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第四章 魔女のルーコと崩壊への序曲
第153話 魔物の脅威と不自然な対応
しおりを挟む「――――で、何か言い訳はあるか?」
怒気を孕んだトーラスの言葉に私はただひたすらに身を縮こまらせ、正座をしたままそれを受け止める。
普段ならトーラスが何を言おうと、売り言葉に買い言葉で噛みつくのだが、今回ばかりは私が悪いので何も言い返せない。
「まあまあ、その辺にしてやれよ。嬢ちゃんも反省してるみたいだし……」
「反省するのは当たり前だ。そもそも依頼の最中……それも今回はパーティのリーダー役にもかかわらず、寝坊するなんて論外。ましてその理由が夜ふかしだと?ふざけるのも大概にしろ!」
「…………ごめんなさい」
何一つ間違っていないトーラスの正論に謝る事しかできない私。
とはいえ、流石にずっとこのままでは依頼も進まないため、今後は絶対に寝坊しませんという宣言を私にさせ、トーラスは渋々矛を収めてくれた。
一悶着あったものの、ひとまず、私達は例の魔物に関する情報を手に入れるべく、生き残った冒険者に話を聞く事に。
村長の案内で訪れた一軒の家で待っていたのは私と同じく、視力を補強する道具である眼鏡をかけた物静かそうな少女だった。
「…………魔法使いのニルです。貴方達があの魔物を討伐しにきた人達ですか?」
淡々とした声音で尋ねてくる彼女の身体にはあちこちに包帯が巻かれており、魔物との交戦、逃走がいかに厳しいものだったのかを物語っている。
「……はい、国からの依頼を受けてきました〝魔術師〟のルルロアです。この二人は仲間のトーラスとウィルソン。以上、三名で今回の討伐に臨みます」
「たった三人……国はこの事態の深刻さを分かってないんですか」
私の答えを聞いた彼女は表情を歪め、唇を浅く噛む。
たぶんだけど、彼女達冒険者を壊滅させた程の魔物を相手に、送られてきたのが一見して子供に見える私を含めて三人という事実に対して憤っているのだろう。
「……確かに三人と人数は少ないですが、こちらとしても少数精鋭……一人一人が並み以上の力を持っていると自負しています。たとえ、どんな魔物が相手だろうと討伐するつもりですよ」
そんな彼女の反応を前に自分達の力量が軽んじられていると感じたのか、トーラスが少しむっとしたように返す。
まあ、私が逆の立場でも彼女と同じ事を思うかもしれないけど、それがこちらの力量不足なのか、それとも、魔物の脅威を見ている故の反応なのかは分からないが、魔術師という肩書を聞いてなお、その言葉が出てきたという事は、後者なのかもしれない。
「だな。流石にトーラスみたいにどんな魔物でも……とまでは言わないが、俺達だってそれなりにやるぜ?」
「……貴方達はあの魔物の恐ろしさを知らないからそんな事が言えるんですよ。たった三人でアレに挑むなんて自殺行為もいいところです」
どことなく、場の空気が良くない事を悟ってウィルソンが冗談めかした口調でそういうも、彼女は表情を変えず、どこか非難を孕んだ視線を向けてくる。
「……そこまで強いんですか?その魔物は」
「…………あれは強いなんてものじゃありません。あの魔物の操る炎で仲間は焼き尽くされ、近付く事すらできないまま一方的に蹂躙されました。あれを倒すには軍単位で人を動かすか、人外と呼ばれる最上位の称号持ちを連れてくるしかない……なのに」
どうしてこんなパーティを寄越したのかといわんばかりの言葉。
実際にその魔物の脅威を目の当たりにしていない以上は何とも言えないけど、それでも軍や最上位の称号持ちという強大な戦力が必要な程の魔物が相手なのだとしたら、とてもじゃないが私達の手には負えない。
……おかしい。もし、話の通りならどうして私達に依頼を回したんだろう?
ニルさんの反応をみるに魔物の脅威を伝えていないとは思えない。仮に話が正確に国へ伝わっているとしたら、ここにいるのは彼女のいう通り、軍や最上位の称号持ちのはずだ。
まさか私への嫌がらせのために?……ううん、いくら私が気に入らなくてもそこまでの魔物を放置するのは得策じゃないし、下手に噂が広がれば評判や民からの信頼も損なわれる……流石にそれは国としても避けたいはず…………
もしも、嫌がらせのためだけに魔物を放置するのだとしたら国としては終わっている。
たぶん、魔物の脅威が話のままだとしたら、思惑通り私が魔物に殺されたとしても、その後に出る被害は計り知れないだろうから。
「……魔物の脅威は分かりました。でも、直接見ない事には確実な事は言えませんからそこまで案内してもらえませんか?」
「……貴女、人の話を聞いていたの?あの魔物は貴方達の手に負えるものじゃ――――」
「聞いてましたよ。けど、私達が殺されるか、逃げ帰るまで国は動きません」
正直、国の思惑なんて分からないけど、この場はこう言い切る他ないだろう。そうでもしないと、彼女はこれ以上、応じてくれそうにもない。
「っならさっさと逃げ帰れば…………」
「そういう訳にもいかないってのは冒険者のあんたになら分かるだろ?ましてこれは国からの依頼だ。魔物と戦わないまま逃げれば俺達の信用問題になる」
「……問題はそれだけじゃない。このまま僕達が帰れば次がくるまで魔物は放置される。そうなった場合の被害は計り知れないし、流石にそれを見て見ぬ振りはできない」
私の意図を汲んでくれたのか、ウィルソンとトーラスも言葉を並べ、彼女の説得を試みる。
「…………そう、どうあってもあの魔物と戦うつもりなのね。せっかくの忠告を無視してまで……命知らずね」
「……別に死にたいなんて思ってませんし、命を賭してまで戦うほど立派な覚悟もありません。私は……私達はただ今の自分達にできる事をしようと思っただけです」
呆れか、諦観か、目を伏せ、そう呟く彼女を正面から見つめ、私は言葉を返す。
その中には少しだけ打算もあったけれど、今の私の正直な気持ちを彼女にぶつけたつもりだ。
少しの沈黙。そして、小さな溜息を吐いた後、彼女はゆっくり顔を上げて私達を真っすぐ見据える。
「――――分かりました。はっきり言って、貴方達の実力は疑わしいと思っていますけど、そこまで言うのでしたら案内しましょう。ただし、私が無理だと判断したら撤退してもらいます。流石に目の前で死なれたら寝覚めが悪いですから」
渋々といった様子ではあるが、条件付きでどうにか案内をしてくれる事を了承してくれた彼女を伴い、私達は問題の魔物が目撃された場所を目指して出発する事に。
……今の私はパーティのみんなの命を預かる立場……もしもの時は無茶を通してでも守らないと。
命を賭けるつもりはないと言いながらも、心の中で覚悟を決めた私は誰にも悟られないために何事もなかったかのように振る舞った。
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