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六話-01
しおりを挟むほそく息を吸い込んでエンジュの腕から抜け出し、ガタガタと震えながら玉砂利の上に正座する。そのまま砂利に頭を突っ込む勢いで額をつき、土下座したまま『ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……』と何度もくり返した。
「何をしてるんだハル!」
「ひっ……ご、ごめ、なさ……」
肩を強く掴まれて引き起こされ、間近に冬青の顔が迫ってきて『ヒッ』と息が止まった。でも目を逸らしたらさらに怒りを買いそうで、硬直する。起こされたのだからとそのままの姿勢で相手を見つめて『ごめんなさい、ごめんなさい』と壊れたようにくり返した。
ぎゅっと掴まれた肩が痛んだ。でも動いてはいけない。頭の芯から背筋まで針金で突かれたように身体が硬直していた。ひぐ、と喉が痙攣して息が苦しくなる。
は、は、と短く息をしながら謝罪をくり返す。ぼろ、ぼろ、と開いたままの目から涙がこぼれ落ちて、声も掠れたものしか出てこなくなった。鼻の奥がツンと痛くなって、視界が歪む。
ダメだ、ダメだ、まだ許しをもらえていない。
謝り続けなければ、怒りを静めて貰わなければ、どんな酷い目に遭うか……!
「これはどういう事ですか、冬青殿」
「……こ、れは……」
「私の目には怯えきった子どもをさらに追い詰めているようにしか見えません。……お判りですか、『殺気を鎮めなさい』『落ち着きなさい』と言った意味が」
「ハル……そんな……」
冬青の手が震えている。オレの肩を掴んだままくしゃりと顔を歪めて、泣きそうな目をしていた。オレはなんで冬青がそんな顔をするのか判らなくて、ただ硬直している。
何が起きているのか判らない。これからどうなるのかも判らない。
何を恐れ何に身構えていたらいいのか判断が出来なくて、ただ全てに対して怯えているしかできなかった。
「冬青殿、退きなさい」
「……槐様」
「いけません。眷族を力で支配しようなどと、冒涜です。ご先祖様に顔向けできないでしょう。……退きなさい」
肩に触れていた冬青の手が、離れた。
糸の切れた人形の様に崩れたオレの身体を、エンジュがそっと支えてくれる。再び抱き上げられ、ふわりと何か良い香りがした。花のような、果実のような、良い匂いだ。
「冬青殿、今一度よく考えなさい。このいとけない御方に向けるべきは、悋気ではないはずです。断固として、今は貴方の手に半神様を返すことはできません。何人たりともこの方を害するような事はあってはならない。心も、身体も」
そう言いながらエンジュはオレを抱いて屋敷とは逆の方向へ歩き出した。門に続く道を歩きながら振り返りもせず、冬青に向けて話しているようだった。
「そのように余裕のないことでは、一族の恥です。当主の座など早々に諦めてしまいなさい」
‡
連れて行かれたエンジュの家はお寺だった。
見上げて首が痛くなるほど大きな建物に、大きな釣り鐘、大きな柱に、大きな門。
なにもかもが初めて見る大きさで、気圧されたオレはずっとエンジュに引っ付いていた。何も言わずとも抱いたまま運んでくれたので、あの良い匂いにずっと包まれていた。
「半神様を一時お預かりする事となった。北の棟の部屋を整えよ」
僧達に指示を出すエンジュは、オレと話す時とは違って少し声が低めで言葉の語尾も硬い。それが何だか強そうで、いいなと思う。
エンジュの首に回しているオレの腕は、相変わらず棒切れのように細い。骨張って肉付きが悪くて、貧相だ。華奢に見えたきぬでさえ、武器を振り回して戦うんだろうに。オレは何が出来るんだろう。
かあさまと違って出来損ないだから無理なのかな。
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