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二話-02
しおりを挟む楽な死に方、簡単な死に方、と考えて手近なところで刃物で首を落すというのもあるなと思い至る。
「その斧貸してくれ」
「まあハル様は斧がお好きですか?」
好き嫌いの問題ではないんだが、貸してくれと言うときぬはにこにこしながらそれを差し出してきた。大男はようやくオレを地面に降ろしてくれて、オレはある程度の重量を見越して両手で斧の柄を受け取った。
ビリッ、と手に走ったのは白い稲妻だった。これは重さの問題ではなく、オレが手に出来る代物ではなかった。全身に痺れが走り、息が詰まる。咽せそうになるが呼吸できる空気が足りず、ただ息を止め悶えながらその場に崩れ落ちた。がり、がり、と地面を掻く手に鋭い爪が浮き上がる。
「退、魔……武装……」
「ハル様は美しい銀色の妖狐でございますね」
きぬが落ちた斧を拾い上げ、地べたに這いつくばるオレに微笑みかけた。ソレと知って渡していただろうに、全くこちらを害する気配がなかった。やはり、オレは人間に騙されたのか。あの笑顔は懐柔するための偽りで、少しでも懐いたらこうして手の平を返すつもりだったのか。
信じようと心が揺れたのが、馬鹿みたいだ。やっぱり半妖のオレに、味方など何処にもいないのだろう。
退魔、とは人間が妖魔を退治する時に使う言葉だ。退魔用の武装、という意味で様々な武器が人間の技術で造られているらしい。数年前までは人間など数十人集まったとて大した戦力でもなかったが、今やこの退魔武装を手にした人間が十人もいれば充分に妖魔の里を襲えるという。それ故に里の結界はいつでも強固に保たれていた。世帯の多い里ほど結界の維持に膨大な妖力を必要とし、オレのいた妖魔の里も同様だった。どこからそんなに都合していたのかは知らないが、鬼の一族が頭領なので足りていたのかも知れない。
この退魔武装に触れると、妖魔は一様に人型を保てなくなった。それは攻撃された時も同様で、小さな傷ひとつでも妖魔は身体を強制的に本体へと還される。そして妖魔の本体とは、その特徴によって弱点をさらけ出すことが多いので隠す傾向にあるのだ。
例えばオレで言えば妖狐。
狐火を扱う妖狐には『火』の気が多い。そこに『水』の気で攻撃をすれば効果は上がる。退魔を生業としている者達はそういった事も詳しく学んでいるらしい。
弱かった人間は、ここ数年でめきめきと力をつけてきた。武器だけでなく集団で、戦略を持って妖魔を襲い始めたのだ。情報伝達も早く、妖魔側にはそういった司令塔が存在しないので勝ち筋が見えてこないのだ。鬼の頭領はずっと人間達の攻撃に手を焼いていた。
「まさに、そのものだ」
崩れ落ちたオレが獣型になっているというのに、側に居た大男は頬を紅潮させながら熱の籠もった声を発した。
「美しい。まさにクズノハの再来だ。……この際性別が雄でも関係ないとも」
大きな手が、思いのほか丁寧な手つきでオレを抱き上げた。黒い羽織に包まれて赤子のように抱かれ、しっかりと温かい腕に抱き締められる。耳元のあたりに男の吐息が近づき、すり、と毛皮に頬ずりされた気がする。
いや、まさか、勘違いだろう。汚らわしい半妖の毛皮に触れたい者などいるはずがない。
そのまま大男はゆっくりと屋敷の方へと進んで行く。
不思議なことに、あれだけ敷かれた玉砂利を踏みつける音が、全くしなかった。
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