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八話 同じ穴の狢②
翌日、日が暮れてからカキアたちは動き出した。オレを含め五人の覆面に『隠蔽』と『幻惑』の魔法をかけ、神殿に潜入する。
流石に潜入ルートだけはそこそこちゃんと調べてあって、闇魔法の補助ありきだが上手く居住区まで入ることができた。
カキアも若干浮き立ったように先頭を走っている。
しかしオレにはどうにも違和感があった。日が暮れた後の神殿内とはいえ静か過ぎやしないか。でも先頭のカキアはなにも思わないのか、大神官の部屋へと辿りつき扉を押し開けた。
「……!」
息を飲む気配がして、中に入ったカキアがその場で足を止めた。廊下でうろうろしているわけにもいかずオレたちも中に入ると、部屋の中は一面血の海だった。
部屋の真ん中にぼろ切れみたいな死体がひとつ転がっている。
「誰か! 大神官様が! 賊に殺された!」
謀ったように誰かの叫ぶ声がした。
罠だなと舌打ちしたオレは考える間もなく『時戻し』を発動させた。窓を叩き割り、カキアを引っ張って外へ出る。しかしそこにもずらりと神官たちが囲んでいて、全て避けて出るのは不可能なことのようにみえた。
「クソッ! カキア! 逃走ルートは!」
「こ、こっちだ!」
やっと我に返って動いたカキアの後に、全員が続く。『時戻し』を何度もかけ直したが何処へ逃げても衛兵や神官が押し寄せてくる。
逃走ルートが読まれているか逃げる隙もないほど人員が配置されているかのどちらかだ。
いっそ何処か建物に隠れてやり過ごすのは、と考えて神官宿舎の壁に手を当てた瞬間、頭上からバサリと何か落ちてきた。
「なっ……!」
布のような物に視界を塞がれ焦っているうちに、同じように上から降り立った気配にぎゅうっと抱き締められる。
――その腕の心地良さだけで、この熱がライオネルのものだと分かった。
ビクリと震えて動きを止めると布越しに安堵のため息が聞こえる。こんな場所に不釣り合いな抱擁は、泣きたくなるくらい温かかった。
「なんだてめぇ!」
カキアの声が聞こえる。
続いて、鋭く甲高い剣戟の音が響いた。ライオネルはそっとオレを後ろに庇い、ザリッと硬い地面に踏み込んだ。
被ったマントの隙間から火花を散らすような剣の応酬が垣間見える。夜闇に白銀の髪を揺らしたライオネルが、四人の暗殺者相手に単身で戦っていた。
無茶だ、と思った。いくらライオネルが強くてもカキアたちはそれなりに手練れで、四人いれば連係攻撃も仕掛けてくる。ひやりと心臓が縮み上がった気がして、オレは魔法を発動しようと手を伸ばした。
――でも、どっちに対してだ?
その一瞬の躊躇の間にライオネルの長剣がカキアの短刀を弾き落とす。
ライオネルは、騎士にあるまじき鬼神のような荒々しい剣筋で、カキアの手の平を貫いていた。後の三人も瞬く間に武器を落され腕を押さえている。
短剣が掠ったのか、ライオネルの眼帯が切られてオレの足元に落ちてきた。
「……えっ」
「ネロ、どうか動かないでくれ。……誰か! 下手人はここだ! 四人全員いるぞ!」
大事そうな手つきで再びマントに包まれ、温かい腕に抱き上げられた。その間にカキアたちは捕縛されたようだった。
ギャアギャアと口汚く罵る声が響く。
「四人で全員だと? そこにいるヤツが五人目だ!」
カキアはあくまでオレも道連れにする気らしく、大きな声で吠えた。ビク、と小さく震えたオレを支えるように大きな手がオレの背を軽く叩いた。大丈夫だ、と言うように抱き締められる。
「こちらはお前が拐かした私の客人だ」
「ふざけたこと抜かすな! そいつは元から俺たちの仲間だ!……知らねぇなら教えてやるよ、そいつがてめぇの片目を潰した『牙の闇魔術師』だぞ!」
マントを被ったままでも、ざわつく神官や衛兵たちの動揺が伝わってくる。
オレの心臓もバクバクと激しい鼓動を刻んでいた。
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