54 / 62
閑話―アデライード
しおりを挟む今世わたくしに与えられた名はアデライード・ジラール。
推しの妹にして稀代の黒魔術士の素養を持ち、黒髪黒目のキラキラ儚げ美少女という『持ってる』どころか『盛り過ぎ』なキャラクター。
しかし薄幸の死にキャラ。
ただ推しが幸せになる未来を夢見ただけなのに、何故かハードモードな幼少時代を送り、死なないために死ぬほど努力をしてきた。
それでも時間をみつけて推しを愛で、苦節13年、人生のほとんどを捧げてきたプロジェクトがほぼ完成に近づいてきている。
「アデラ嬢、お久しぶりです」
つやつやの金髪、魅惑的な紫の瞳、そしてトレードマークの眼鏡をきらりとさせながら、部屋にエルヴェ様が入ってきた。
此処はジラール領の南の外れ、学院に一番近い穏やかな農村の村長の館。毎月一度、ここに転移ポートを置かせてもらい私達はお互いの情報を持ち寄っている。
今日もなかなか良いものを持ってくる事が出来たので、私はニコニコしながらエルヴェ様に椅子を勧めた。
あちらもご自身の手柄に自信があるのか満面の笑みを浮かべている。
……エルヴェ様のこんな笑顔、社交界のご令嬢達が目にしたら腰砕けだろうに。今この時しか見られないのだから惜しいものだと思う。
いや、正直過ぎるところに好感がもてるけれども。
「さあ、ご覧くださいまし。……先日魔獣討伐からお帰りになったお兄様が、非常にお疲れになってお風呂の後に薄着のあられもないお姿のままへそ天で眠ってしまわれたところですわ」
スッ、と差し出したるは記録用魔道具。
水晶玉のようなその魔道具の中には、お兄様がソファでお腹を出して眠っている姿が記録されている。エルヴェ様は『はわっ……』と可愛らしい声を上げて魔道具を覗き込み、蕩けそうな笑みを浮かべて頬を染めていた。
じっくりとお兄様の可愛い姿を堪能したあと、ハッとして気を取り直しエルヴェ様はご自身の記録用魔道具を取り出した。
「こちらは殿下のサロンです。先日は剣術の授業でお疲れになったのか、ウォルフハルド様は殿下に寄りかかって居眠りをされていまして……このように」
促されて魔道具を覗き込む。その中には安心しきったお顔でオーギュスト殿下の逞しい胸に寄りかかり、ぐっすりと眠っているお兄様のお姿が記録されていた。
ああ、尊い。フレッド様にさえ最近『何企んでるんだ』などと警戒を見せるお兄様が。
人一倍他人の視線に敏感ですぐ耳を後ろに伏せる猫みたいなお兄様が!オーギュスト殿下の雄っぱ……いえ胸元に顔を寄せてこんなにも心地よさそうに眠っているなんて。尊すぎる。
「素晴らしいですわエルヴェ様。お兄様の強い警戒心がオーギュスト殿下に対してはもうとろっとろに溶けて、こんなにも甘えモードになってしまっているのですね。ああ、すてき。可愛い寝顔ですわ」
「最近は殿下のお膝もお気に入りでして。膝枕なども……」
「なんですって。殿下の膝枕!なんてオイシイのでしょう。素敵ですわ」
「アデラ嬢の今回の記録も素晴らしいです。ウォルフハルド様のこれほどあられもない姿を撮れるのはアデラ嬢以外にいないでしょう。へそ天……素敵ですね。はあ……かわいいウォルフハルド様……」
エルヴェ様と一杯の茶を飲むあいだに止まることなく話し続け、いつも日が暮れるまでお兄様の話をする。
情報交換にも余念が無い。次はこんなコンセプトで持ち寄るのはどうか、など話は絶えなかった。
「はぁ、かわいい。このウォルフハルド様は身体を丸めて眠っていらして、少し寒かったのでしょうか。このくるんとしたフォルムが堪らないですね……抱き締めたい」
「ええ、ええ。その少し寒い時のお姿もいいですが、これから暑くなってまいりますから身体を開いて無防備なおなかをもっと大胆に晒してくださると思いますわ。ああ、この滑らかで立派な腹筋のおなかに顔を埋めたい……くう……お兄様の腹筋を撫でたい」
「くっ……いいですね、暑い日のウォルフハルド様も、きっと素晴らしいでしょう。あっ、殿下はウォルフハルド様には甘いですから、氷魔法を使って冷やして差し上げたりするやもしれません。それを心地よさそうに身に受けるウォルフハルド様……ああ……かわいい」
「殿下と夏のお休みには是非ジラール領へいらしてくださいませ。狩りに最適な領内の森ですが、綺麗な滝がありまして、お兄様はそこで水浴びをして遊ぶのが大好きなんです」
「……水浴び」
「そうです。しかも全裸ですわ」
「全裸!」
「そうなんです。わたくしはもう連れて行って頂けないのですけれど、男性同士でしたら問題ありませんわ。是非、是非行ってらしてエルヴェ様!」
そして全裸水浴びのお兄様を記録してきてくださいませ。
フレデリック様が一緒なのでわたくしは忍んで行く事さえできないのです。黒魔術士は黒魔術士の気配にとっても敏感なので。
切々と語る私にエルヴェ様はにっこりと笑って『任されました』と頷いた。
それからしばらく近況報告などを聞き、サロンでお兄様に使う香油などをプレゼントしてそろそろお開きとなった。
もうとっぷり日が暮れている。夕食でもご一緒しながらまだまだ話したい事がたくさんあったが、エルヴェ様は殿下の側近。あまり長い間離れていることは出来ない。
