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番外編-ボーナスステージ-
攻略対象より愛を込めて・2
しおりを挟むエルヴェが俺に事の顛末を聞いている最中、授業の終わったオーギュストも合流した。
かいつまんで昨日あったことを話し、アナルの危機を感じていることを話す。二人に話したからといって解決策があるとは言い切れないが、フレデリックに言ったら『じゃあ開発しよう』の一言で終わる気がしたから言えなかった。
開発という言葉を使ってあいつはきっと俺を抱き潰すだけだ。俺の幼馴染への勘は絶対に外れない。
「ウォルフハルド様。三日後に迫っているのであれば……もう、早急に慣らす以外に道はないかと」
「そうか……エルヴェの結論でもそうなるよな」
「ええ、あとは方法ですね」
俺はソファに座ったオーギュストの、開いた膝の間に座っていた。腰を抱かれてぎゅっと抱きつかれている状態だ。逞しい胸筋を背もたれに、いつもこの状態で食事もしている。
エルヴェは給仕を呼んで昼食を並べさせ、自分も席についてから全ての召使いを部屋の外に出した。
「ウォルフハルド様。お嫌であれば無理強いはしませんが、おそらく同室のフレデリック・ヴァロワより殿下の方が体格が良いので性器も大きいかと存じます」
「ん?そうだな、フレデリックは長さはあるが……太さはオーギュストのがある」
「……ウォルフハルド、そういうのは」
俺の腹に回っていたオーギュストの手が震え、仰向いて見ると真っ赤になった顎が見えた。なんだもっと恥ずかしいことはたくさんしているのに、口に出されるのは恥ずかしいのか。本当に愛いやつだなあ。
「ンンッ、……コホン、つまり殿下のほうがマグナス団長のモノに近く、慣らしには最適かと思われます」
「なるほど。そうだな」
「まずは一段階上げて、殿下の大きさに慣れて頂きます。そしてペニスサックというものがございまして、それで団長の大きさまで少しずつ大きくしていくという方法がありますね。いかがですか?」
「……んー」
もう一度仰向いて、オーギュストの頬にピタピタと手で触れる。さら、と銀の髪が肩を流れ、吸い込まれそうな碧玉がこちらを覗き込んできた。
「オーギュスト。お前も結局、俺を抱きたいのか?」
「……」
一瞬表情が固まり、オーギュストは口をはくはくと小さく動かしたが長い睫毛を伏せて沈黙した。
すりすりと彼の白い肌を撫でながら返事を待っていると、すうっと視線がゆっくり上がって俺を見つめる。
「私は、ご主人様の嫌がることは、したくない」
「……。お前なあ、こういうのを据え膳といってあるなら食っとけというのが普通だろう」
「嫌な事をされたら、ウォルフハルドは泣いてしまうだろう?」
こいつはいまだに、魔道具で結腸を抜かれた時の俺のギャン泣きを覚えているらしい。さっさと忘れろ。黒歴史だ。
「泣かない」
「……嫌ではないのか?」
「嫌じゃないから」
「そうなのか」
不思議そうに首を傾げたオーギュストが、ふいっとエルヴェを見た。
エルヴェは紫の瞳を潤ませてこっちを見つめている。頬も上気していて、なんだ、どうしたんだ?
妙な気配を感じ、俺は内心でドン引きしていた。
「で、……では殿下と、練習をなさるということでよろしいですね」
「うん、じゃあ今夜そちらに行く。三日間、訓練場を免除されてるから夕方にはいけるけど」
「はい。では準備を整えお待ちしております。殿下もよろしいですね?」
「……」
こくり、と頷いたオーギュストがジッとエルヴェを見てから俺に視線を移してくる。
ジ、と見つめるオーギュストが何を言いたいのか、暫し沈黙して考える。
……うん。なるほど?
