死にたがりの半妖が溺愛されて幸せになるまで。

天城

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九話-01

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『今日こそ、その金の目玉をくりぬくぞ!』

 今でも耳に残っている、追い詰める愉悦と嘲りの籠もった鬼達の声が急に蘇る。

 里での事を思い出して、キュッと心臓が冷えて縮み上がった気がした。でも捕まった鬼というのは気になってソワソワしてしまう。正直言えば、見に行きたかった。でも一人で場所を聞いて見に行くのは怖いので誰かについてきて欲しい。

 エンジュはなんて言うだろうか、行くのもダメと言うだろうか。
 おそるおそるエンジュを見上げると、彼はいつも通りの笑顔を浮かべていた。

「ハル様、宜しければご一緒しますが」
「うん。……うん!」
「ではすぐに支度を調えましょう。……つむぎ、先触れを」

 は、と声がして襖の向こうの尼僧が音もなく去って行った。雰囲気はきぬと似ているのに、言葉も少なく無表情な女だった。オレから話しかけたら、少し違うんだろうか。こちらに嫌悪や侮蔑の感情は向けられていないから、それだけは救いだった。

「では、参りましょう」

 手早く着物を直したエンジュが抱き上げてくれて、その肩にぎゅっと顔を押しつける。縋るように握った法衣がシワになりそうだけど、ブルブル震える手は何かに掴まってないと落ち着かなかった。
 エンジュはオレを抱いたまま北の棟を出て白い砂利道を歩き始めた。

 門を潜り、また砂利の上を歩く。
 ここの敷地内は門と塀が幾つも幾つも連なっていた。門を通り過ぎるたびにエンジュが何か唱えて、綺麗なあおみどり色の光が散る。

 幾重にも結界が施されているようだった。オレひとりだったら、べちんと弾かれて門の外に放置されていただろうな。
 
「黄の家に先触れを出しておきました」
「冬青殿はなんと」
「『御到着をお待ち申し上げる』と」

 尼僧が横の道からスッと現れてエンジュの後ろへと控えた。オレはエンジュの腕の中から、尼僧に手を伸ばしてひら、ひら、と振る。ハッとした顔でこちらを見た尼僧は、ふ、と目元をやわらげてくれた。

「ハル様、彼女は『つむぎ』と申します」
「つむぎ」
「槐様付きの影でございます、どうぞわたくしのことはいないものとお考えください」
「……え」

 エンジュに紹介されて少し嬉しくなって名前を呼んだら、すぐに拒絶の言葉が返ってきてびっくりした。あう、あう、と口を動かすがなんと言ったらお話し出来るのか判らない。いないもの、ってなんだろう。
 オレはうるさいから、つむぎに話しかけてはいけないって事だろうか。

「つむぎ。ハル様はあの『きぬ』ととりわけ仲良く過ごしていたようです。つむぎとも話したいのでしょう」
「……は、きぬと?」

 起伏の少ない表情が一瞬だけ驚いたように動いた。けれど、すぐに目を伏せてそれを隠してしまう。

「ハル様。つむぎはハル様を嫌っているわけではありません。少し頭が固いのです。冬青殿の『きぬ』もまた、つむぎと同じく影ですが、あそこの主従は少し距離感が変わっていますので、同じように出来なくて申し訳ありません」

 きぬとつむぎは同じなのか。
 その言葉に納得して、ウンウンと頷くとつむぎの方は困ったように眉を下げていた。『善処します』と付け足してくれたのは、気を遣ってくれたのかな。無理にお願いすると余計に嫌われてしまうと思うので、オレはそれ以上何も言わなかった。

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