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第三章 魔法使いのルーコと絶望の魔女
第115話 絶望の魔女と甦る光景
しおりを挟むレイズが漏らした不穏な言葉の正体……それを私はすぐに知る事になった。
「――――はぁ……はぁ……ッ」
新たに現れた人と魔物の死体人形を全て相手取り、殲滅せしめたノルンだったが、その表情は苦しげで額に尋常ではない量の汗が滲んでいる。
「おかしい……ノルンさんは一撃も食らってないはずなのに……」
魔術を発動させてからのノルンは圧倒的なほど優位に立っており、一撃どころか、かすり傷すら負っていない。だからあそこまで疲労や苦痛の色が見えるのはあまりに不自然だった。
「……別におかしな事はない。今のノルンの状態はお前にも覚えがあるものだ」
「私にも?…………あ」
その言葉に記憶を辿った私はすぐにある可能性へと行き着く。
……そうか。あれは私が『魔力集点』を使った時と同じ……魔力切れの兆候だ。
考えてみれば当然だ。ノルンの魔術がレイズの言う通りなら、膨大な影を出力した時点で相当量の魔力を消耗する。
だからこそノルンはあの黒衣に膨大な影を凝縮する事でそれを抑えたのだろうが、あの数の魔物と人の死体人形を相手に大立ち回りを演じた以上、消耗は避けられない。
「……気付いたか。お前の『魔力集点』程とはいわないが、見る限りあの魔術も消費が激しい。おそらく、ここまでの連戦を想定したものではないんだろうな」
レイズの言う通り、ノルンの魔術は運用法から考えれば多対一を想定はしていても、その状態で継戦し続けるのを魔力消費が許さないのだろう。
「っノルンさん下がってください!ここからは私が――――」
「ッまだよ!ルーコちゃんはまだ体力と魔力を温存してなさい!!」
最早、魔力が尽きるのは時間の問題だと交代を叫ぶも、ノルンはそれを頑なに拒否し、まだ動くなと大声で返してくる。
後ろに〝魔女〟の存在が控えているであろうこの状況で、戦力を温存したいという考えは理解できるが、あそこまで消耗した状態で戦いを続けてしまえばノルン自身が致命的な傷を負うかもしれないのだ。
それなら魔力を温存できなかろうと、二人で負担を分散しながら戦う方が賢明な筈だ。
「ゴアアアァァァッッ…………」
ノルンの言葉を無視して飛び出そうかと迷っている内に再び茂みの奥から魔物の咆哮が聞こえてくる。
「……次の相手のお出ましってわけね……いいわ、かかってきなさい」
深く息を吸って吐き出し、ノルンが構えると地鳴りのような足音共に全身を歪な筋肉で覆われた二足歩行の魔物が突進を仕掛けてきた。
「ゴアアアアァァッ…………」
「ッ……!」
大きさこそさっきまで魔物とさして変わらないものの、その突進の威力は段違い。黒衣の裾を変化させて防いだノルンが苦悶の表情を浮かべ、じりじりと押され始める。
「ッノルンさ――」
「動くな、と言われただろ。まだお前の出る幕じゃない」
加勢に行こうとするも、レイズに襟首を掴まれてしまい、私は動くに動けない。このままではノルンが危ないというのに。
「っ……せっかくの実戦の機会だってレイズさんは言いましたよね?なら見ているより私が戦うべきじゃないんですか!」
「……そうだな。確かにそう言った。が、今は違う。あの子が……ノルンの奴が何かの考えの下、戦ってるんだ。ならそれを酌むのが師の務めってもんだろ」
言葉を逆手に取って説得を試みるつもりが、レイズの信じていると言わんばかりの表情を見て、逆に私の方が納得しかけてしまった。
「っで、でも……」
「それに、だ。もう十年以上も前とはいえ、この俺が育てた弟子だぞ?あの程度、何の問題もない」
レイズの不敵な笑みからくる自信満々な言葉が聞こえたかどうかは分からない。けれど、その言葉通り、押されていた筈のノルンもまた不敵な笑みを浮かべて踏み止まっている足を地面に打ちつけた。
「ゴアァッ……」
瞬間、突進してきていた筋肉魔物の足元から影の塊が飛び出し、その巨体を仰け反らせる。
