

 ルーコちゃんから時間稼ぎを引き受けた私は、一人奮闘するトーラスにもそれを伝えるべく強化魔法を全開にしてジアスリザードの群れの中へと斬り込んだ。

「ふっ……!」

 勢いよく影の刃を振るって何匹かを仕留めようとするものの、やはりこちらの間合いは見切られているらしく、速度に任せただけの攻撃では当たらない。

ならその見切りを利用するまで……!

 手首を返して杖をくるりと回す。

影の黒鞭シャーディラック

 杖先の影が形を変えてしなり、細長い鞭となってジアスリザードの頭を捉え、巻き付いた。

「ギュアッ!?」
「ちょっと体ごと使わせてもらうわ、よ!」

 そのまま強化魔法で上がった膂力に任せて杖を振るい、ジアスリザードの体を武器にして群れが固まっているところにぶつける。

「もうっ一回!」

 もう一度杖を振るって薙ぎ払い、道を作ってトーラスのいるところまで一気に駆け抜けた。

「っノルン!?どうしてここに……ルーコを連れて逃げろっていっただろ」

 突如として飛び込んできた私に驚きつつも、トーラスは一匹を斬りつけて仕留め、逃げていない事に対しいて非難と怒鳴りをぶつけてくる。

 トーラスからしたらせっかく危険に身を晒して時間を稼いだのに、それを無駄にしてきたのだから怒るのも当然だろう。

「そのルーコちゃんから頼まれたのよ。時間を稼いでくれってね」
「……何?」

 私がそう言うと、トーラスは眉をひそめて問い返してくる。

「……ルーコちゃんにはこの状況を何とかする考えがあるみたい。それでそのためには時間が必要だって」
「…………そうか、わかった」

 特に言及してくることもなく、それだけ言って向き直り、剣を構えるトーラス。

 どんな考えなのか、どのくらい時間を稼げばいいのか、本当にこの状況をなんとかできるのか、聞きたい事が山ほどあってもおかしくないのに何も言わないトーラスを見て思わずふっと笑みが零れる。

「……何だ」
「ごめん、ごめん、つい、ね。なんだかんだでトーラスもルーコちゃんを信じてるんだなと思って」

 ルーコちゃんにはああ言ったけれど、実際にトーラスがどういう反応を示すのかは分からなかった。

 信じないとまではいかないものの、何かしらは言うんじゃないかと思っていっただけに、その反応は良い意味で予想外だった。

「別に……付き合いは短いし、癪に障る事をいう生意気な奴だとは思っているが、あいつは……ルーコは自分にできない事をいうような奴じゃない。だからそのために時間稼ぎが必要というならそうする……それだけだ」
「……そう、ならルーコちゃんの準備が終わるまで付き合ってもらうわよ」

 言葉に笑みを返し、私とトーラスは互いに背中合わせになってジアスリザード達と向き合う。

 いくらか倒したとはいえ群れはまだ相当数が健在、おまけに異様に大きいジアスリザードキングまでいるという現状で時間を稼ぐのは相当に骨の折れそうだが、それでもやるしかない。

