〝凡才の魔女〟ルーコの軌跡~才能なくても、打ちのめされても、それでも頑張る美少女エルフの回想~

乃ノ八乃

文字の大きさ
163 / 172
第四章 魔女のルーコと崩壊への序曲

第155話 潜み狙う魔物と予想外の奇襲

しおりを挟む
 
「――――この辺りです。例の魔物が住処としているのは」

 魔法に気付いてから十数分歩いた辺りでニルが立ち止まり、そう口にする。

 今の地点は村の外れというだけあって、仮にここで戦闘があっても向こうに影響が及ぶ事はない。

 だからここが住処なら思いっきり戦えるのだが、例の魔物とやらの姿は見当たらなかった。

「……何もいねぇな。見晴らしは悪くないから姿くらいは見えてもいいはずなんだが」
「…………いや、これは」
「……ええ、何かおかしいですね」

 見渡す限りに魔物らしき影も気配もない。けれど、何か違和感というか、ここら一帯の空気がぴりぴりしているような気がする。

……魔物どころか、普通の獣、虫や鳥の姿も見当たらない……流石にこれは静か過ぎるような――――

 そこまで考えた瞬間、ぞくりとした感覚が背筋に走った。

「っ全員この場から――――」

 私が叫ぶよりも早く全員が一斉に飛び退き、さっきまでいた場所へ衝撃と共に激しい轟音が響き渡る。

「――――ガアァァァァァッッ!!!」

 巻き上がる土煙と轟く咆哮、さっきまで何もいなかった筈の場所に現れた大きな影に飛び退いた私達の視線が集中し、襲撃者の正体があらわになった。

「っ何だこいつは!?」
「これが、こいつがくだんの魔物です!まさか強襲してくるなんて……!」

 大きく発達した前足とそれに見合った巨大な体躯、全身を黒い体毛で覆われており、歪なその顔は見るものに恐怖心を与え、ぎらりとこちらを睨む真っ赤な双眸そうぼうはどす黒い殺意を漲らせている。

「っ次がくるぞ!もっと距離を取れ!!」

 空気を伝ってくる殺意に怯みそうになる私達へ明確に狙いを定め、襲い掛かってくる魔物。その速度は巨大な身体からは想像もできないほど俊敏で、いつも間にか振り上げられた前足が目の前まで迫っていた。

「っ――――」

 もう強化魔法でかわすのは無理だと判断した私は咄嗟に銃杖を抜いて引き金を弾き、風の塊を射出して回避を試みる。

 出力を調整する余裕なんてなかったから姿勢を制御しきれずに、何度か地面に転げ回ってしまったけど、どうやらその試みは上手くいったらしく、魔物の一撃をかわす事は成功したようだ。

っこの魔物は一体どこから現れた……?こんな巨体の接近に気付かなかったなんて……っ他のみんなは……!?

 混乱しそうになる頭を必死に回し、最優先で確認すべき事……仲間の安否へと目を向ける。

「くそっ……!何なんだあの魔物の速度は……」
「あの巨体と速度も厄介だが、なによりこいつは一体どこから出てきた?おい、何か知らないのか?」
「知っていたらとっくに教えてますよ!あの魔物は正面からの力押しばかり仕掛けていたはずなのにどうして……」

 どうやら三人共がさっきの一撃を無事に避けれたようで、魔物の速度と突如として現れた仕掛けについてを話し合っていた。

……落ち着け、ひとまずみんなは無事だった。ならここからはあの魔物をどうやって攻略するかを考えないと。

 思考を切り替え、魔物へと視線を向けて観察をしつつ、突如として現れた絡繰りを見抜こうとするよりも早く、その答え合わせが提示される。

「なっ――――」

 不意の一撃に追撃の一撃をかわした私達をこのまま仕留める事は叶わないと判断したのか、魔物は突如として立ち止まり、黒い体毛を真っ赤に染めながら逆立て、膨大な熱を発し始めた。

「ガルァァァッ――――」

 魔物から発せられた熱が周囲の景色を歪め、その巨大な姿を覆い隠していく。

「っあいつは自分が発した熱で姿を隠す事ができるのか……!」
「なら最初の奇襲はそれで姿を消してたって事か?つってもあの熱なら流石に気付くだろ」
「……あの速度なら私達が気付くよりも早く近づけますからそこまで不思議はないと思います……それよりも重要なのは今、魔物の姿を見失う方がまずいって事です」

