孤独な闇魔法使いに聖騎士の溺愛

天城

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三話 謁見とかもう少し慎重にできないか①





「ネロ、君の髪は本当に不思議な色だな。この美しい黒が地なのかあでやかな赤が本物なのか……やはり瞳が黒だから黒か?」
「無駄口叩くなら触るな」
「ああ、すまない。真面目に梳くからもう少し。もう少しだけ……」
「……」

 オレがこの屋敷で目覚めてから、ずるずると居続け四日が経っていた。
 これでも出て行く意志はあった。ただ、こっそり出て行こうとするとバージルかライオネルが必ず立ちはだかる。そして怪我が治っていないからと引き留められ、軽々持ち上げられてベッドに戻る羽目になるのだ。
 治りきってないのは確かだからまあ、仕方ないんだが……。いや、なんで察知されるんだ? それだけは解せない。

「今日もリボンは私が選んでいいかな」
「好きにしろ」

 明るい日差しが差し込む昼食後の客間で、物好きなライオネルは嬉々として櫛を動かしている。オレの髪なんか梳いて何がそんなに楽しいんだお前は。
 しかもこいつ、一日に何度も名前を呼んでくる。これはもしかしてオレのほうがペットみたいな扱いうけてるのか?

 初日からしつこく名前を聞かれていたので、ゼファーがつけた『ネロ』という名前を教えていた。
 騎士団に『夜の牙』の内部の名前はバレてないから大丈夫だろう。ちなみにこの名前、市井には掃いて捨てるほどいる一般的な名だ。
 適当な偽名を名乗っておいて呼ばれた時に上手く反応できないとか、そういう違和感をなくすためにコレにした。
 親がつけた本名はとっくに記憶の彼方だった。
 五歳から誰も呼ばなきゃ、まあ忘れてくもんだよな。

 とにかく、このベッタリなライオネルを引き剥がしてそろそろ本気で出て行く算段をする頃合いだ。体力が戻れば魔法を使うのも苦じゃない。
 もう起き上がることは出来るし歩行にも問題はなく、折れた腕だけまだ添え木が必要だったが、じきに外せるだろう。ここでは何の薬を使っているのか本当に回復が早かった。
 出て行けと言うなら明日にでも行けそうなんだが。正体不明の居候とか普通の貴族は嫌がるよな?

 しかし家主のライオネルはのんきにオレの長い髪を櫛で梳いてはリボンでまとめている。
 朝は気付くと部屋に居るし、食事を毎回この部屋で一緒に取ろうとするし、オレが動けるようになってからは庭の散歩にもついてきていた。
 監視のつもりかと身構えたが、気遣うように俺の背を支える様子に悪意は見えなかった。隠し通しているんだとしたら相当な策士だ。

「ああ、やっぱりリボンは銀が似合うな」

 ライオネルは出来映えに満足したようにシルクのリボンを撫でた。
 オレの髪は、黒髪に赤髪が混ざったような妙な色をしている。そして長い。十歳から手入れしつつゆっくり伸ばしているので腰くらいまであった。
 長髪は正直面倒なんだがこれにはちゃんと理由がある。
 ゼファーが言うには、魔術師の髪やヒゲは魔力を溜める役割があるんだとか。できるだけ長く伸ばし、魔力を溜め込んで使う方が良いと、ゼファーは時折オレの髪の手入れもしてくれた。そうしないと絡まるしごわつくし、下手すれば切らないといけなくなる。

 髪に魔力なんて、眉唾な話じゃないかと最初は思わなくもなかったが、オレはもともと黒一色の髪をしていた。
 それがゼファーに魔法を教わってから、魔法を使うと髪に赤い束が混じるようになったんだ。魔力が枯渇するまで魔法を使いまくると、黒髪は全部鮮やかな赤に変化してしまう。そしてまた、魔法を使わずにいるとゆっくり赤髪に黒が混じり始め、真っ黒に戻るという寸法だ。

 カキアの阿呆が魔力回復を待たず働かせ続けるせいで、オレの髪はしばらく赤色になっていることが多かった。
 ただ、逃げ出した夜は仕事がなかったから、珍しく黒みの多い髪をしていたはずだ。ライオネルはそのせいかオレの地毛が黒だと思ったようだ。
 今もよく休んだおかげで黒髪に赤い筋がいくつか入ってるくらいの色合いになっている。

「坊ちゃん、団長からご連絡が」
「ああ、今行く」

 オレに銀刺繍のリボンを結んで満足したライオネルは、櫛を片付けて慌ただしく部屋を出て行った。相変わらず騒がしいやつだ。

 ライオネルは、記憶を引きずり出したところオレより五つ年上だった。つまり今二十三だ。それで副団長ってのは破格の待遇だろう。貴族の地位のせいだとやっかみも多く受けただろうなと容易に想像ができる。


 しかしそうは言ってもライオネルは民衆人気がすこぶる高い。

 何しろ生まれながらの祝福持ちだ。人気取りのハリボテとしての役割なら十二分に果たせたはず。騎士団が市民からの人気を気にするのかというと、無いよりは仕事が楽、という程度だろうが。
 その民衆人気がなぜ衰え知らずかというと、まずライオネルは顔が良くて見栄えがする。それだけでなく人々に公平で優しく、職務にも真面目に取り組んでいることが評価されていた。


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