この状況で一番注意しないといけないのは――――

「ガアアアアアッ!!」

 最悪を想定して考えを巡らせようとしたその瞬間、ジアスリザードキングが咆哮を上げて一方に向かい、駆け出した。

「っトーラス!アレを止めて!!」

 キングの向かった先には詠唱中のルーコちゃんがいる。

 おそらく経験から先に詠唱を止めるべきだと判断したのだろうけど、それはまずい。

 このままキングを行かせてしまうと詠唱が完成する前の無防備なルーコちゃんがやられてしまう。

「っくそ!」

 悪態を吐きながら強化魔法を足に集中させてキングの前へと躍り出たトーラスは剣を振るってその進行を止めようとする。

「ガアッ!」

 進路を塞ぐように現れたトーラスに対してキングは邪魔だと言わんばかりに大刀を薙ぎ、吹き飛ばそうとしてくる。

「っなんて力をしてるんだよ……!」

 強化魔法を足と手に集中させてどうにか踏ん張り、剣を受け止めたトーラスだったが、膂力の差が圧倒的に開いているらしく、苦悶の表情を浮かべていた。

「トーラス!」
「く……っこいつは僕が止める!だからノルンはその群れを……」

 そこまで言いかけたところでキングが大刀を引き、再び振りかぶって一線に薙いでくる。

「ちっ、く……舐めるなぁっ!」
「グガァッ!」

 激しい金属音と火花を散らしてぶつかり合う剣と大刀。

 獲物と膂力の差を考えればすぐに決着がついてもおかしくないように思えるが、トーラスが上手く衝撃を流して剣戟を成立させていた。

「グギャァァッ!」
「っ向こうを気にしてる余裕はないみたいね」

 キングと戦っているトーラスも心配だが、こっちの群れも放置するわけにはいかない。

 ここでこいつらを放置すればキングと同じく詠唱中のルーコちゃんを狙いに行くのだろうから。

「影よ――『影千刃シャフレウド』」

 影を鋭い棘に変えて攻撃、そしてすぐさま杖の先から影の刃を生み出して薙ぎ払うように斬りつける。

「っ同じ手は通じない事ね」

 魔法で牽制して本命の攻撃を当てるというのはもう何度か使っている手法で、内容を変えているとはいえ、学習能力の高いジアスリザードにはもう通用しないらしく両方ともかわされてしまった。

「でも、ここは無理矢理にでも仕留める……!」

 杖を回し切り替え、魔力をさらに込めて再び杖を振り抜いた。

「ギュ――」
「ァ――?」

 魔力を注ぎ込まれた影の刃はその刀身を倍以上の大きさに変え、間合いを見切ってかわしていたジアスリザード達の胴体を切り裂く。

――――まだっ!

 身体を軸に回転し、勢いをそのままに振り抜いた杖を再度振るう。

 今度は杖先の影を放射状の刃に変えてより広範囲の敵を巻き込んで狙うも、逃げられてしまい、思いの他、数を仕留める事ができなかった。

……魔力をかなり消費した上に思ったよりも数を減らせなかったけれど、それでも警戒させる事はできた。

 倒せるに越した事はないが、目的はあくまで時間稼ぎ……そしてさっきの攻撃は攻めあぐねさせるには十分な脅威に映った筈だ。

「……これでしばらくは稼げるかな」

 様子を窺って攻めてこないジアスリザード達の方を向いたまま、ちらりとトーラスの方に目をやる。

「ぐっ……そっ!」
「ガアアアアアッ!」

 最初は技術で受け流していたトーラスだったが、猛烈な剣戟の嵐を前に防戦一方を強いられていた。

 あの巨体から繰り出される一撃一撃は重く速度を伴っており、さらにはここまで戦ってきた相手の剣技を学習して模倣しているらしく、剣線自体が捌きづらいようだった。

……しかもあそこまで密着してるとなると、トーラスはまともに技も使えないし、長くは持ちそうにないわね。

 トーラスの使う技であの巨体に通じるものとなるとどうしても溜めが必要になる。

 しかし、あんな激しい剣戟の中で溜めを作る暇なんてある筈もなく、このままではトーラスがやられるのも時間の問題だった。

「……とはいえ私が手助けに入ろうとすればこの群れは警戒を止めてルーコちゃんの方に行くだろうし……八方塞がり、ね――――――」

 どうやってこれ以上の時間を稼ごうかと考えを巡らせた矢先、急に辺りが薄暗くなった気がしてはっと上を見上げる。

空が……ううん空気が震えている?