「……この死体人形以外に後続が出て来ないのを見るにこれが本命なのかしら、ねッ!」
仰け反らせることで出来た隙を逃さないと言わんばかりに踏み込んだノルンは大鎌を這わせるように下から振り抜き、筋肉に覆われた外皮を切り裂いた。
「まだッ!」
その一撃だけでは浅いと振り抜いた勢いをそのままに回転、自らの身体を軸にして回り続け、連続斬りを叩き込む。
鋭い影の刃が次から次に致命傷ともいえるような斬撃を浴びせ続けるが、他の個体よりも再生力が高く、中々、倒し切るに至れない。
「ガアアァァッッ…………」
「ッ……!?」
斬り刻まれる事に慣れてきたのか、その異常な再生力を盾に筋肉魔物はどす黒い血飛沫を撒き散らしながら少しずつ距離を詰めてきた。
いくら死体人形だとしても斬り刻まれながら前進してくるのは生物の本能的をあまりに無視している。
その点も含めてやはりさっきまでの死体人形とは訳が違うらしい。
「ならこれでッ……!」
距離を詰められたからといって引き下がれば再びあの強烈な突進がくる。
だからこそ攻撃の手を休めるわけにはいかないと判断したノルンは回転を止めずに黒衣の裾から影を拡げて刃を生成、近付けば近づく程に自身の手数が増えていくよう仕向けた。
再生力対影の連撃、互いに削り合う激しい攻防の決着は意外にも早くつく事となる。
魔物の進みが遅くなってる……?
手数を増やして攻撃の手を緩めないノルンとは対照的に、筋肉魔物の進みは遅く、むしろじりじりと後退しているようにも見えた。
「っはぁぁぁぁ!!」
ノルンもその事に気付いたのか、裂帛の叫びと共に加速し、筋肉魔物を一気に斬り刻む。
「ガ、ギ、ゴァッ――――」
ついに驚異的な再生力も限界を迎えたらしく、筋肉魔物はされるがままに全身を斬り刻まれ、原形を留めず、二度と動けない様へと姿を変えた。
「ッ……はぁ……げほッ……はぁ…………」
ひとまず無事に脅威だった筋肉魔物を退けたノルンだったが、度重なる魔力の消費と連続攻撃による疲労から嘔吐き、息切れを起こしてその場に膝をついてしまう。
「っ大丈夫ですかノルンさん!」
とりあえずの戦闘が終了した今、流石のレイズも駆け寄ろうとする私を止めるような真似はせず、無言で頷いた。
「っ……はぁ……はぁ……ルーコ……ちゃん……」
「無理に喋らないでください。ひとまず呼吸を落ち着けて」
駆け寄る私に気付いたノルンが息も絶え絶えのまま喋ろうとするのを止めて背中を擦る。
これが怪我によるものなら治癒魔法で治す事もできるのだが、疲労と魔力切れでは私にできる事は少なく、これくらいしかやれる事がなかった。
……ノルンさんの奮闘のおかげで死体人形は殲滅できたけど、これで終わりな訳ないよね。
前回の襲撃程の規模は無いにしろ、ここに向けられた戦力は少ないと言わざるを得ない。
確かにノルンの魔術は強力だったが、それでも一人で対処してしまえる時点で不自然だ。
仮にも相手は〝死遊の魔女〟……この程度の戦力しか持っていない筈がない。
「はぁ……っルーコちゃん!!」
「っ!?」
背中を擦りながらそんな事を考えていると、何かに気付いたらしいノルンが切羽詰まった表情で声を上げ、私の身体を突き飛ばした。
瞬間、私の目の前で繰り広げられたのはあの時の光景。ブレリオの命を奪った黒い閃光がノルンを襲い、そのまま身体を貫く姿を幻視する。
「ッあぁぁぁぁ!!」
もう二度とあんな悲劇はごめんだと、絶対に起こさせないと決めていたのにそれが起きてしまった。目の前の惨劇を否定したくて声にならない叫びを上げて必死に駆け寄ろうとする。
けれどそれは叶わない。黒い閃光は過たずノルンの腹部に命中し、その身体を大きく吹き飛ばしてしまった。
「――――まずは一匹」
黒い閃光が飛んできた先、そこには全身を黒の装束で統一した不健康そうな少女……〝死遊の魔女〟であるガリスト本人が髑髏のついた杖を構え、立っていた。
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