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第九話-2

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「会えなくて寂しかった」
「え……いや、顔は見かけてるだろ、朝とか昼とか」
「それはサロンで逢ってた時とは、違うだろう」
 
 しゅん、と気落ちした声でオーギュストが囁く。
 吐息が耳朶にかかってくすぐったいんだが、押し退けるのも可哀想だ。こちらとしては邪魔をしないようにと思っていたが、要らん気遣いだったらしい。

「声をかければ良かっただろう?」
「……会いに行った」
「え、いつだ」
「昨夜、テントに行ったらフレデリックとしている声が聞こえて」
「……」
「その後、夜にまた気配を追って行ったらマグナス団長の天幕で声が聞こえた」
「気配って、俺の居場所がわかるのか?」
「ああ。俺はどうやら魔力探知の能力が高いらしくてな。ウォルフハルドの魔力は特に明るいからすぐ判る」

 思いがけないオーギュストの特技のせいで俺のスキルアップのためのアレコレが筒抜けになっていた。流石に羞恥心くらいはあるので咄嗟に目を逸らしてしまった。

 見られてないのだけが救いか。俺が喘がされてるところを聞いたんじゃないだろうな……。

「羨ましい。私もウォルフハルドと共にいたい」
「……。房中術のスキルを上げるための練習台でも平気か?」

 すりすりと額を肩口に押しつけてくるので、何だか可哀想になってしまった。

 オーギュストの場合これが素なのが恐ろしいが。
 可愛いが過ぎるので彼だけはつい甘やかしてしまう。庇護欲をそそると言えばいいんだろうか。

 ……どう見ても俺より頭半分デカくて胸板も太腿の筋肉も負けてるが。

「練習台になりたい」
「じゃあ今夜にでもそちらのテントに……いや、オーギュストはエルヴェと一緒だったよな。テントじゃ狭いか」
「大丈夫だろう。私が王族なせいか、気を遣われて少し大きめの造りになっていた。あれは恐らく四人用だ」
「じゃあいいか。……可愛がってやるから楽しみにしていろ、オーギュスト」

 肩に顎を乗せてくるオーギュストに手を伸ばし、頭をぐりぐりと撫でてやる。
 後は野営地に戻るだけだったのだが、『一度くっついたら離れがたい。今から行こう』と言われ何故か縦抱きにされて運ばれてしまった。

 一応は人目に付かないようにしてオーギュストのテントに向かったが、中で剣の手入れをしていたエルヴェを驚かせてしまった。

 いくらなんでもこの運び方はおかしいだろう。おかしいから止めろと言ってやってくれ、忌憚のない意見を募集する。

「でっ、殿下……私もウォルフハルド様を抱かせて頂いてよろしいですか」
「そこは俺に許可を求めてくれないか」
「許す」
「俺を無視して許可するなオーギュスト」

 お前あとで覚えてろよ、とオーギュストを睨みながら俺はエルヴェにまで縦抱きにされ、さして広くもないテントの中をくるりと一周させられた。

 何なんだお前達は。やらないなら帰るぞ?





 泊まり込みになる剣術授業の前に、俺は領地のアデライードに会いに行った。

 今期のマグナスの授業に関してはほとんどが『イベント』だと聞いているので、どんな事が何が起きるか詳しく確認しておきたかったのだ。

 数ヶ月前まで使っていた自室に転移した俺を、アデライードは既に待っていた。

 余所行きの着飾った姿でソファに腰掛け、13歳の誕生日に送ったルビーの首飾りをつけている。アデライードの髪はふわふわとして髪質が柔らかく、つややかな黒髪なので赤色がよく似合う。

「お兄様、ごきげんよう。そろそろ遠征討伐のイベントですわね」
「ああ、それの事を聞きにきた」


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