162 / 172
第四章 魔女のルーコと崩壊への序曲
第154話 最悪の空気と謎の魔法
しおりを挟む例の魔物が潜む村の外れへと向かう最中、私達パーティ間には最悪ともいえる空気が流れていた。
「…………あの、ええっと、ニルさん?案内してくれるという話でしたけど、戦力として数えても大丈夫ですか?」
「……自分の身は自分で守ります。貴女達は人の心配より自分達の心配をした方が良いんじゃないですか?」
そんな空気をどうにか払拭すべく、その原因とも言える魔法使いのニルへ質問を投げかけると、彼女はぶすっとした表情を隠そうともせずにそう答える。
「……境遇には同情するが、その物言いはないんじゃないのか?ルーコはただ戦えるかを聞いただけだろ」
「別に私も聞かれた質問に答えただけですが?ああ、少なくとも貴方よりは戦えると思いますけど」
「っ……どうやら喧嘩を売っているらしいな?僕がそこまで弱く見え――――」
「見えるからそう言っています。私との実力差が分からない時点で論外じゃないですか?」
「っこの――――」
まるでよく切れる刃物のような物言いのニルに対して青筋を浮かべたトーラスは今にも殴りかかりそうな勢いで彼女へ詰め寄ろうとするも、流石にそれはまずいとウィルソンが羽交い絞めにしてそれを止めた。
「落ち着けトーラス!いくら何でも手を出すのはまずいだろ!」
「っ離せウィルソン!ここまで言われて黙っていられるわけないだろうが!!」
あまりの物言いを前にして頭にくるのは分かるけど、だからと言って暴力に訴えるのは違う。
そもそも、今は未知の魔物を相手が控えている道中……怪我はもちろん、こんな小競り合いで時間を浪費する事すら惜しい。
そんな当たり前の事をトーラスが分かっていないとも思えないだけに今の状況は少し違和感を覚える。
「……なるほど、どうにもざわざわすると思ったらこの辺り一帯に魔法が掛けられているんですね」
「なっ……」
「は……?」
「………………」
納得した顔で呟かれた彼女の言葉にウィルソンとトーラスが驚愕の声を漏らす中、私は感じた違和感の答えにようやくたどり着いた。
……いくら何でもおかしいと思った。トーラスさんは怒りっぽいように見えるけど、この状況であんな行動は取らないし、ニルさんにしても、これから討伐に向かおうという場面でわざわざ挑発めいた言葉を吐くのは不自然……つまり、二人の言い合いはその魔法による影響とみるべきだ。
正直、私には魔法が掛けられている気配なんて微塵も分からなかったので、それに気付いたニルの魔法使いとしての実力の高さには驚くばかりだけど、今はそれよりも魔法がもたらす効果の方が重要だろう。
「……ふむ、誰が何の目的で仕掛けたかは不明ですけど、効果としては範囲内にいる人間の判断力を鈍らせて、悪感情を増幅させるってところですね」
「……するってぇとなにか?トーラスがあんな風にかっとなって怒ったのは魔法の影響だってか?」
「そうでしょうね。私も少し影響を受けてるみたいですし、なかなかに強力な魔法ですね」
「……誰が、というのは調べようがないが、その魔法の効果を考えれば目的は例の魔物に近付く冒険者への妨害だろうな」
もしもあのまま魔法に気付かず、戦闘に突入していたら確実に支障をきたしていたであろう事は容易に想像できる。
例の魔物が強いというのなら尚更、効果は覿面だ。
「…………ニルさん、この魔法を解除する事は可能ですか?もしくは影響を弱めるとか」
「そうですね……解除するのは難しいと思います。術者がどこにいるか分からないし、そもそも近くにいない可能性だってある……ただ、弱めるというならこうして気付いただけで十分。体感ですが、さっきよりも効果は大分、薄まっているように感じますから」
「……よく分からんが、ひとまずは問題ないって事でいいのか?」
頭を掻きながら難しい顔をして尋ねるウィルソンへニルが頷きを以って答え、ただ、と言葉を続ける。
「きちんと意識をしていないと魔法の効果に呑まれる可能性があるから常に気を張る必要があります……雑魚相手なら問題はないでしょうけど、例の魔物を相手するとなると少なからず支障は出ると思います」
「……まあ、常に意識を割かれるわけだからそりゃそうか。つってもどのくらい影響を受けるのかはやってみねぇとわからねぇな」
「……そうかもしれないが、例の魔物の強さが聞いた通りなら相当にまずいんじゃないか?どうするルーコ?」
どうする、というのはここで進むか、退くかを聞いているのだろう。
確かに正体不明の誰かが掛けた魔法の影響がある中、万全とはいえない状態で未知の魔物を相手にするのはあまりに無謀だ。
当初、撤退に反対意見を口にしていたトーラスの口からその選択肢が出るような状況……普通に考えれば退くべきだと思う。
「…………進みましょう。各自、少しでも危ないと思ったら全力で退避行動を取ってください」
