孤独な闇魔法使いに聖騎士の溺愛

天城

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四話 誰か一般常識から教えてくれ③




「驚いたな。いとも簡単に解くものだ……」
「結界自体はそれほど複雑なものではありません。ただ、闇魔法使いが現れるまで解けないようにする、ということは秘密にしたいことなんですよね。……恐らく目的は『叡智』の継承でしょう」 
「お祖母様は確かに闇魔法の研究をしていたというが」
「ではその研究資料などが詰められた箱か棚か、そういうもののカギでは?」

 失われつつあるという闇魔法の資料が手に入って良かったじゃないか。さてオレの仕事は終わりだと席を立ったら、横の騎士団長に押し留められた。
 彼はテーブルにあった食事を小皿に盛り、オレの前に素早く置いた。

「食べていけ」
「いえ、昼食は既に……」
「細い。病み上がりだとしても信じられん。ライオネルは何をしていた。この骨と皮だけの手首など枯れ木のように折れそうだ。……四の五の言わず食え」

 真横からの熊並の圧が強くて、「ひっ」と思わず情けない悲鳴が漏れそうになったが喉で止めた。もう皿に手を伸ばすしか道がない。
 フォークを手にしてもそもそと謎の料理を口に運ぶ。高貴な食べ物は味も繊細すぎてよく分からん。

「団長、ネロはまだ粥から始めているところです。あまり肉とか脂の多いものは……」
「身体は肉を得てこそ強くなるのだ。穀物で腹は膨れるが肉はつかん」

 何故かオレの頭の上でライオネルとジェラルド騎士団長が言い合いを始めてしまった。
 何なんだよこいつら。
 半眼になりつつ謎の葉っぱをもそもそと口に運んでいたら、横からオレの皿に四角いパイが置かれる。ベリーの乗った甘そうなパイだ。
 犯人はすぐ横にきていた皇帝陛下だった。にこにこしながら席を移動してオレの食事を監視している。
 アンタも食えってか。はい、大人しく食いますよ。

「お祖母様の書斎は調べ尽したつもりでいたが、もう一度さらってみよう。実は闇魔法の使い手が減る原因についても、長年の研究課題なんだ。新しい見解がみつかるといいんだが。……ところでネロ君、お祖母様の残した魔術書とか興味ないかな?」

 ぴく、とうっかり反応してしまったのを、流石の皇帝陛下は見逃さなかった。
 気まずくて目を逸らしたオレが口を開くと、そこに小さいパイを押し込んで喋らせない。

「闇魔法の使い手はとても貴重だ。魔術書もあまり出回っていない。君には特例の通行証をあげるから皇宮にいつでも読みに来るといい」
「いや、え……っと」

 そろそろ王都を出るつもりだったオレにそんなこと言われてもな。いや、でも新しい魔法は学びたい。魔術書ってのは、魔術師にとって喉から手が出るほど欲しい宝だ。
 しかしその欲を何とか押し留めてオレは顔を上げた。
 口に入れられたパイは林檎が入っていて甘かった。もぐもぐ食べきって飲み込んでから、やんわりと皇帝陛下の手から逃れる。

「お気持ちは有り難いですが、傷も治りましたしオレは行くところがあるので……」

 チラ、と見るとライオネルは厳しい表情をしてこっちを見ている。
 不意に背を冷や汗が流れた。包帯を外したからって覆面だったオレの顔に気付いたはずはないが、それでも勘づかれる前に早く王都を離れた方が良いよな。暗殺集団と騎士団、この二つの勢力から睨まれてるオレは、早々に国を出るのが一番じゃないか?

「なるほどそれが原因か……」

 口を開いたのはライオネルとやりあっていたはずのジェラルドだった。オレとライオネルの顔を交互に見て、皇帝陛下に向き直る。

「陛下、三十年ぶりに発見された闇魔法の使い手ですから、彼は皇宮での保護が妥当かと」
「……はっ?」
「いいかネロ、怪我の状態などからも君が追われているのは分かる。一日も早く遠くまで逃げたいのだろう。もともと傷がよくなったらライオネルの屋敷を出るつもりだったのだな?」

 ただでさえ威圧感のあるジェラルドにぐいぐい詰め寄られてオレは後退した。
 しかしすぐ隣にも皇帝陛下が移動してきてしまったので身動きがとれない。
 こいつら完全に退路を断つつもりだな。
 問いかけてきておいて返事は期待していないのか、ジェラルドは呆れた顔でライオネルに視線を移した。

「このライオネルがわざわざ傷を『癒さず』に屋敷に留め置いていたのだから、そういうことだろう。先程は褒められたことではないと思っていたが理由があるならば仕方がない」
「癒さず……?」

 思わずその部分に反応してしまったオレは首を傾げた。
 治療は受けていたし傷の治りもいつもより早いのだが。そう思っての視線だったが、ジェラルドは小さくため息をついてライオネルを顎でしゃくった。

「なぜライオネルが『聖騎士』と呼ばれているか知らぬわけではないだろう。こいつは加護のおかげで大神官と同等以上の治癒魔法が使えるんだ。それで目を射られようが腕を切り落とされようが戦場から生きて帰ってくる。この歳で副団長なんぞやらせているのはそれが理由だ」
「団長、私はもう副団長では……」
「お前は黙っていろ」

 ピシャリとジェラルドに言い切られてライオネルが口を噤んだ。
 つまりライオネルは、オレが逃げる気満々なのを察して治癒魔法を使わず、屋敷に留め置いていたということか。

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