転生者の妹曰く、ここは俺が総攻主人公のBLゲームらしい?

天城

文字の大きさ
37 / 62

閑話―オーギュスト・1

しおりを挟む


「その顔しか取り柄のない貴方には似合いの仕事でしょう?」

 見慣れた王妃の笑顔も、実母に対し冷ややかな目をしながら何も言わない兄上も、王妃の暴走を止められない父上も、何もかもがどうでもよかった。

 幼い頃から私の味方をしてくれる宰相だけが気遣わしげな視線を向けてくるが、私はただ俯いて嵐が過ぎ去るのを待つしかない。

「先王もお得意だったというではないですか。その顔でたらしこんでいらっしゃいな」

 お祖父様の話が出れば、流石にあちこちから刺々しい視線が向けられる。国の有力貴族や騎士団の上層部の者達だ。それまではいくら私がなじられようと、侮辱されようと無関心を貫いていたものを。

 王と宰相が国の行く末を決めるために集めた会議だったはずだが、王妃の乱入で議題の半分も消化出来ていない。
 
 今は、この国の命運を握るといわれる少年の話をしていた。

「……聞けば18になるのにまだ婚約者がいないとか。実は男の方がお好みかもしれないわね?」

 扇で口元を隠し、王妃は嘲るような口調でそう言った。思わず、視線を上げる。私に対してならいくら侮辱しようと構わないが、その感情を他人にまで向けるのはお門違いだ。

「気に入らない目だこと。ああ、本当によく似ているわあの忌々しい男に!」

 バシンッと高い音を立てて扇が振り下ろされた。

 幸い目には当たっていない。流石に失明させられれば咎がいく。今は王妃と呼ばれているが、彼女は元は側室だ。母が死ななければその座に上ることはなかっただろう。

 元は男爵家の三女で、身分的にも一度公爵家の養女にしてからでなければ嫁げなかったらしい。父上が婚約者との結婚前に一度だけ犯した過ちで、身籠った彼女を王宮に迎えることになったのだ。だから父上は彼女に強く言う事ができない。

 その頃から舞い上がって手のつけられない我儘な少女だったという話だが。しかもいまは、兄上が王位継承権第一位なのも彼女の傲慢さに拍車をかけた。
 私がいくら王位を望んでいないと言っても、彼女にとって私は邪魔で憎たらしいだけの存在なのだ。

 冗談で済まされる程度の折檻は、ここでは日常茶飯事だった。2度、3度と続けて扇が振り下ろされると口の中が切れたのか血の味がした。

 見かねた宰相が進み出て、私のあとの予定が詰まっていると父上に説明し、ようやく退出を許された。王妃はまだ叩き足りないようだったが、王に言われては私を引き留めることはできなかった。

 部屋へ戻るとエルヴェが薬箱や道具を揃えてくれている。王宮の医師に治療は頼めない。王妃の癇癪はここではひた隠しにされているのだ。

 苦笑するエルヴェが『また随分と叩かれましたね』と言うので、私は笑うしかなかった。

「か弱い女性の持つ扇など、大した怪我にもなりはしない」







 ウォルフハルド・ジラールに近づくのは、私に課せられた『仕事』だった。

 幼い頃から『予言』によって密かに注目されてきた存在だが、ここ数年で特に頭角を表してきたので王国から囲うべき存在とみなされたのだ。

 しかし私の中の感情は、それより以前にゆっくりと育っていったものだった。

 エルヴェが情報収集をしてきてくれたのには、彼自身の望みも隠れている。ただ、それがなくともきっとウォルフハルドはその存在だけで私を魅了しただろう。

 狭い王宮の中でただ操り人形のように生活する、それが私に与えられた人生だった。ここにいる私は『私』ではないのだと思い、心を切り離さなければ、生きていられなかった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

王様お許しください

nano ひにゃ
BL
魔王様に気に入られる弱小魔物。 気ままに暮らしていた所に突然魔王が城と共に現れ抱かれるようになる。 性描写は予告なく入ります、冒頭からですのでご注意ください。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

処理中です...