死にたがりの半妖が溺愛されて幸せになるまで。

天城

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一話-04

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 布団の中に入っては夜まで寝てしまう。腹が苦しいくらいなので散歩はしたい。
 半寝入り状態のオレの主張をどうにかくみ取って、きぬは掛け布団の上に丸くなったオレに黒の単衣ひとえをかけてくれた。
 
 大きな、いい匂いのする黒の単衣。
 誰の匂いだろう。知りもしないのに何故だか心地良くて、意識は泥のように沈んでいく。


「ハル様、これからはどうか、お腹いっぱい食べて元気になられませ」

 きぬが柔らかい手で頭を撫でてくれる感覚が、眠りに落ちていく前の最後の記憶だった。








 屋敷の庭は、広かった。

 夕刻前に目覚めてから、きぬに椿の着物をぐいぐい強引に着せられた。そして赤い鼻緒の草履を渡され、いまは玉砂利の上をざくざくと歩いている。

 困った。オレは死のうと思っていたので、ここで腹一杯ご飯を食べて懐柔されている場合ではないのだ。寝起きでぼうっとしていたせいか抵抗したり逃げたりするのを忘れていた。

 妖狐である母譲りの銀の髪と、お月様のような金の瞳。それをきぬはとても気に入っているようで、綺麗だ綺麗だと褒めてくれる。顔は見られた物でなくとも、里でも髪と目の美しさだけは認められていたので、きぬもそう言ってくれて嬉しい。

「……だから、駄目なんだって」

 自分への戒めに、口に出してしまった。
 きぬがどれだけ可愛がってくれるとしても、所詮は人間なのだ。もしかしたら今のこの待遇も、あとで見返りを求められるのかも知れない。目玉をくり抜かれるとか、殺して髪を切られるとか。
 人間を信用するな、あれは邪悪な生き物だ、と妖魔の里ではずっと聞かされてきた。
 妖魔の子供達が物心ついてから最初に受ける教育が、それだ。オレも例外ではなく、学ぶときにはいつも引き合いに出され蔑まれて、お前は邪悪だ邪悪だと非難された。何もしていなくとも、人間はただ邪悪で生きている価値のない生き物なのだろう。オレがそうであるように。

 ざり、じゃり、と足元の石が耳障りな音を立てる。
 
 オレはとても単純だから、初めてのことに混乱していた。今までに向けられたことのない笑みと共に綺麗だ綺麗だと褒められてなにくれとなく世話をやかれるなんて、里では考えられないことだ。

 経験がないから、対処法も判らない。

 こうなれば、もう敵前逃亡しか道はない。ここではどうせ柱に頭をぶつけても死ねないだろうし、池に落ちたとしてもすぐ救い出されてしまうだろう。

 逃げなければ。
 この心地良い空間は、オレを駄目にする。
 鋭く磨いてきた感覚を鈍らせ、警戒の心を緩ませ、あらゆる危険に対し身構えていた防衛本能を取り払ってしまう。そんなことになったら、オレはどうしたらいい。

 オレは死にたいのだ。
 死ぬまでこのオレを守りきって死にたい。オレを失わないように、奪われないように、そのために早く死にたいと思っている。
 未来に守れる保証が、ひとつもないからだ。オレを奪われたら、ここに残された記憶さえも失ってしまいそうで怖い。
 
 ふら、と足元が傾いで玉砂利が大きな音を立てた。
 足を取られて膝を突くと、踏ん張りが利かず足がズブズブと埋まっていくかのようで身動きがとれなくなる。片手をついて立ち上がろうとした瞬間、突然腕をぐいっと持ち上げられた。オレは宙吊りのような体勢で玉砂利から離された。草履を履いた足が、浮いている。

「なんだ、兄貴が拾ってきた妖魔だというからどれだけ強いのかと思えば」
「……」
「見た目だけか。まあ愛玩するにはいいかもしれないが」
「……」
「おい喋れないのか?本当に愛玩人形なのかお前」
 
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