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五話 感動の再会なんてあるわけない①
確かに、助けられたあの日最初に叩き込まれた治癒魔法の効果はそこまで高くなかった。
瀕死から重病人にランクアップしたくらいか。それからライオネルは、オレの様子を見ながら何回かにわけて治癒魔法をかけていた気がする。
治癒魔法と一口に言っても魔力のかたまりだ。オレという器の許容量を見極めながら注いでいたんだろう。加減を間違えると増殖したり歪んだり、なかなか厄介な魔法だと聞いている。
だから神官たちは、厳しい修行をしてそれを習得するんだろう。
でもこれで、屋敷に移ってからの治療が薬主体だった理由がわかった。オレは治癒魔法には回数制限でもあるのかと思っていたんだが。わざと遅らせてたのか。
しかし実際ジェラルドの言う通りなのだとしたら、オレを引き留める理由は闇魔術師だから王命で留め置いた、てことでいいか?
なんだ、そういうことか。急に胸の中心に穴が空いたような、冷たい空気がひやりと通り抜ける感じがした。
「ネロ君、ジェラルドの言う通り、追われて困っているなら私が手を貸そう。いつまででもここに居ていいんだよ。ゼフィールも喜ぶ」
皇帝陛下がオレの手を取り親身になって言葉をかけてくれる。「ネロ!」と何か言いたげに声を上げたライオネルは、騎士団長に遮られている。……その企みを知った今は、あいつの顔を見られそうにない。
オレは引き攣りそうになる顔を何とか取り繕って口を開いた。
「陛下、いくら闇魔法の使い手だからと、自分のような身元不明の男を御身のそばに置くのはお止め下さい。警備の騎士たちも困るでしょう。どこの馬の骨とも分からない相手なんですよ?」
「わあ、ネロ君はゼフィールと違ってとても真っ当なことを言うんだね。最近みんな慣れてしまって、そんな進言をしてくれる臣下は一人もいないのに。素晴らしい。思いのほか言葉遣いもしっかりしてるけど、交渉術も習ってるのかい? いっそもう私のところで働かない?」
おい、さすがにそれはないだろう。宮仕えの奴らにオレが袋叩きに遭うぞ。
上機嫌で笑う相手に目眩を覚えてきたあたりで、いきなり豪快な笑い声が聞こえてきた。庭園の向こうから、うす汚いローブの人影がこちらに向けて歩いてくる。
「坊主! そいつは言い出したら聞かないから折れてやんなきゃ帰しても貰えんぞ。俺がいい例だ」
野太いしわがれ声は、耳に馴染んだ懐かしい音だった。ハッとしてガゼボから飛び出していくと、数ヶ月前最後に見たままの姿のゼファーがそこにいる。
クシャクシャのヒゲだらけの顔で鍬を担いで、手にはバケツをぶら下げていた。
その浮浪者みたいな格好を咎められもせず庭園の奥から悠々と歩いてくる。
「じ、じじい……!」
「おう、ネロ! 久しぶりだな、元気だっ……!」
勢いをつけて走り寄ったオレは、渾身の力を拳に込めてゼファーをぶん殴った。
ガランッゴトンッと鍬やら道具やらが地面に散らばって耳障りな音を立てる。じじいは「ゴフッ!!」と無様に地面に吹っ飛んで、仰向けに転がった。せっかく治った拳がじんじんと痛んだがそんなことはどうでもいい。
オレは怒りを抑えきれないままでフー、と細く息を吐いた。
「『元気だったか』だと? てめぇこの数ヶ月オレがどんな目に遭ったか想像もつかないとは言わせねーぞ。てめぇのクソ息子のことだよ。おい、ゼファー」
「あ、あ、すまん、本当にすまんネロ。カキアは本当に馬鹿でな、頭が実に単純で」
「おいッ! 聖騎士ヴァンフォーレ!」
ゼファーのもごもごした言い訳を遮って叫ぶと、ライオネルが慌ててガゼボから出てきた。オレは目を眇め、ライオネルの顔を睨み上げてゼファーを指さした。
「最上級回復薬なみの治癒魔法が使えるんだよな? いまこいつを半殺しにしてもお前治せるな?」
「な、治せる、と思う」
「そうか。じゃあ頼むぞ」
握った拳が、ポキポキといい音を立てる。ニヤリと笑うオレを見上げて、ゼファーがヒゲもじゃの顔を歪めて『ヒィッ』と声を上げた。……ちなみに皇帝、騎士団長、元副団長がいるのにも関わらず、仲裁に入ってオレを止める奴は一人もいなかった。
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