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八話 同じ穴の狢①
‡
カキアはオレを、『兄弟』だと説明して共に衛兵の詰め所へと引きずって行った。ライオネルは難色を示して眉を顰めたが、結局は衛兵たちの仕事を優先させるしかなかった。
それに運ばれた爺さんのことも気になったんだろう、ライオネルの意識はそれで少しの間逸れていた。その時を待っていたオレは、事情聴取のために入った詰め所の中で闇魔法を放った。衛兵たちは一瞬で意識を混濁させ、『時戻し』を使って自分とカキアだけが動けるようにし、急いでその場から逃げた。
扉はきっちりと閉めておいて、事情聴取がされているように見せかけておく。
「ハッ、間抜けな奴らだ!」
何にもしてないクセに高笑いしてるカキアを急がせて、物陰に隠れてから『時戻し』を解除した。続けて『隠蔽』と『幻惑』を使い、人混みに紛れて神殿から離れる。魔法の連続掛けばかりしているせいで消費が激しく、黒かったオレの髪はまだらに赤く染まっていた。
路地裏まで来るとカキアはオレを振り返り、唐突に腹に拳をめり込ませてきた。ドッ、と重い音がして、衝撃のままその場に蹲る。
もう慣れた暴力に顔を顰め奥歯を噛み締めた。そのまま荷物のように抱え上げられて運ばれる。
「ったく、面倒かけさせやがって」
舌打ちしたカキアは迷いなく走っている。王都にある隠れ家へオレを運んでいるのが分かった。神殿前にいた他の連中もそこに集まっているんだろう。今は何の仕事を請け負っているのか知らないが、オレがいないことで行き詰まっているのは明白だった。
「カキア! 大丈夫だったのか」
「当たり前だろうが! 俺がそう簡単に捕まるか!」
隠れ家に戻ると、集まってきた連中が声をかけてきた。尊大な態度でカキアが返事しているが、いやいやお前一人じゃ普通に衛兵に捕まってただろと呆れたため息が漏れる。
「ん? そいつは? もしかしてネロか!」
「そうだ。オイ、誰か縄持って来い! それと、犬には首輪だ。誰が飼い主か分からせてやらねぇとな!」
ザワッ、と周囲の連中に一瞬動揺が走った。しかしカキアが再度怒鳴ったので縄や鎖、首輪が運ばれてくる。ものの数分でオレは縄で拘束され床に転がされていた。
「下見はしてきた。明日決行するぞ!」
カキアは仲間にあれこれと指示を出していたが、オレには見向きもしなかった。当然ここに居る全員でオレを殴ったり蹴ったりして憂さ晴らしをするだろうと思ってたら、拘束されただけで放置だ。
不思議に思って辺りを窺っていると、こそこそと連中のなかの一人が近づいてきた。
「水と食事を持ってきました」
自身の身体で作った影にオレを隠し、素早く乾燥したパンと水を口に含ませてくれる。誰だコイツと思って睨み付けていたら、微妙に見覚えがあった。『夜の牙』の構成員として認識してたってくらいだが。その男は苦笑してオレの耳元に顔を寄せた。
「ネロさんがいなくなってから、頭目は失敗続きです。当たり前ですよね、ネロさんの魔法がないんですから。みんな薄々そのことには気付いてましたが、こんなにはっきり結果に表れるとは誰も思ってなかったみたいで」
カキアは机に見取り図のようなものを出して、部下に仕事の説明をしている。その顔には若干の焦りがあるようにも見えた。
「後がないんです。次こそ成功しないと。だから今日はネロさんの体調を優先するはずです。絶対に殴られたりしません」
オレは白けた気分でその話を聞き流した。既に腹を殴られて連れて来られてるんだが、あれはなんだ? 挨拶代わりに拳が出るのがもうクセなのかあいつは。
半眼になったオレの表情を見て、そいつは笑いを堪えるような顔をした。それからオレが身体の下敷きにしてた髪の束を丁寧に引き出すと、床にそっと置いて離れていった。
ああこいつ、思い出した。
オレが殴られたあと朝になると傷を拭いたり治療してくれてた奴だ。考えてみれば一番関わりがあった。こいつ、オレに触れてくる手が丁寧過ぎて、いつも不審に思っていたんだ。
「……」
床に転がったまま無言で様子を窺う。向こうではまだカキアがああだこうだと説明を続けていた。適当に聞いていたところ、今回の依頼は盗み出す物はなしで、純粋に暗殺依頼みたいだった。
標的はあの神殿の大神官で、アントンという七十歳超えた爺さんらしい。今日あの神殿の前で騒いでた老人と同じくらいか。
爺ひとり殺すだけならラクな仕事だろうが、大神官が生活しているのはあの神殿の奥にある神官居住区だ。そこに入るためにはいくつもの扉があって、警備も厳重で、かなり骨が折れる。ゼファーだったら「リスクのほうが高い」と受けなかった依頼だろう。
面倒なことにならなきゃ良いが。オレは床に転がったまま目を瞑った。
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