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一章 魔術師の森
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しおりを挟む雲一つない青空と、風が気持ちいい午後だった。
静寂に包まれた森の中、俺は目を閉じて大きな切り株の上に座り、集中していた。――そして、今日も意図したのとは違う精霊の気配を感じてハッと目を見開く。
「――あ、あ、やばいかも。俺またやっちゃったかも!」
失敗だ、と慌てて切り株から立ち上がった。でももう術の取りやめはきかなくて、地中から地響きみたいなのが近づいてくる。
サーッと血の気が引いていくのと同時に、身体から大量の魔力が吸い取られていく感じがあった。精霊術を使おうとしたら魔力が減るのは当たり前なんだけど、でもこれは予想外の食われ方だ。
地面の土が沸騰するようにボコボコと暴れ出す。ドン、ドン、ゴゴンッ、と湧き上がるような音とその衝撃で足元が激しく揺れた。
「う、わっ……!」
立っていられず俺はその場に尻餅をついた。異変を感じ取った小鳥が側の木から一斉に飛び立つ。
「わーっ! ごめんなさーい!!」
俺の悲鳴と重なるように、ドォオンッ! と大きな爆発音が響いた。
視界を塞いだ土煙が、ブワッと空高く巻き上がる。その一瞬、耳が詰まったように何も聞こえなくなった。
「ケホッ……ゴホッ」
土煙が晴れていくと、いつの間にか俺の目の前にはでっかいモグラみたいな姿をした土の精霊が『やあ!』と顔を出している。こんもりとしたその茶色いモグラ君の大きさは、頭の部分だけで俺の身長の倍はあった。
そんな大きなものが地中から飛び出したので、当然、退けられた土があちこちに山になっている。
「ううぅ……ノーム、呼んだのきみじゃないんだよ、ごめんね! ほんとにごめん!」
俺は悲鳴のような声を上げて謝り倒した。つぶらな黒い瞳が可愛い土精霊の『ノーム』は、樹齢数百年はありそうな木々を数本なぎ倒してニコニコしている。
この惨状に罪悪感を覚えているのはどうやら俺のほうだけらしい。
数秒前まで静かだった森の中は、複数のノームが顔を出した影響で倒木だらけになっていた。見通しがよくなったせいか、青空がよく見える。
……あ、ちょっと気が遠くなりそう。
「――おい! 今度はなんだルイス!」
森の異変を察知したらしい師匠が、遠くから怒号を響かせた。
その声だけでヒッと身体が竦む。俺の修行場は、周辺への影響を考慮して師匠のいる小屋までかなり距離を開けているんだけど……いや、これはさすがにバレるか。
「穴だらけじゃねーか! 精霊たちを早く帰せ!」
案の定、とんでもない雷が落ちた。師匠は小屋から飛び出してきたらしく、その怒りの声がだんだんと近づいてくる。
恐怖に駆られた俺はまた悲鳴を上げ、転げそうになりながら立ち上がった。
「ひえっ、ちょっと間違っただけなんです! 師匠ごめんなさい! ごめんなさーい!」
お叱りの声から逃げるように、俺は頭を抱えて走り出した。
ルイスというのは、五歳のとき師匠がつけてくれた名前だ。
辺境の村の孤児院にいた、みすぼらしいガキの俺を『魔力持ち』だと言って師匠が引き取ってくれた。旅の途中だったらしい師匠は黒いローブに鋭い目つきで、見た目がすごく怖かったのを覚えている。
仲の悪かった子には「あいつきっと鍋で煮られて食べられちゃうんだぜ」とか言われた。
でも、師匠に『ついて来い』と言われてやってきたこの山奥に、移り住んでからもう十三年だ。俺は食べられるどころか元気に育ち、精霊術士として修行をさせてもらっている。
ただ、師匠お墨付きの『魔力持ち』のくせに、俺の精霊術は一向に上達しなかった。いくら呼びかけても、命令しても、精霊は俺の思ったとおりに動いてくれない。
そもそも精霊術士は、仲良しの精霊の色に引っ張られて髪や瞳の色が変わるんだけど、俺は……なんの精霊とも仲良くなれない変な色をしていた。老人の白髪みたいだけど光の加減で色を変える、乳白色の髪色。孤児院では『気持ち悪い』と言われてよく苛められた。
だから今の俺の髪と目は、師匠の魔法で最も一般的な黒と茶色に変えてもらっている。
でも、それで土精霊の『ノーム』と仲良くできるかっていうと、そうでもない。天然の色じゃないとやっぱり駄目なのかな。
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