死にたがりの半妖が溺愛されて幸せになるまで。

天城

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十話-02

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 相手にそんな気はないと思っても照れてしまって、嬉しくて顔がへにゃってなってしまった。
 エンジュの顎を両手で掴んで、指先で白い牙をそーっと撫でる。
 
 ぱち、ぱち、と灰色の目が瞬いた。オレが触ってくるなんて思わなかったのかも知れない。

 でもすぐに目を細めて従順に、されるがままになってくれた。それが嬉しくてむず痒くて、鳩尾のあたりをこしょこしょ擽られてるみたいな感じがする。





 
「ハ、ル……ッ」

 とても良い気分だったのに、最悪な気持ちにさせる声が割り込んできた。
 そちらに視線を向けると、護符を破壊されて片腕を落された赤髪の鬼が、地面でのたうち回っている。痛い痛いと泣きながら腕を押さえて、泣き濡れた目でこちらを見上げていた。

「オレの目をくり抜くって言ってたのに、その程度で泣くのか」
「あ、あれは……あんなのは、冗談だ。ただの冗談だろ、悪ふざけみたいなもんで……」

 鬼の方に行こうとするのを引き留めるエンジュに、ちゅ、と頬への口付けをした。腕の力がふっと抜けたのでそこをすり抜け、血だまりの中の鬼達へ近寄っていく。

 頭領の息子以外の他の四人、護符を持たない鬼達はもう虫の息だった。

 先程の話から、里の情報を聞き出すなら鬼の頭領の息子一人で充分だと思ったのだろう。足を切り落とされ血を失った鬼達はさんざん退魔武装で殴られたせいか、鬼の本性を剥き出しにしていた。
 身体の大きさに角、牙、そして肌の色まで変わっている。

「これ、切り落としてくれ」
「あらそんなもの、とても不浄ですわハル様」
「あいつの口に突っ込む」
「まあ。名案でございます。すぐ準備致しますね」

 きぬがオレの指さすモノを、にこにこしながら大斧で切り落としてくれた。ギァアァ、と一匹の鬼から悲痛な叫び声が上がる。もう精根尽き果ててたと思ったが、まだ逸物を失う痛みには耐えきれなかったか。ごろんと落ちた鬼のソレは、人型ではなかったせいかとても大きい。
 手を伸ばしたら、その前につむぎがサッとそれを布越しに掴んで取り上げてしまった。

「ハル様のお手をけがすわけにはまいりません。わたくしが」
「ありがとうつむぎ。アレの口に押し込んで」
「はい」
「吐いても押し込んで。息が止まっても奥まで押し込んで」
「はい。仰せのままに」
「気を失ったら水をかけて。目覚めたら叩いて正気づかせて、また口に押し込んで」

 つむぎはキュッと唇を挽き結び『必ずそのようにいたします』と頭を下げて鬼に向き直った。
 背から立ち上るように怒気が溢れ出ている。

 今言ったことはオレが里でされていた事だと、つむぎにはちゃんと伝わったらしい。

 ヒイヒイと泣く赤髪の鬼を見下ろして、オレは短い息を何度も継いでいた。
 息をしているのに、まだ足りない。
 何度息をしても苦しくて、頭がぼうっとしてくる。

「ハル。……ハル、もう良いか。行こう。後は任せて置けば良い」

 ヒュ、ヒュ、と鳴るオレの喉がそっと大きな手に包まれた。

 そのまま冬青に抱き上げられぎゅっと抱き締められる。強い腕に抱かれているのが気持ち良い。むずがるように両手を伸ばして太い首に抱きつき返したら、目の前が真っ白に埋め尽くされた。

 まだ冬青の髪が、黒に戻っていない。もふ、もふ、と顔を押しつけて肌触りを堪能する。
 少し顔を上げて見ると、冬青の健康的な色の肌はそのままだったが、長い睫毛まで白く変わっていた。そして瞼が開きオレを見つめると、空みたいな透き通った青がオレを映した。

 ふと、冬青の手の中に気になる気配を感じてトントンと腕を叩く。
 握っていた拳を開いてもらうと、壊れた護符の板が破片まで綺麗に集められていた。
 ふわりと香るのは白檀の、かあさまの香りだ。

 それに手を伸ばし、ちょんちょん、と指先で突っつくと……ブワッといきなり白銀の光が広がる。

『ハル』

 柔らかな、もうずっと遠くなってしまったかあさまの声が聞こえた気がして、フッと意識がそこで途切れた。


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