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スパダリ領主様に雇われたおっさんシーフですが、夜伽は業務範囲外です!
一話
しおりを挟む不意に伸びてきた手に逆らえず、背後からむにっと胸を揉まれた。
気配が近づいてきたのはわかっていたが、俺が警戒すべきは外であって、『内』ではない。
そうやって無視していたらいつも通り、美しく整えられた白い手が俺の胸筋に触れてきた。
節くれだって男の手だとは判るが、それでも貴族らしいツヤツヤした手だ。羽根ペンより重い物を持ったこともなさそうなその手が、俺の胸を、酒場のおやじ共のような手つきで揉みしだく。
そこは断じて乳ではない。おっぱいではないぞ。脂肪じゃなくてただの筋肉のかたまりだ。
「……おっさんの筋肉揉んで楽しいっすか」
「楽しい」
「即答すんな」
冒険者である俺の今日の装備は、ダンジョンに出る時ほどしっかりしたものじゃない。今回の仕事は護衛任務だから、投げナイフや緊急用の救急キットなどが主だ。
それらを、クロスするように身体に巻いたベルトへ装着してある。その、ベルトの交差するあたりで胸筋が圧迫されて、少し……そう少しだけ胸がせり出して見える。
背後の男はそれを『けしからんおっぱい』と呼んで勝手に興奮して揉みたがる変態だ。
そう、俺の背後にいるこの男は、おっさんの胸を揉んで喜ぶ変態なのである。
――名をジェラルド・バートランド。
国の穀物庫と呼ばれる広大な農地、バートラント地方を治める領主にして、弱冠二十五歳の美丈夫だ。長い銀髪に金色の瞳、父親譲りの美しい顔立ちで、聞いた所によると頭も良いらしい。王立学園を主席卒業したんだとよ。
そのジェラルドがこの土地を継いだのは二十歳の頃で、それからたった五年で農地改革を進め、王都からも一目置かれる土地となった。
バートラントから穀物を卸してもらえなかったら、国が干上がる。何処の貴族も、領主も、王族でさえジェラルドの機嫌を損ねないように必死になった。
金と人材はどんどん集まってきて、バートラントは豊かになった。そして他の土地からは妬まれるようになったのだ。
そんなもの、他の土地の領主が無能なだけだろうに。
誰しもそう判っていたが、羨ましいものは羨ましい。バートラントは冬になっても民が餓えず、死なず、幸せな土地として認識されていた。
そして横行したのがバートラント発の荷車ばかりが襲われる盗賊団騒ぎだった。荷は全て車ごと奪われ、運んでいた商会の者達は皆殺しにされた。そんな事件が立て続けに起こり、そう間を置かずしてジェラルドが動いた。
王都に書状を出し、騎士団に討伐の協力を依頼した。それが承認された翌日、ジェラルドは私兵団を率いて自ら山狩りをし盗賊団を血祭りに上げた。もちろん、王都の騎士団はバートラントに向けて出立してもいない。
表向きは、私兵団を勝手に動かしたわけではなく騎士団と合同の討伐、という風を装う。そうしなければ勝手に私兵を動かしバートラントには離反の兆し有りなどと揚げ足を取られかねない。そう、ジェラルドは騎士団の手など元から借りる気などなかったのだ。
盗賊団の後ろについているのは、バートラントのめざましい発展を良く思わない王都の貴族達だろう。それらを炙り出すため、盗賊団はわざと残党を逃して処理された。
刈り尽くされなかった盗賊団の者達は、命からがら逃げおおせたと勘違いして、王都へ戻り仲間を集めてからのこのこと復讐にきた。
ジェラルドにとっては願ってもない、飛んで火に入る夏の虫である。
冒険者のシーフを雇い、領主の館に数多の罠を仕掛けて待ち構えていたジェラルドは、盗賊団の残党の他に王都にいる『敵』に繋がる糸をも掴んだ。
――あとは、その『敵』を叩くだけだった。その、はずだったのだが。
「レイモンド。夜伽には特別手当を出そう」
「いえ、仕事中ですんで」
「夜伽も仕事だろう?」
「ふざけてんじゃねえよ業務範囲外だクソが」
雇い主に向ける言葉じゃないのは判っているが、このやりとりにもいい加減うんざりしている。
毎日毎日この男は夜の寝所の警護に俺を指名して、隙あらば尻や胸を揉んでくる。それを払い除けるのはもう諦めた。下手をして領主様に怪我をさせるわけにはいかない。抵抗は口だけですることにして、相手にはしないと決めていた。
――約二週間前、ギルドから指名依頼があって俺はこの館を訪れた。
領主の館に襲撃をしかけてくる盗賊団を全て生きたまま捕縛し、尋問して黒幕を吐かせること。そこまでが俺の仕事のはずだった。その後は、残党をどうするかとか王都の貴族の事だとか、もう好きにしてくれと思っていた。
しかし俺の仕事はそれだけでは終わらなかった。予想外の出来事があったのだ。
『私は常に命を狙われている。寝所にも信頼の置ける警護を置くべきだと思わないか?』
仕事中もヤケにじろじろ見てくる雇い主だなと思っていたら、盗賊団の捕縛が終わった後にも警護を続けるように言われてしまった。
しかも提示された報酬は破格だった。最近装備を新調したばかりで財布の軽かった俺は訝しみながらも依頼を受けた。
……それが、そもそもの間違いだったのだ。
その夜寝室のドアの前で警護をしていたら、なんといきなり部屋に連れ込まれた。
――もう何がなんだか判らなかった。
ジェラルドは銀の髪の先から足のつま先まで、神秘的な魅力のあるイケメンだ。前から見ても横から見てもやたらと顔が良い。領民からも圧倒的な人気を誇っているし、人格者だと言われている。
そんな男が、四十がらみの冒険者のおっさんを寝所に引きずり込んだだと?
