孤独な闇魔法使いに聖騎士の溺愛

天城

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七話 『時戻し』③

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 一年前、あの日の『仕事』にはゼファーが一緒で、オレの闇魔法は絶好調だった。それで少しばかり調子に乗っていた。


 必要だったのは汚職財務官の隠した資料を盗み出すことと、同じ暗殺術に長けた財務官の執事を殺すことだった。
 流石に年季の入った暗殺者であるその執事は手強かったが、カキアがもたもたしていただけで自分の仕事はきっちりやった。
 最後は見かねて執事に盲目の魔法をかけてやるおまけもまで付けたのに。それでも腕が及ばず怪我をしたのはカキアが未熟だからだ。ゼファーも苦笑していたが、これから組織を動かしていくのはカキアとオレだと思っていたらしくあまり口は出さなかった。

 執事は始末し、資料も探し出して財務官の屋敷を出ようとした時、ライオネルが騎士団を引き連れてやってきた。いったい何の勘が働いて気付くのか分からないが、こいつはオレが現場に到着してしばらくすると唐突に現れるんだ。
 犬みたいに鼻が効くのかと疑ったことは一度や二度じゃない。

『見つけたぞ!』

 屋敷の裏手からこっそり出たのにライオネルはそれに気付いて追いかけてきた。こっちは全員覆面で、隠蔽魔法も使っていたから顔はバレないだろうが体格差は目に見える。
 血筋なのかゼファーもカキアも驚くほど体格が良いんだ。オレだけ目立つのは仕方ない。

『待て!……待ってくれ!』

 窓から木々に乗り移り、逃走を始めたオレたちをライオネルは馬で追いかけてくる。何処かで巻かなければと焦ったオレはゼファーが止めるのも聞かず木の上からライオネルに飛びかかった。
 さっきの執事と同じように、盲目の魔法をかけるつもりだった。これは対象に触れると継続時間が長くなる。オレは猿のように馬の頭に飛び乗り、ライオネルの目元に手を翳した。手の平から漏れ出た黒い闇が、相手の視界を覆っていく。

『坊主!』

 魔法がちゃんとかかってホッとした瞬間、鋭くゼファーの声が響いてハッと顔を上げた。さっき執事で手こずった分を挽回しようというのかカキアが矢をつがえてこちらを狙っている。
 その手はさっき負った怪我のせいかだいぶ震えていた。狙われているライオネルのほうは急に視界が利かなくなったことに驚き、何度も瞬きをして頭を振っている。

『止せ!』

 オレの制止も聞かず放たれた矢はライオネルに向かったが、馬が急に身を跳ね上げたせいでオレの方へ飛んできた。あの野郎、とカキアを恨んで『時戻し』を発動しようとした瞬間、いきなり伸びてきた腕に身体を引き寄せられ、全身を覆うようにぎゅっと抱き込まれる。

『――ッ!』

 ドッと衝撃がありライオネルはオレを抱き込んだまま馬から落ちた。矢が刺さったんだ。どこに? 頭か、肩か、それとも首か?
 地面に転がるライオネルを慌てて仰向けにして、オレは『時戻し』をかけた。矢は浅くだが片目に突き刺さっていた。
 必死に頭を回転させ考え得る全ての応急処置を施す。
 闇魔法には治癒のような効果の魔法は存在しない。しかし傷の進行を遅らせること、失血を抑えること、刺さった矢尻がこれ以上傷を広げないよう塵にすること、は出来た。
 それくらいしか、できなかった。

『……ごめん』

 騎士という職業に、目はどう考えても必要だ。片目では物の遠近感が狂うし、敵との間合いが取りにくくなる。
 それを奪うのがなにを意味するか、オレは分かっていた。だから、謝るしかできなかった。
 応急処置を終えると『時戻し』を解除してオレは逃走した。振り返りもせず走るオレの後ろを、ゼファーは無言でついてくる。
 カキアは得意になって手柄を主張したが、オレは何も言えず、ねぐらに帰ってもただ重いため息だけが零れた。
 それからしばらくは、眼帯で目を覆ったライオネルと『仕事』の最中よく出会った。どうやら目の傷はオレの仕業だと思っているらしく、ライオネルの執着は度を超して強くなっていた。
 まあ視界を奪われた時に目の前にいたのはオレだから、オレの仕業だと思うよな。実際オレのせいではあるし。
 でも、ライオネルが生きていたことに安堵した。そしてまだ騎士として働けてるのかとホッとする気持ちと、さっさと辞めればいいのにと苛立つ気持ちが半分ずつオレの胸を占めた。
 隻眼では、次こそ目だけでなく命まで落すかもしれないのに、騎士なんかやってる意味あるのかと。
 ……それからしばらくして、酒場であの噂を耳にした。

『聖騎士ライオネルが騎士団を辞めたらしい。やっぱり失明が原因かねぇ?』
『当たり前だろ、片目なんかでどうやって戦うんだよ。辞めたっていうより、クビじゃないか?』

 ゼファーのいなくなった後のオレは、気持ちもなにも抜け殻のようになっていて、それ以上噂に心を動かされることはなかった。


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