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一話-02
しおりを挟むいつからか、死にたい、と思うのが日常になっていた。
だって、死ねと言われるのだ。
なんで生きてるんだ、恥さらし、穢れた血の半妖、死にさらせ、そんなふうに毎日毎日追い立てられて、どうして生きる事なんか考えられるだろう。
かあさま、かあさま、早くオレを連れていってくれ。
いつもそう願っていた。閉じ込められた納屋の中で、突き落とされた井戸の中で、置き去りにされた山奥の獣道で、オレはいつでも死にたかった。死ぬしかこれからの道はないのだと思っていた。
オレは半妖だ。
かあさまは狐の妖怪、とうさまは人間。
でもかあさまはオレを身籠もった直後に妖魔の里に連れ戻された。その時、抵抗したとうさまは殺されてしまったらしい。
里の大人が何度も何度もオレに話して聞かせるから、覚えてしまった。とうさまはそれはそれは悲惨な死に様で、最後は泣きながら命乞いをしたのだと。
お前達は母子共々捨てられたのだと聞かされた。
連れ戻されたかあさまは、オレを生んでからみるみる妖力が衰えて、俺が六歳の時に死んでしまった。
人間なんぞと交わったせいだ、愚かなヤツだと、何度もかあさまを馬鹿にされた。
それからオレは里のユキという妖魔に育てられた。
ユキは鬼族の女だった。
毎日終わらないほどの仕事を任されて、終わらなければ折檻、辛うじて終わっても遅いと折檻、毎日の食事は朝に一度しか与えられず、ユキはオレを『死なないように』育てた。
いつだったか、鬼の頭領とユキが話しているのを聞いた。
妖魔の子どもは例外なく全てお館様の物、手出しはできない。だが半妖が成人するまで生かしておけば、そのあと裁判にかけて殺す事ができる。それまでは殺さず育て上げろと。
なるほど、未来ではどうせ殺されるのだ。
一足先に死んでも変わらないのではないだろうか。
死にたい、早く死にたい。
それが毎日を生きるオレの思考の全てだった。
‡
「おや、お目覚めになられましたか」
「……」
「まあまあ綺麗な瞳だこと。……旦那様、旦那様!お客様がお目覚めになりましたよ!」
「……」
どこだここは。
ついぞ触れたことのないような柔らかい綿の布団に、肌触りの良い浴衣を着せられている。目覚めてすぐ見えた天井には美しい木目、右を見れば墨絵の山が襖に描かれ、左を見れば玉砂利の地面に松の庭園がある。
こんな景色は、鬼の頭領の屋敷でも見た事がない。せいぜい庭は白い玉砂利で設え、奥に池でも造ってあったくらいだ。庭師の鬼が腕が悪いとかで、あの屋敷には緑がほとんどなかった。鬼は生来とても手が不器用なのだ。
あの玉砂利には縄で括られて転がされた思い出しかないので、痛いだけだと知っている。あれはなんの罪状だったか、冤罪が多すぎて全く思い出せない。
「目覚めただと!本当か!!」
ドタドタドタ、と屋敷の上品さとはかけ離れた音が遠くから近づいてくる。その音は庭側の廊下に続いてきて、そのまま飛び込むようにして現れた背の高い男がオレの前に膝を突いた。
ずい、と顔が近づいてきて思わず仰け反る。
長い黒髪に真っ黒な闇のような瞳をした、身体の大きな人間だった。手を掴まれてみて比べると、オレの手がまるで赤子のようだ。
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