ベッドに押し倒されてもまだ信じられなかった。
なんか貴族特有の『お戯れ』とかいう冗談だと思っていた。
ところがジェラルドは、俺の装備の上からしっかりと性的な意志を持って胸をもみ、シャツをはだけさせた。そして剥き出しにした胸元に顔を寄せるとちゅうちゅうと乳首に吸い付き、さらにはいやらしい手つきで尻を揉みしだき始めた。
ハッと我に返って抵抗を始めた時にはもう俺は半裸の状態で、装備の革ベルトに服が引っかかっているだけの状態だった。胸はジェラルドに舐めしゃぶられて唾液でびしょびしょで、尻には下着の布が食い込んで生尻が見えていた。
そんな状態でも俺はまだ甘い考えを持っていた。まさかこんなおっさん相手に勃起する男もいないだろうし、女みたいに犯される危険なんてないと思っていた。
ところが、香油を纏わせたジェラルドの指がアナルに入ってきて、さらには硬くなった下半身を我慢出来ないとばかりに擦り付けられて……一気に血の気が引いた。
下着の隙間から入り込んできた指は、クチュクチュと濡れた音を立てて俺の中を出入りしていた。相手を俺の上から退かそうとしても装備のベルトが絡んでいて上手く力が入らない。
焦った俺が『やめろ!』と叫ぶと、ジェラルドはハッとしたように動きを止めた。
『す……すまない、つい……我を忘れて……』
先に口説こうと思ったのだが、と真面目な表情で言われてどの口が?と思ったが俺は無言で服を掻き合わせた。こうなりゃ逃げるが勝ちだ。さっさとベッドから抜け出して、俺は部屋を出た。
――が、そこにあった罠がひとつ、壊されているのに気がついた。
瞬時にそれを見つけると、俺は気配を探って服の下の装備から投げナイフを取り出した。気配だけを頼りにそれを投げつけると、廊下に黒い影が落下してきた。
騒ぎを聞きつけてバタバタと護衛達が廊下を走ってくる。
足を傷つけられ麻痺毒で動けなくなった暗殺者は、そのまま地下牢につれて行かれた。
一連の騒ぎの後、ジェラルドはにこやかに言った。
『やはり寝所警護の適任者はレイモンド以外にいないな』と。
それに異を唱える者はおらず、さっさと先日までの報酬を精算して逃げようと思っていた俺は館に留め置かれた。
何より、領主ジェラルドの依頼を蹴ってギルドに戻ったなんて言われたら、次の仕事がし難くなる。俺は信用第一の冒険者だぞ。できるかそんなこと。
こうして、俺のとるべき道は、実質一方向にしかのびていなかったのだった。
「業務範囲か……改めて定め直そうか」
「いや、警護ってのはベッドの中には入らねぇモンですよ!戦えなきゃ意味ないでしょう!」
「レイモンドは凄腕のシーフだ。最初の時も賊に気付いたからベッドを出て行ったんだろう?」
「いや、ちげぇよ。現実見ろ色ボケが」
一応、冒険者だって丁寧に話そうと思えば出来ない事もない。
ただジェラルドの前だと秒と保たないのだ。こいつの言い草があまりにもあほらしくて。
不毛な言い合いをしている最中、視界の端に光る何かが映って、俺はジェラルドの身体を近くの壁に押しつけた。窓際の一番大きなガラスが割れて、飛んできた矢尻を短剣で弾く。さらに割れた窓から追撃があり、ジェラルドの身体を庇うように前に出たまま、もう一本の矢も空中で叩き折った。
すかさず首に提げていた犬笛を吹いて館の護衛を呼び、大まかに矢の放たれた方角を指示する。すぐに外を人が走って行く音がした。
「相変わらず、素晴らしい腕前だ」
「ひとの尻揉みながら言う言葉じゃねぇよオイ」
「レイモンドに壁に押しつけられて期待してしまったんだ」
「あーそーですかー」
「とても心躍る一瞬だった……」
「ちょ、ちんこ押しつけるの止めてくれませんかね!……しかも完勃ちしてやがる!」
このド変態が!と罵倒するとジェラルドは楽しそうに笑ったまま俺の尻を揉んでいた。
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