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閑話―フレデリック・1
しおりを挟む「わたくし、貴方が心底気に入りませんわ」
黒曜石のような漆黒の瞳をひたとこちらへ向けて、従妹のアデライードはそう言い放った。
彼女の兄と同じその髪も瞳も肌の色も、境遇も家族の立ち位置も、俺には羨ましくて仕方ないというのに。彼女もまた俺に同じ感情を抱き、そして同じように俺が気に入らないと言う。
気が合いすぎて、それこそ同属嫌悪というやつだろう。
アデライードが猫を被らず俺に接するようになったのは、6歳の頃からだった。
正確には彼女に俺と同じ『黒魔術の適正』があることが判ってからだ。
――この世界に魔法の元素は6つあるとされる。火、風、水、土、光、闇だ。
しかしこれは魔法学として研究され学術的に系統付けられただけで、それより昔は全ての魔法が白魔術、黒魔術とたった2つに分けられていた。
火、風、水、土などの現象を操る魔法や光魔法は全て白魔術から派生している。それ故に、白魔術は全ての魔法の源だと言われていた。
それと相反するものとして存在するのが黒魔術だ。
黒魔術は派生も発展もせず、系統もそれひとつにしかまとめられない。不変であり、何とも交わらず、停滞し続けるその魔法は学者から毛嫌いされるモノとなった。そういった悪感情は少しずつ差別を生み、黒魔術の術者は次第に数を減らしていった。さらには黒魔術の適正を持つ者も生まれにくくなり、衰退の一途を辿った。
そんな黒魔術を代々継承していたのがヴァロワ家だ。
血が濃く現われた者は黒髪、黒目で雪のように白い肌を持つという。そして子供の頃に黒魔術の適正を発症し、ヴァロワ家に眠る黒魔術の蔵書を受け継ぐのだ。
俺は金色の髪に青い瞳を持って生まれた。
これはヴァロワ家の行く末を案じた父と叔母が、ジラール家の友人達とたてた作戦だった。
ジラール家の子供の特徴は金髪に青い目、そして強力な白魔術の適正だ。ヴァロワ家の当主はジラール家の娘を娶り、俺という息子を得た。長年の呪縛から一族を解き放つためだった。そしてジラール家の当主はヴァロワ家の娘を娶り、ウォルフハルドを得た。彼は一般的には珍しい黒髪黒目だったが、魔法の適正はジラール家のものだった。
『おいで、フレデリック。お前とアデライードには話して置かなければならないことがある』
美しい黒髪の叔母は、ジラール家に嫁いだ初の黒魔術士だった。俺とアデライードは彼女の前で手の平に闇を纏わせ、その適正を示した。叔母は俺達に、黒魔術を学びたいかそうでないかを真剣に問いかけた。
『聞くまでもありませんわ。わたくしは、学びたいです』
早熟なアデライードは、年上の俺と同じ時期に目覚めた。だから一緒に話をされたわけだが、その迷いの無さと言ったらため息が出そうだった。少しは悩んでみせたらいいのに。すでに失われつつある黒魔術なんて胡散臭くて普通は戸惑うだろう。
6歳という若さにもかかわらず、アデライードはどこから見ても特別な公女だった。適正は黒魔術、華奢で可愛らしい容姿をしていて利発な公女だったが、……性格はウォルフハルドにそっくりだ。気が強くて負けず嫌いなところとか。
『フレデリック様は、怖じ気づいているのならやらなくて構いませんわ』
『俺はヴァロワ家の長子だろう、やらなくてどうするんだ』
『あら、弟君がいるじゃありませんか』
『あいつの適正は絶対白魔術だね。賭けてもいい』
『それならそれでよろしいわ。どうせわたくしがこちらに輿入れしますから、やはり問題ないですわね』
ポンポンと勢いのあるやりとりに、叔母が目を白黒させていた。アデライードも完全に素だし、俺も全く遠慮を忘れていた。
そうして二人とも叔母から黒魔術を学ぶことになり、ウォルフハルドが修行を頑張っている間は俺もアデライードと共に黒魔術に励んだ。
黒魔術は、悪魔信仰から始まっている。
それだけ聞くと非常に後ろ暗そうだが、悪魔と魔物は違う。原初の悪魔は神と同じだ。少し変わった神に仕える神官、というていなのが黒魔術士だ。唱える呪文なども、白魔術とはだいぶ違い悪魔に祈りを捧げるような内容が多い。
そして特殊なのが祈祷の儀式だ。
ミサ、と呼ばれる定期的な儀式があり、そこでは必ず黒い動物を生け贄に捧げる。
……そして、15歳を過ぎた者はそのミサの中で房中術の座学へと入る。実際その儀式に参加するのは18からだ。
黒魔術は人間の性欲を否定しない。
理性よりも感情を重んじ、本能を尊び、多産を推奨していた。そのための房中術だ。
ミサの中でその行為をするということは、神への祈りと同じだといわれていた。
俺は、絡み合う人々の姿を冷めた目で見つめた。いつか触れるウォルフの肌を想像しながら。
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