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第三章 魔法使いのルーコと絶望の魔女
幕間 賢者と魔女達の契約
しおりを挟むこれで何度目の後悔だろうか。〝魔女〟という高みにいても、肝心な時には間に合わない。
今回だって警戒していたにも関わらず、〝死遊の魔女〟の襲撃を許し、駆けつけた時には全て終わっていた。
「……こんな調子でパーティのリーダーって言うんだから笑えるよね、全く」
「…………おい、どうでもいい自虐なら後にしろ。わざわざお前が今回の件と今後について話したいと言うから集まったんだ。時間を無駄にさせるな」
「ちょ、レイズサン、アライアサンだって色々思うところがあるんスから、そんなばっさりと……」
少し苛々した様子のレイズに対して場の雰囲気が悪くならないよう、慌てて取りなそうとする。
「……いいよ、リオーレン。レイズの言う通り、時間の無駄なのは確かだし、さっさと始めようか」
ばっさりと切り捨ててくれた事でむしろ踏ん切りがついた。後悔したところで何も生まれないと思考を切り替え、話を進める。
「ふん、ようやくか。ならまずは今回の事を引き起こした首謀者に喋らせるのが早いだろ」
軽く嘆息して片目を瞑り、片手に鷲掴みしていたそれを放り投げた。
「ぎゃふっ!?……おい、いきなり放り投げるな!」
潰れたような悲鳴と共にレイズへ抗議の声を上げたのは小さく黒い毛玉のような何か。それはもぞもそと床を這いずり、おそらく顔であろう部分を私達の方に向けてくる。
「…………これが、あの?」
「……ああ、この黒毛玉こそが〝死遊の魔女〟ガリスト……その成れの果てだ」
レイズから告げられたその言葉にリオーレンは疑念と困惑の入り混じった表情を浮かべるが、それも無理はない。
悪名高く、屍を従えて実験を繰り返す狂人と噂の〝死遊の魔女〟が小さく黒い毛玉のような獣の姿だったのだ。驚き、疑うなという方が難しいだろう。
「……何をじろじろ見てるんだ。見世物じゃないぞ、このっ」
「……うるさいぞ、黒毛玉。絞めて晩ご飯にしてやろうか?」
「ハッ、やれるもんならやってみなよ。そもそもこの身体は元々死体だから食えたものじゃないだろうけどね」
「…………食べられる、食べられないの話じゃないと思うんスけど」
ぴょんぴょん跳ねて威嚇してくる黒毛玉ガリストに低く冷めた声で返すレイズと二人のやり取りに呆れ交じりのため息を吐くリオーレン。
ついこの間まで……いや、正確に言えばまだ敵ではあるが、そんな相手を前にして茶番に近いやり取りをしている現状は少し異常と言えるかもしれない。
「全く……できる事ならすぐに始末してしまいたいところだけど、面倒な事になったね」
謎の集団の一員、危険な思想を持つ〝魔女〟、そしてなにより、今までの所業を考えれば生かしておく理由の方がないのだが、瀕死のルーコちゃんを助ける代わりに命の安全を保障する契約をレイズがした以上、それを破る事はできなかった。
「はぁ……確かに面倒ではあるが、問題はないだろ。あの状態では最早、魔術どころか、もうまともに魔法は使えない。なにせルーコを助けた時に残った魔力も使い切ったからな」
「……だとしても、油断は禁物だよ。魔力がなくたって動く身体と考える頭があるんだから」
「だとしても、だ。不審な動きの一つでも見せたらそく殺す、それも契約に含まれている以上はせいぜいさっきみたいに悪態を吐くのが関の山だろうな」
〝魔女〟にとっての契約というの単純な約束事ではなく、守らなければ互いに罰を受ける一種の魔術のようなもの。だから普通なら互いに破る事はないはずなのだが…………
「…………レイズもガリストも普通じゃない精神性と魔術を持ってるのが不安なんだよねぇ」
「ん?何か言ったか」
「……いんや、何も。それより、そろそろ仲間の事を喋ってもらおうかな、〝死遊の魔女〟」
ぼそりと漏れ出た本音を誤魔化し、黒毛玉に向かって問いかける。もうすでにこの問いは何度か繰り返しているのだが、芳しい答えはいまだに返ってきていなかった。
「……何度も言ってるだろ。知ってる事はもう話したし、アイツらが今どこにいるかは知らない。拠点をいくつかは知ってるけどそれだけだって」