 見上げた先、さっきまでまばらだった雲が渦を巻くように上空へ集まり始めていた。





 時間を稼ぐためにノルンが駆け出していったすぐ後、私は残った魔力を振り絞って一点に集め、覚悟と共に詠唱を口にした。

「〝命の原点、理を変える力、全てを絞り、かき集める……先はいらない、今ほしい、灯火を燃やせ、賭け進め〟」

 使用するのは魔力を集め、一時的に爆発させて使い切る魔術。魔力の少ない私にとって正真正銘の切り札だ。

 今の私の魔力じゃ改良した方を使っても足りない……だからこっちで魔力を限界まで引き出す。

 大きく息を吸い込んで魔力を身体の中心に集めて圧縮、呪文と共に一気に解き放った。

――――『魔力集点コングニッション

 圧縮された魔力が勢いよく全身を駆け巡り、身体が脈打つように熱を持つ。

「っ……やっぱり改良前のこれはかなり危ない」

 物凄い勢いで魔力が溢れ、一瞬でも気を抜けば暴発して霧散しそうになる。

 初めて使った時は分からなかったけど、改良前のこの魔術は魔力を限界まで引き出すだけでなく、という効力を持っていた。

 当然ながらそんなものまで魔力に変換してしまったら代償として命の危険が伴う。

 最初に使った時は魔力切れの症状だけで済んだが、使用時間が長引けば長引くほど、あるいは使用する魔力が増えれば増えるほど、命を落とす可能性が高まるだろう。

「……それでもを使うにはこの魔術が必、要……だから危険を……承知で……やるしかないっ!」

 今から使うは本来なら私には扱えない量の魔力が必要だ。

 そのため改良前の『魔力集点』でなければならず、それでも足りるか分からないし、仮に足りたとしても、私が生き残れるかはかなり分の悪い賭けになる。

たとえ分が悪くても全滅するよりは良い……覚悟を決めろ、私。

 溢れる魔力を一気に練り上げ、決意と覚悟を込めてその詠唱を口にした。

「〝大気渦巻く空、降りろ、巻き込め、風の牢獄……〟」

 詠唱に魔力を込める毎に全身から力が抜けていくのが分かる。

 一言、また一言と口にする度、冷や汗が滝のように流れ落ちていく。

「〝っ……天より落つるは荒ぶる圧槍――――〟」

 私の身体から流れ出た魔力が空気に溶け込み、さらなる風を呼んで雲をも巻き込む規模へと膨れ上がった。

「っ……二人共こっちへ!!」

 詠唱は成った。意識を途切れさせないよう声を振り絞って叫び、トーラスとノルンが私の方に離脱してきたのを確認してありったけの魔力を……全てを絞り出す。

「――――――」

 ひゅうひゅうごうごうぎゅるぎゅる……聞いた事もないような音が響き渡り、周囲の土や木といったあらゆるものを巻き込んで暴風が渦を巻く。

 圧倒的な風の暴力の前に優れた知能による学習も巨体から飛び出す凄まじい速力も意味を為さない。

 巻き込まれ、磨り潰され、木くずや土と共にジアスリザード達は宙を舞う。

「〝穿て〟――――『凄風の天獄穿ルーリレドレブアリア』」

 振り絞った全てを呪文に乗せて振り下ろしたその瞬間、風音が爆ぜ、遥か天高くから大質量を秘めた暴風の槍が渦巻くものを呑み込み、降り注ぐ。

 そこには悲鳴を上げる暇も、咄嗟に逃げる隙もない。

 ただただ蹂躙という言葉のみが目の前に広がっていた。

――――これで――――終わり――――…………

 もはやまともに目を開ける事も叶わない衝撃と轟音で吹き飛ばされないように踏ん張るも限界がやってくる。

 荒れ狂う暴風と巻き上げられた土煙で塞がる視界の中、放った魔術の行く末を見終えるよりも先に私の意識はそこで途絶えてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

異世界召喚されたが無職だった件〜実はこの世界にない職業でした〜

夜夢
ファンタジー
主人公【相田理人(そうた りひと)】は帰宅後、自宅の扉を開いた瞬間視界が白く染まるほど眩い光に包まれた。 次に目を開いた時には全く見知らぬ場所で、目の前にはまるで映画のセットのような王の間が。 これは異世界召喚かと期待したのも束の間、理人にはジョブの表示がなく、他にも何人かいた召喚者達に笑われながら用無しと城から追放された。 しかし理人にだけは職業が見えていた。理人は自分の職業を秘匿したまま追放を受け入れ野に下った。 これより理人ののんびり異世界冒険活劇が始まる。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...