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第十二話-2
俺達の謁見は、王宮では秘密裏に行われた。
国を揺るがす事態をあまり大勢に知られるわけにいかないからだろう。国の命運を一人の人間が握ってしまうのは、かなり不味いはずだ。
しかしこれもアデラの『予言』の一部なので、交渉事は任せておこうと俺は父とアデラの話を静かに聞くだけだった。
結界の再構築が行われた事は、騎士団長のマグナスが証言したあと宮廷魔術師達が調べにいって裏付けがとれた。
そして結界を害していた青い楔についても錬金術師工房を訪ね、東の大国アルレーンの仕業だというのも判った。
ここ数年でアルレーン国は密かに大量の武器を輸入していて、戦争でも始める気かと周辺国が警戒しているところだった。しかし当のアルレーンは『増えてきた国境の魔物退治のため』と言うだけで取り合わなかったという。
まあ、その魔物を増やしていたのもアルレーンなんだが。
この状況報告を受けた宰相は、アデライードの『予言』にほぼ間違いがなかったこと、そして俺が早期に解決したからこそ被害が出なかったという説明をした。
陛下は深く頷き、視線をアデライードに向けた。
しかし陛下が言葉を発する前に、遮るようにして騒ぎ出したのは高位貴族達だった。彼らは王妃の息がかかっている第一王子派の貴族で、俺達に疑いの目を向けていた。
証拠がない、結果論だ、利益のための自作自演の行いだ、王位簒奪のためだという者までいた。
彼らを黒い瞳でジッと見つめていたアデライードは、『陛下、少し発言を宜しいでしょうか』と声を発し陛下に『許す』と言われてからすっくと立ち上がった。
「陛下の御前で発言も許されていない者が騒ぎ立てるのは、刑罰の対象ではありませんか?近衛騎士の皆様、このお見苦しい方々を即刻連れ出してくださいませ」
陛下も深く頷いたので、彼らは近衛騎士によって部屋の外へ連れ出されてしまった。
扉がしっかり締まってから、アデライードは優雅な仕草でスカートを摘まみ礼をした。
「では今後の事について、『予言』も交えて全てお話しさせて頂きます。宰相閣下も、よろしいですか」
目を細めて頷く宰相を前にしても、彼女の自信と有利が揺らぐことはなかった。
独壇場と言っても過言じゃない。
アデライードは俺の価値の高さと重要性を理路整然と語った。
いかに王族といえど国防の最前線――境界を守る魔術師の存在は無視できないとやんわり言われ陛下は唸りながらも頷くしかなかった。
まあ、俺が今ここで剣を向けられて脅されたとして、じゃあ結界はなかったことに!とそれを解除した途端魔獣大発生が起きるのだ。
そんな爆弾には誰だって触れたくないだろう。
アデライードの提案はこうだった。
学院を卒業後、俺は独立した境界守護兵団を設立し、結界にほど近い領地を賜る。
そこで領地経営をしながら結界を守り他国を牽制するのが目的だ。
今回は魔獣大発生が起きていないせいで俺の名声はまだ国内の域を出ない。アルレーンが次の策を打ってこないとも限らないから、東南側の国境防衛へ回されるという話だ。
しかしあくまで俺は境界の守護を任された者。王宮に直接雇われているわけではない。それを忘れず王族といえど守護者を必ず尊重するように、と。
契約のための魔術スクロールも用意されていた。
俺と陛下が署名するもので、その契約は陛下が死んで次の王が立ったとしても勝手に破棄できない内容になっている。
破棄したい場合は自ら赴くしかない仕様だ。
ちなみにスクロールを作ったのは黒魔術士の母なので、これを破ると大いなる災いが国に降り注ぐという。怖すぎて何が起こるのか聞けなかった。
俺は静かに座っているだけの王太子に視線を向けた。
歳はもうそろそろ21になるはずだが、オーギュストほどではないがかなりの美形だった。しかし攻略対象ではないんだよなあ、と思いじっと見つめていると、俺の視線に気付いたのか王太子殿下が顔を上げた。
パッと目を引く薄い青みがかった緑色の瞳は、王家の色に近いんだろう。
「……何か?」
「王太子殿下が継承するはずの契約ですが、宜しいんですか」
「構いません。私は父より任された物をつつがなく維持するつもりですから」
王太子殿下がその言葉を言い切る前に、バンッと部屋の扉が開け放たれた。
カツカツとヒールを鳴らして入ってきたのは派手に着飾った化粧濃いめの女性だった。ギラギラした雰囲気が身体中から溢れ出している。存在だけでうるさい。
うん、期待を裏切らないな。これが王妃だろう。
アデライードが一番嫌いなやつだ。
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