「……ああ、確かに何度も聞いたよ。でも、その拠点の情報以外、ほとんど一般的に知られてるものばかりだ。仲間ならもっと他に知ってる筈だろう?」
ガリストの話した中には一応、有益と言える情報もなくはなかったが、それも曖昧だったりと信憑性に欠けるものばかりだった。
「だーかーら、これも何度も言ってるけど、ボク達の間に仲間意識なんてものはなかったんだって。第一、ボクは見捨てられて処分されかけたんだから、アイツらの事を隠す理由なんてなおさらないよ」
「…………庇う訳じゃ無いが、俺もこいつは嘘を言ってないと思うぞ。自分の今後がかかっている状況でわざわざ殺そうとしてきた相手の事を隠すような人間じゃないだろうしな」
「そういわれると確かに…………」
ガリストの事をそこまで知っているわけじゃないが、所業を考えればレイズの言っている事も一理あるかもしれない。
「……今の彼女の事は知らないっスけど、昔はもっと普通でしたよ。師匠である〝魔女〟にべったりで……本当の親子みたいでしたね」
「リオーレン?」
「……何だ?こいつの昔を知ってるのか?」
唐突にそんな事を言い出したリオーレンに私とレイズが首を傾げて尋ねる。
「知ってる、って程でもないっスけどね。ただ昔、うちの師匠と少しだけ交流があったんで、その時に見かけたってだけっスよ」
「…………お前は、そうか、あの人の知り合いの弟子か」
黒い毛玉だから表情は分からないが、リオーレンの口から昔の話題が出た瞬間、声の調子が落ちたような気がする。もしかしたらガリストにとって触れられたくない過去だったのかもしれない。
「そうっスよ。正直、あの時の少女がここまで堕ちるとは思ってなかったっスけど、師匠があんな事になったら――――」
「ッ何も知らないくせにあの人の事を語るな……!」
ここまで見せたことのない静かな怒りをあらわにしたガリストに対し、リオーレンはそこで言葉を呑み込み、気まずそうに頭を掻いて話題を切り替える。
「……あーどうにも触れちゃ駄目だった見たいっスね。まあ、それは置いておくとして、ボクが気になってるのはルーコサンの命を繋げた方法っス。確か、貴女は二つ名の通り、死体を操る魔術が得意なはず……治癒は専門外っスよね?」
「…………ああ、そうだよ。確かにボクは治癒なんて専門外だ。だから正確には治療じゃなく、魂を繋ぎ止めたんだ」
どこかそっぽを向いた様子を見せたガリストはリオーレンからぶつけられた疑問を素直に答えた。
曰く、ガリストの魔術は根本的に魂を由来にしているらしい。簡単に説明すると、死体という魂のなくなった抜け殻に疑似的な魂を魔力で創り出して入れ、操るというのがあの魔術の原理との事だ。
欠点として他人の魂に干渉して操るなんて事はできないが、自分のものは例外のようで、あの時は朽ちかけていた身体から今の黒毛玉に魂を移し替えた事で生き永らえた。
「――――肉体が死を迎えても魂さえ残っていれば多少なりとも延命できる。普通なら他人の魂に干渉はできないが、あの時のルーコちゃんは瀕死で弱っていたし、追い出すんじゃなく、繋ぎ止めるのが目的だったから上手くいったんだよ。ま、残ってた魔力を全部持っていかれたけどね」
「……なるほど、それで合点がいったっス。あそこまで瀕死の状態でどう延命したのか、ちぐはぐだったんスけど、治療じゃなく魂を繋ぎ止めるなんて方法があったんスね」
自らの魔術の核だというのに包み隠さず話したガリストの説明を聞いて納得したように頷くリオーレン。この辺り、ガリストは研究色の強い〝魔女〟だったのだろう。
……過去を掘り起こされかけた時の反応……それに魂や死にまつわる魔術……たぶん、ガリストの目的は…………ううん、止めよう。考えたところで意味はないだろうしね。
たとえどんな理由があろうと、ガリストのやってきた事がなくなるわけじゃないし、犠牲になった人達が甦るわけじゃない。
だから根底にどんなに純粋で優しく、悲しい願いがあったとしても、私はそれに共感するわけにはいかなかった。
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