「――ところでエルヴェ」
「はい」
「お前のペニスはなんで候補に出なかったんだ。いきなりオーギュストのモノの話になったが」
「いえいえ私など、殿下に比べましたら」
「ふーん。見た事あったかな……ん?ないような気がするな?」
「ウォルフハルド様、私のことは空気だと思ってくだされば」
「何でだよ。オーギュストの補助はするんだろう」
「……もちろん致します。ただ、私はベッドの横のチェストだと思って頂こうかと」
「お前は人間だろう」
じとっと睨み付けるとエルヴェは困ったように眉を寄せていた。
オーギュストが手を上げて、エルヴェに手招きした。すぐ近くの席に座っていたので、エルヴェの方から身を乗り出してくる。
「エルヴェ」
「はい、殿下」
「私はこの幸運を共有したいと思う。他でもないお前と」
「……は、……」
しれっと俺の負担が爆上がりした気がするが、まあいいだろう。
エルヴェがこれほど間の抜けた驚いた顔をするのも、動揺を隠せないでいるところも、初めて見る。
そして僅かに頬を染めて、眼鏡の硝子越しに睫毛を伏せる様子が妙に色っぽく、俺は今夜が少しだけ楽しみになっていた。
※※※※※※※※※
「ここか」
「殿下、足元にお気をつけください。目立たぬよう裏口より入ります」
「わかった」
他でもないウォルフハルドから私達を受け入れるという話が出た日の夜、エルヴェと二人がかりで念入りに可愛がったせいか彼は気を失ってしまった。
挿入には至らず、愛撫だけとなってしまったが行為を怖がっていたウォルフハルドの緊張を解すためにも、これは必要な時間だっただろう。
――そして、私達の手で愛されることを知ったこの身体が、今後どんな風に変わっていくのか、それがまた楽しみだった。
気を失うように目を瞑ったわりに、彼はすうすうと心地よさそうに眠っている。
そんなウォルフハルドを抱え、寮の裏口に入った。エルヴェが先導するように先を歩き、すでに灯の落ちた廊下を進む。
幸い寮内の窓は大きく、今日は月の明るい夜だった。ウォルフハルドとフレデリック・ヴァロワの部屋は2階だと聞いていたので、廊下の端の階段へ向かう。
――が、その歩みは階段を上がり始めたところで止まった。
この階段を上り右手に折れてすぐがウォルフハルドの部屋だ。しかし階段の踊り場には、大窓の夜闇を背に立つ金髪の男が立っていた。
「部屋には俺が運びますので、ここまでで結構です」
すぅ、と足元を霧のような闇が這ってくる。
私はこれと似たようなモノを、見た事があった。謁見室であの美貌の少女から放たれた殺気と、暗い闇、その震えるような冷たさを今でも鮮明に覚えている。
「フレデリック・ヴァロワ。お前に聞きたいことがある」
「なんでしょう、殿下」
足音もなく階段を降りてくるフレデリックを見上げ、私はぎゅっとウォルフハルドを抱く手に力を込めた。ふ、と小さく息をつき、落ち着きを取り戻してから口を開く。
「ウォルフハルドに何の術をかけている?」
「……」
「今宵は少し、いつもより疲れさせてしまった。しかしウォルフハルドが疲労して気を失った直後に、自動で発動した魔術によって回復したように見えた。……この通り、今はただ健やかに眠っている」
フレデリックは無言で近づいてきて、私からウォルフハルドを受け取った。横抱きにしてその身体をしっかりと抱き締めると、ほうっと小さく安堵のため息をつく。その様子は胸を突くほど切実な感情に満ちているように見えた。
しかしスッと顔を上げたフレデリックの表情は、仮面を被ったかのように美しく微笑んでいた。
「黒魔術には身代わり人形という術があります」
「身代わり?」
「殿下、その者の怪我や病、あらゆる危険を肩代わりするという、黒魔術の人形ですよ。私も聞いた事があります」
フレデリックの言葉を、傍らのエルヴェが補足する。流石は博識なエルヴェだと感心して頷くと、彼は気遣わしげにフレデリックの方を見ていた。
「しかし媒体に髪や爪、そして大規模な黒魔術には代償が必要だと聞いていますが」
「髪は俺がウォルフハルドからもらいました。代償については、全て俺が払っているわけではありませんから」
代償とは分割して抱えられるものなのだろうか。
私が相当不可解そうな顔をしていたのか、フレデリックは目をすがめ、少しだけ唇の端を歪めて笑った。酷く不恰好で年相応な表情だ。それが恐らく彼の素に近い笑い方なのだろう。
「俺が出来るのは人形に被害を移すこと。ですが人形も万能ではないし、壊れたらおしまいです。そこで自動の回復魔法が同時に組み込まれている。これはヴァロワ家の黒魔術とジラール家の白魔術の粋を凝らした作品なんですよ」
ふい、と踵を返してフレデリックが階段を上り始めた。私もエルヴェも、それを見守ることしか出来ない。再び踊り場まで辿り着いたフレデリックは、ちらとこちらを見下ろして妖艶に微笑んだ。
「……ウォルフハルドが気を失うと自動で発動する回復魔法は、ジラール家の現当主が埋め込んだ最強の白魔法です。たとえ離れていても、我ら身内は必ずウォルフハルドを守る」
――だからあなた方はどうぞ、ご勝手に。
誰よりも深くウォルフハルドと繋がっていると、格差を見せつけるようにそう言った後、フレデリックは2階に姿を消した。
「戻るぞ、エルヴェ」
「……殿下」
「大丈夫だ。今宵だけではない、明日も、明後日も、我々はウォルフハルドに求められている。今は、その事実だけで充分だ」
何かに煮詰まった時、ウォルフハルドの避難所になれるよう。そして何か解決困難な事態に陥ったときまず初めに頼る者として、私達がいる。今はその立ち位置を守れるならば、良しとしよう。
ウォルフハルドの区切った期間は3日。あと2日で多少の無理もきく身体にしてやらねばならない。それが出来なければ、辛い思いをするのはウォルフハルドだ。
じくじくと胸を焦がす感情を押し込めて、私はエルヴェを伴い自室へと戻った。
※※※※※※※※※
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