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第三話-2
しおりを挟む「俺はな、新学期からここで剣術を教えることになった」
「へぇ、騎士団の仕事はどうするんですか」
「まあ週に2日程度だからな。緊急時は俺の鍛えた騎士団から誰かしら来ることになっている。……それで、学院内の仮眠室を一部屋、騎士団のために借り受けてるんだわ」
「……そうなんですか」
「明日は顔見せの入学式だから泊まるつもりだったが、今日はお前に貸してやろう」
「いえ、結構です」
「遠慮するな」
「するでしょう。俺にはちゃんと寮の部屋が割り振られているのにマグナス団長の部屋を譲られる意味がわかりません」
「じゃあ譲らなきゃいいのか。俺も泊まるから、ベッドの隅っこを貸してやるよ。部屋に帰れないんだろ」
「……」
なんだその拾った野良猫みたいな扱いは。
まあ、悪くない提案ではある。ひとつ引っかかるとすればマグナスがアデラの言う『攻略対象』の一人だということだが。
まだ俺の房中術のレベルは初級座学程度、スキルもなし。フレデリックといるとスキルアップのための修行が始まってしまう可能性があるが、マグナスならその心配はなかった。
「……じゃあ、世話なりま……」
「お気遣い感謝いたします騎士団長。ですが、ウォルフハルドには寮の部屋がありますので俺が連れて帰りますよ」
ビクッと震えた俺の反応に、マグナスは『ん?』と不思議そうにしていたが黙り込んだ。
担がれたまま身体を少し起こして振り返ると、マグナス団長の進路を妨害するようにフレデリックが立っている。
「お前は?」
「ウォルフハルドの同室のフレデリック・ヴァロワです」
「ふうん。……迎えだとよ。どうする、ウォルフ」
今の今まで一度も愛称でなんか呼んだことないのに、マグナス団長は突然そんな呼びかけをしてきた。そして気遣うように俺の背をトントンと叩いてくる。
途端、目の前にいたフレデリックから剣呑な視線が突き刺さってきた。
殺気に近い気配がジリジリと迫ってくるようで、俺は身体にギュッと力を込めた。おそらく、マグナス団長は試したんだ。フレデリックが俺に害意を持つ者か気になったんだろう。
「彼を放してください」
「お前じゃねえ、本人に聞いてる。……おい、部屋に帰りたくないのはこいつがいるからか?」
フレデリックの声に、団長の言葉が重なる。俺は答えられずに唇噛んだ。そうだと言えば匿ってくれるのかもしれない。
だが、実際フレデリックは何もしていない。俺がただ後ろめたくて逃げ回っているだけで、冤罪をかけてしまうのは申し訳なかった。
部屋に帰ったらどうやって追求をかわそうかと絶望的な気分なりながら、俺は『いいえ』と答えて地面に降りた。心配そうに見つめる橙色の瞳を見つめ返し、にこっと笑ってみせる。
これでも俺は貴族の端くれ、虚勢の笑顔だってお手のものだ。
「ありがとうございます。部屋に帰ります」
「……そうか」
「フレデリック、迎えに来てくれてありがとう。行こう」
「あ、ああ……」
俺の取り繕った笑顔を見て、フレデリックは動揺していた。それもそのはず、俺はこういう笑い方を今までフレデリックにはしたことがなかった。
親友に対しては、いつでも素の感情を見せていたからだ。それでいきなり突き放されたように思ったのかもしれない。
マグナス団長に頭を下げて寮にむかう間、フレデリックはずっと無言だった。俺はその前をスタスタと背筋を伸ばして歩いて、程なくついた寮の部屋の扉を開けた。
「……途中だった荷物、片付けてくれたのか。ありがとう」
俺が中途半端にしていった荷物はきれいに整理整頓されていた。空いた鞄はクローゼットの奥に収められている。勉強のための教科書は明日購入予定で、ペンやインクなどの消耗品も学園内で揃えようと思っていたため、元から荷物は少ないんだ。
「ウォルフハルド」
「うん」
「俺が何かしてしまったなら謝る。いくらでも謝るし、聞かれたくないなら何も聞かないから。お願いだ、そんな見たことない顔で笑わないでくれ」
「……」
部屋に入って扉を閉めてから、フレデリックははらはらと涙をこぼして泣いていた。
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