 焦る私達を嘲笑うかのように魔物はその姿と気配を完全に消してしまった。

っこのままじゃ…………

 辺りを注意深く観察するけど、見えるのはみんなの姿と変わりのない景色だけ。魔物の姿はおろか、気配も音も感じられない。

 あの熱で姿は隠せても、気配や音までは消せない筈だ。

 にもかかわらず、それらの痕跡を気取られていないという事はあの魔物が意図的に消しているという事に他ならない。

「いくら姿を隠そうとさっきまでそこにいたのは確か……なら広範囲に攻撃すればいいだけの話だ!」
「っそれは駄――――」

 私が制止するよりも早くトーラスが動き出し、剣を抜き放って大きく振りかぶる。

 おそらく、見えなくてもそこにいるのなら当たるだろうと、範囲攻撃を仕掛けるつもりなのかもしれないが、今、安易に突出するのは悪手もいいところだ。

 意図的に自らの姿を隠せるという事はあの魔物に高い知能がある事に他ならない。

 そんな高い知能を持つ魔物が一人、突出したトーラスを見逃すはずがなかった。

「グルァァァァッ!!」
「なっ!?」

 やはりというべきか、魔物はその姿を現し、前足を振り上げて上空からトーラス目掛けて奇襲を仕掛けてくる。

「っ『暴風の微笑ウェンリース』!!」

 奇襲に驚き、動けないでいるトーラス目掛けて銃杖から魔法を撃ち放ち、無理矢理、魔物の一撃から遠ざける事には成功したものの、その代償として狙いがこちらの方に向く。

「――――悪いが、そう簡単に嬢ちゃんはやらせねぇぜ?」

 トーラスが突出した時点で何があっても良いように構えていたウィルソンが私に襲い掛かろうとしている魔物目掛けてその戦斧を振り抜いた。

「グルァッ!」
「――――私もいる事を忘れてもらっては困ります」

 ウィルソンの一撃を跳んでかわした魔物へ今度はニルの魔法が放たれる。

 撃ち放たれた一撃はサーニャの光魔法と似ていたものの、威力はその比ではなく、無数の光線が魔物を捉えた。

 そして空中にいる魔物に魔法をかわす術はなく、ニルの放った光線は過たずその胴体を貫く筈だった。

「なっ……!?」

 あまりに予想外な光景を目にした私は思わず驚きの声を漏らす。

 ニルの放った魔法が魔物に当たる直前、不自然な軌道を描いて曲がり、逸れた光線が地面を溶かしてしまった。

「っやっぱりこの魔法は効きませんか……!本当に相性の悪い……!」

 どうやらニル自身はこの結果になると分かっていたようで特に動揺する事もなく魔物へと向き直り、次の魔法を準備している。

「ニルさん!今のは――――」
「あの魔物に光系の魔法は当たらないです!熱が関係してるとは思うんですけど、詳しい理屈までは分かりません!」

 私の聞きたい事を察して怒鳴り気味に答えるニル。たぶん、あの魔物を相手に長々と会話をしている暇なんてないと言いたいのだろう。

……どのみち私に光魔法は使えないからそこまで影響はないけど、あの熱はどうにかしないと

 碌な擦り合わせもできないままの戦闘に一抹の不安を感じながらも、どうにか突破口を探るべく考えを巡らせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勘当された少年と不思議な少女

レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。 理由は外れスキルを持ってるから… 眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。 そんな2人が出会って…

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

漆黒の万能メイド

化野 雫
ファンタジー
 初代女帝が英雄だった実の姉を大悪人として処刑する事で成立した血塗られた歴史を持つ最強にして偉大なるクレサレス帝国。そこを行商しながら旅する若き商人と珍しい黒髪を持つ仮面の国家公認万能メイド。世間知らずのボンボンとそれをフォローするしっかり者の年上メイドと言う風体の二人。彼らはゆく先々では起こる様々な難事件を華麗に解決してゆく。そう、二人にはその見かけとは違うもう一つの隠された顔があったのだ。  感想、メッセージ等は気楽な気持ちで送って頂けると嬉しいです。  気にいって頂けたら、『お気に入り』への登録も是非お願いします。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

処理中です...