「マグナス団長の様子はいかがですか」
「ウォルフハルド様と毎日楽しく、剣と斧を打ち合わせているようです。それと挿入はないものの触れあいはされているようですよ」
「あら、あの絶倫性欲魔人がよく我慢していらっしゃること」
「アデラ嬢?なんて?」
「いえいえこちらのことですわ。……ちなみにフレデリック様ですけれど、お兄様の髪を一房手に入れて嬉々として媒体に使う気のようでした。恐らく一番最初に作成するのは身代わり人形でしょうね。黒魔術の基本ですわ」
「なるほど、ウォルフハルド様の玉体が守られるのであれば何よりです」
転移ポートに向かうエルヴェ様に笑顔で手を振って、ふと、前から聞いてみたかったことを今更ながら問いかける。
「エルヴェ様」
「はい?」
「エルヴェ様は結局、お兄様を抱きたいんですか?抱かれたいのですか?」
転移ポートのキラキラした魔法陣に足を踏み入れ、振り返ったエルヴェ様はふっと遠い目になって微笑んだ。
その目に映るのは、性欲というよりも穏やかに澄みわたる別の感情のようだった。
「そうですね、あえて言うならですが」
「ええ」
「私は、ウォルフハルド様のベッドの天蓋になりたいですねぇ」
「てんがい」
「はい。ベッドの側の壁でもよろしいですよ」
「……」
「……」
「本当に今更ですけれど、エルヴェ様と友となれたこと、わたくしとても嬉しく思いますわ」
「おや、そうですか?」
「ええ。わたくしまだ13ですけれど、大人になったらエルヴェ様と楽しくお酒が飲めそうです」
「ああ、それは私も同感です。待ち遠しいですね。……それではアデラ嬢、また」
魔法陣が光を強め、スッとエルヴェ様の姿が消える。これで向こう側に用意してある転移ポートに移動したはずだ。
絨毯に加工してあった魔法陣をくるくると丸め、それをアイテムボックスにポイと放り込む。
「さて、エルヴェ様はああ言うけれど、殿下はどうなのかしら。抱きたい欲求を持っただけでパイプカットを願い出るくらいだから自制心だけは特級ですわ。手強い。……ううーん、マグナス様は完全にお兄様狙いですわね。そっちは時間の問題かしら」
ふんふん、と鼻歌交じりに机を片付け、余計なモノは全てアイテムボックスにポイした。殿下と仲睦まじいお兄様の記録が映る魔道具だけは手の平に。
見ているだけで癒される、猫チャン達の戯れだ。ああかわいい。これでニャンニャンとエロい事してくれたらもっとかわいい。
「わたくしも、天蓋のカーテンになりたいですわ」
はあ、と悩ましいため息をついて、魔道具に頬ずりする。
これからお兄様には大陸の覇王となってもらわねばならない。
手にする情報はこちらで取捨選択してからまわすが、察しの良いお兄様ならすぐにわかってしまうだろう。これから否応なしに戦禍が広がるのだ。
隣国アルレーンはまだ諦めていない。
結界の場所を漏らしたのはあの側妃だ。腐っても王族なので存在を知っていたのは仕方ない。
彼女はアルレーンの息のかかった商人を出入りさせ、甘い言葉で情報も金銭も搾り取られていた。それをジラール家が『予言』として何度も教えてやっていたのに、向こうは頑なに信じずここまできてしまった。
だから、あの場は全ての予言に対する『承認』の場だったのだ。陛下が頷いたということは、側妃への疑いも確定したということ。
処分までは任されていなかったが、陛下も目を瞑ってくれた。なにせ意識的だろうが無意識だろうが、国を滅亡するほどの危機に陥らせる可能性があったのだ。一般に罪状は明らかにしない約束をとりつけたかわりに、幽閉、拷問という権利を得た。
もちろん、直接手は下さない。
わがまま放題で王宮の嫌われ者だったあの女を折檻したい者はたくさんいるのだ。自業自得といえるだろう。
オーギュスト殿下のこれからが、健やかなるものであるように、祈る。
さて、新しい記録用魔道具をたくさん作らねば、と意気込み、私はもう一枚の転移陣を取りだした。自宅の部屋へと転移すると、お兄様コレクションの並ぶ隠し棚にそっと魔道具をしまう。
幼い頃からエルヴェ様に横流ししていた映像はこの倍以上あるので、あちらの『ウォルフハルド部屋』は圧巻だろうなと思いながら戸棚を閉める。
そうしてアデライード・ジラールのとある休日の夜は、更けていった。
104
あなたにおすすめの小説
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
王様お許しください
nano ひにゃ
BL
魔王様に気に入られる弱小魔物。
気ままに暮らしていた所に突然魔王が城と共に現れ抱かれるようになる。
性描写は予告なく入ります、冒頭からですのでご注意ください。
義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました!
えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。
※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです!
※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる