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第四章 魔女のルーコと崩壊への序曲
第155話 潜み狙う魔物と予想外の奇襲
しおりを挟む「――――この辺りです。例の魔物が住処としているのは」
魔法に気付いてから十数分歩いた辺りでニルが立ち止まり、そう口にする。
今の地点は村の外れというだけあって、仮にここで戦闘があっても向こうに影響が及ぶ事はない。
だからここが住処なら思いっきり戦えるのだが、例の魔物とやらの姿は見当たらなかった。
「……何もいねぇな。見晴らしは悪くないから姿くらいは見えてもいいはずなんだが」
「…………いや、これは」
「……ええ、何かおかしいですね」
見渡す限りに魔物らしき影も気配もない。けれど、何か違和感というか、ここら一帯の空気がぴりぴりしているような気がする。
……魔物どころか、普通の獣、虫や鳥の姿も見当たらない……流石にこれは静か過ぎるような――――
そこまで考えた瞬間、ぞくりとした感覚が背筋に走った。
「っ全員この場から――――」
私が叫ぶよりも早く全員が一斉に飛び退き、さっきまでいた場所へ衝撃と共に激しい轟音が響き渡る。
「――――ガアァァァァァッッ!!!」
巻き上がる土煙と轟く咆哮、さっきまで何もいなかった筈の場所に現れた大きな影に飛び退いた私達の視線が集中し、襲撃者の正体があらわになった。
「っ何だこいつは!?」
「これが、こいつが件の魔物です!まさか強襲してくるなんて……!」
大きく発達した前足とそれに見合った巨大な体躯、全身を黒い体毛で覆われており、歪なその顔は見るものに恐怖心を与え、ぎらりとこちらを睨む真っ赤な双眸はどす黒い殺意を漲らせている。
「っ次がくるぞ!もっと距離を取れ!!」
空気を伝ってくる殺意に怯みそうになる私達へ明確に狙いを定め、襲い掛かってくる魔物。その速度は巨大な身体からは想像もできないほど俊敏で、いつも間にか振り上げられた前足が目の前まで迫っていた。
「っ――――」
もう強化魔法でかわすのは無理だと判断した私は咄嗟に銃杖を抜いて引き金を弾き、風の塊を射出して回避を試みる。
出力を調整する余裕なんてなかったから姿勢を制御しきれずに、何度か地面に転げ回ってしまったけど、どうやらその試みは上手くいったらしく、魔物の一撃をかわす事は成功したようだ。
っこの魔物は一体どこから現れた……?こんな巨体の接近に気付かなかったなんて……っ他のみんなは……!?
混乱しそうになる頭を必死に回し、最優先で確認すべき事……仲間の安否へと目を向ける。
「くそっ……!何なんだあの魔物の速度は……」
「あの巨体と速度も厄介だが、なによりこいつは一体どこから出てきた?おい、何か知らないのか?」
「知っていたらとっくに教えてますよ!あの魔物は正面からの力押しばかり仕掛けていたはずなのにどうして……」
どうやら三人共がさっきの一撃を無事に避けれたようで、魔物の速度と突如として現れた仕掛けについてを話し合っていた。
……落ち着け、ひとまずみんなは無事だった。ならここからはあの魔物をどうやって攻略するかを考えないと。
思考を切り替え、魔物へと視線を向けて観察をしつつ、突如として現れた絡繰りを見抜こうとするよりも早く、その答え合わせが提示される。
「なっ――――」
不意の一撃に追撃の一撃をかわした私達をこのまま仕留める事は叶わないと判断したのか、魔物は突如として立ち止まり、黒い体毛を真っ赤に染めながら逆立て、膨大な熱を発し始めた。
「ガルァァァッ――――」
魔物から発せられた熱が周囲の景色を歪め、その巨大な姿を覆い隠していく。
「っあいつは自分が発した熱で姿を隠す事ができるのか……!」
「なら最初の奇襲はそれで姿を消してたって事か?つってもあの熱なら流石に気付くだろ」
「……あの速度なら私達が気付くよりも早く近づけますからそこまで不思議はないと思います……それよりも重要なのは今、魔物の姿を見失う方がまずいって事です」
焦る私達を嘲笑うかのように魔物はその姿と気配を完全に消してしまった。
っこのままじゃ…………
辺りを注意深く観察するけど、見えるのはみんなの姿と変わりのない景色だけ。魔物の姿はおろか、気配も音も感じられない。
あの熱で姿は隠せても、気配や音までは消せない筈だ。
にもかかわらず、それらの痕跡を気取られていないという事はあの魔物が意図的に消しているという事に他ならない。
「いくら姿を隠そうとさっきまでそこにいたのは確か……なら広範囲に攻撃すればいいだけの話だ!」
「っそれは駄――――」
私が制止するよりも早くトーラスが動き出し、剣を抜き放って大きく振りかぶる。
おそらく、見えなくてもそこにいるのなら当たるだろうと、範囲攻撃を仕掛けるつもりなのかもしれないが、今、安易に突出するのは悪手もいいところだ。
意図的に自らの姿を隠せるという事はあの魔物に高い知能がある事に他ならない。
そんな高い知能を持つ魔物が一人、突出したトーラスを見逃すはずがなかった。
「グルァァァァッ!!」
「なっ!?」
やはりというべきか、魔物はその姿を現し、前足を振り上げて上空からトーラス目掛けて奇襲を仕掛けてくる。
「っ『暴風の微笑』!!」
奇襲に驚き、動けないでいるトーラス目掛けて銃杖から魔法を撃ち放ち、無理矢理、魔物の一撃から遠ざける事には成功したものの、その代償として狙いがこちらの方に向く。
「――――悪いが、そう簡単に嬢ちゃんはやらせねぇぜ?」
トーラスが突出した時点で何があっても良いように構えていたウィルソンが私に襲い掛かろうとしている魔物目掛けてその戦斧を振り抜いた。
「グルァッ!」
「――――私もいる事を忘れてもらっては困ります」
ウィルソンの一撃を跳んでかわした魔物へ今度はニルの魔法が放たれる。
撃ち放たれた一撃はサーニャの光魔法と似ていたものの、威力はその比ではなく、無数の光線が魔物を捉えた。
そして空中にいる魔物に魔法をかわす術はなく、ニルの放った光線は過たずその胴体を貫く筈だった。
「なっ……!?」
あまりに予想外な光景を目にした私は思わず驚きの声を漏らす。
ニルの放った魔法が魔物に当たる直前、不自然な軌道を描いて曲がり、逸れた光線が地面を溶かしてしまった。
「っやっぱりこの魔法は効きませんか……!本当に相性の悪い……!」
どうやらニル自身はこの結果になると分かっていたようで特に動揺する事もなく魔物へと向き直り、次の魔法を準備している。
「ニルさん!今のは――――」
「あの魔物に光系の魔法は当たらないです!熱が関係してるとは思うんですけど、詳しい理屈までは分かりません!」
私の聞きたい事を察して怒鳴り気味に答えるニル。たぶん、あの魔物を相手に長々と会話をしている暇なんてないと言いたいのだろう。
……どのみち私に光魔法は使えないからそこまで影響はないけど、あの熱はどうにかしないと
碌な擦り合わせもできないままの戦闘に一抹の不安を感じながらも、どうにか突破口を探るべく考えを巡らせた。
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