「……正気の沙汰とは思えませんね。この状況で進むなんて……考え自体は分からなくもないですけど」
呆れた視線を私に向けたニルが小さなため息と共に呟く。
彼女が何をどう察したのかは分からないけど、魔法を掛けた何者かがいるという事は例の魔物は自然発生したものではないと考えるのが妥当だ。
突如として現れたという点と見た事のない強さを持っている事を考慮すればそこに作為がある可能性がさらに高まる。
……思い浮かぶのは街での騒動を引き起こした死体の群れとその集合体である怪物だけど、なんとなくやり口が違う気がするし、そもそも、それに絡んでいたであろうガリストはもういない。
だから今回の件にあの一団は関わっていないとは思う……たぶん。
どうせならあの黒毛玉を詰めて何か知らないか吐かせればよかったと思いつつも、私は三人の方に顔を向けた。
「……色々な可能性が浮かぶかもしれませんけど、ここで考えても仕方ないですし、今は目の前の事に集中しましょう。ニルさん、例の魔物がいるところまであとどれくらい掛かりますか?」
「…………ここからもうそんなに離れてないからもうすぐ着く筈です……本当に引き返す気はないんですよね?」
最終確認と言わんばかりに聞き返してきたニルに対して私はウィルソンとトーラスの顔を一瞥してから頷き、口を開く。
「……ないですよ。逆にニルさんの方こそ引き返さなくていいんですか?あと少しで着くのなら案内はもう必要ないと思いますけど」
「……それこそないですね。流石に案内して死なれたら寝覚めが悪いですし、心配しなくても引き際くらい弁えていますよ」
私の問いに肩を竦めて返すニル。正直、魔法の存在を見抜いた彼女の事を少しでも戦力として頼れるならありがたい。
そのまま話をそこで切り上げ、ウィルソンとトーラスと私、それにニルを加えた臨時のパーティは例の魔物の縄張りともいえる領域に足を踏み入れていった。
0
あなたにおすすめの小説
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
勘当された少年と不思議な少女
レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。
理由は外れスキルを持ってるから…
眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。
そんな2人が出会って…
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る
ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。
異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。
一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。
娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。
そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。
異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。
娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。
そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。
3人と1匹の冒険が、今始まる。
※小説家になろうでも投稿しています
※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!
よろしくお願いします!
漆黒の万能メイド
化野 雫
ファンタジー
初代女帝が英雄だった実の姉を大悪人として処刑する事で成立した血塗られた歴史を持つ最強にして偉大なるクレサレス帝国。そこを行商しながら旅する若き商人と珍しい黒髪を持つ仮面の国家公認万能メイド。世間知らずのボンボンとそれをフォローするしっかり者の年上メイドと言う風体の二人。彼らはゆく先々では起こる様々な難事件を華麗に解決してゆく。そう、二人にはその見かけとは違うもう一つの隠された顔があったのだ。
感想、メッセージ等は気楽な気持ちで送って頂けると嬉しいです。
気にいって頂けたら、『お気に入り』への登録も是非お願いします。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
盾の間違った使い方
KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる