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2.人見知りぼっち令嬢、暗殺者に襲われる。
しおりを挟むそこからの記憶をレイネはあまり覚えていない。いや、正確には思い出す事をレイネの頭が拒否しているのだろう。
カイゼン殿下はあの令嬢……サージュ嬢を新たな婚約者と宣言した後、ありもしない罪状を論い、レイネを問い詰めた。
そこに物的証拠はなく、サージュ嬢の一方的な証言のみ。
やれ教科書を破かれただの、頭から水をかけられただの、後ろから突き飛ばされただの、レイネ自身には身に覚えのない事ばかり。
なんならレイネがサージュ嬢の事を知ったのもあの騒動の時だ。
当然ながらそんな状況でレイネを罪に問う事などできない。
というか、言ってしまえばレイネとカイゼン殿下の婚約は国のために現国王とシュトラウゼン家が決めたもの。いくら王子といえど、勝手に破棄する事はできないはずだ。
まあ、だからこそ罪に問おうとしたのかもしれないが、今のレイネにはどうでもいい事だった。
「っ……かひゅ……ぁ……ぁぁッ…………」
息ができずに藻掻き苦しみ、首を掻きむしるけれど、レイネは新鮮な空気を取り込む事ができない。
あの騒動の後、逃げるように屋敷へと帰り、自室に戻って一人、涙を流していたレイネは突然背後から何者かに襲われ、細い糸のようなもので首を絞められていた。
「――――筋書きはこうだ。婚約破棄を言い渡されたレイネ・シュトラウゼン嬢は罪を暴かれて自暴自棄になり、精神的に追い詰められた末に首を括った……全てを認める遺書を残して……ってああ、きこえてないか」
首を絞めている何者かが言葉を吐くが、レイネの耳には入らない。彼女は空気を求めて口の端から涎を垂らし、苦悶のあまり掻きむしった首からは血が滴り、爪の合間に肉が食い込む。
私が何をしたのだろう?社交的じゃなかったから?殿下の隣に立つための努力を怠ったから?確かにそれは罪になるのかもしれないけど、こんな仕打ちを受ける程の重い罪なのだろうか。
薄れゆく意識の中でレイネはどうしてこうなったのかと恨み言紛いの言葉を思い浮かべながらも、少しずつ自分の生を諦めていた。
「ぁ……ぁぁ…………」
レイネの目から少しずつ光が消え、首を絞めている何者か……暗殺者が口の端を歪める。
(私の人生……何だったんだろう。望んでもない婚約を押し付けられて、その婚約さえも破棄されて、訳の分からないまま殺されかけて……こんな事ならもっと人と関われば良かった。婚約の話だって嫌だって我儘を言えばよかった……それで……私の事を……見てくれる……人と…………)
走馬灯のように今までの出来事がレイネの頭を駆け巡り、後悔と願望が溢れだした。
(死にたく……ない……死に……たくない……誰か……助け…………)
強く想い、虚空に向かって手を伸ばすが、何も掴めずに空振り、そのままレイネの意識は暗転する。
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