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八話 同じ穴の狢③
カキアの言葉で、おそらくライオネルの中の闇魔術師は繋がってしまっただろう。元はと言えば稀少な属性だというし、組織の頭目がそう言ってるのだ。
一番恐れていたことが、現実になってしまった。背に冷たい汗が流れる。
『いまだにお前を恨んでんだろ? どんな手の平返しするか見物だな!』
あの時カキアの放った言葉がいまさら重く胸に伸しかかってくる。
凍り付いたまま息を殺していたら、ライオネルの腕は変わらない力でオレの身体をぎゅっと抱き締めた。マントの隙間からライオネルの美しい口元だけが見える。
「貴様こそふざけたことを。私の客人は城に招かれ、皇帝陛下の依頼を見事に完遂した実績がある。陛下から賜った特例通行札を見るか? これは彼がいつでも皇宮に出入りできるという証明だ」
ライオネルはオレを片腕に抱いたまま、その通行札というのを取り出して見せた。垣間見えたそれは金属でできていて、誰でも知ってる王家の紋章が刻まれている。
これにはさすがのカキアも一瞬言い淀んだが、馬鹿の一つ覚えのようにまた同じことを叫んだ。
「なっ、そいつは奴隷で! 暗殺組織の闇魔術師だぞ!」
「これ以上彼を侮辱するなら、それは身元を保証した陛下への不敬罪にもなる。極刑は免れない。……彼らを連れて行け!」
ライオネルはそれだけ指示すると、両腕でオレを抱き上げて建物の中に入った。
迷いのない歩みから目的の場所があるのだろうが、オレはずっと落ち着かず身を縮めていた。何から聞いたらいいのか、どう問い質したらいいのか、頭の中がぐちゃぐちゃだ。
「ここで休んでいてくれ。少し片付けてくる用事がある」
ライオネルがオレを下ろしたのは、神殿内にある貴族用の客間のようだった。信心深い貴族は数日祈祷のため泊まり込むこともあるらしいので、こんな部屋があるのだろう。ベッドに下ろされてマントが取り払われると、一日ぶりのライオネルがそこにいた。
戦闘があったせいか少し乱れた銀髪がはらりと肩におりている。
マントの隙間から見たライオネルの剣技は素晴らしかった。こいつ、オレを追い回していた時も、少し本気を出したらさっきのカキアみたいに腕を貫くとか……出来たんじゃないのか。
ライオネルは大人しい犬のように床に片膝を突いてこちらを見上げていた。オレはなんとか声を絞り出そうとして、掠れた声で問いかける。
「……気付いてたのか」
窓から差し込む月明かりでライオネルの銀髪は光を散らすように輝いていた。そしてアイスブルーの瞳と、眼帯が外れたもう片方は深い紫色に煌めいている。
もともとのライオネルの瞳は、こんな色じゃなかったはずだ。矢傷の後遺症なのか?
彼が怪我をしてからこちら側の目を見るのは初めてで、その不思議な色をまじまじと見つめてしまった。
「私は神官と同じように、他人の魔力の属性が分かる。それが色として視界に入り込んでくるんだ。だからあの暗殺組織にいる君が、他とは違う紫紺の闇を纏っているのを知っていた。一度感知した後は、近くにいればその色に気付く。だから私は何度も何度も、君を追いかけた。……この目のおかげで、怪我をして倒れている君も見つけられて、本当に良かったと思っている」
ライオネルはオレの手を取って、その甲に額を押しつけ祈るように目を瞑った。
「始めは、こんな子供が暗殺集団に利用されているなんて、と憤ったのがきっかけだ。でも君にとってはそこが唯一の生きる場所だったんだろう。侮辱する気はなかったんだ、すまない。ただ……私は、どうしても君を保護したくて追いかけた。私のもとで慈しんで育てたら、幸せにできるのにと勝手な想いを抱いた。話を聞いて欲しいと何度も君に声をかけたのはそのためだ」
彼が視線を上げると、アイスブルーと紫の左右違う輝きを帯びた瞳が、ひたとオレに向けられる。逃げることなど不可能に感じる強い視線に、無意識に背が震えた。ライオネルに抱き締められた時に感じる温かさに似たものが、胸の中心にじわりと広がる。
「団長の言っていた通り私の治癒能力は高く、目を潰されたくらいなら死にはしない。だからあの時、馬上で君は紫の影にしか見えなかったが、迫る矢から守りたくてこの身で受けた。……そのおかげで君が必死になって応急処置をしてくれて、私はとても嬉しかったんだ。嫌われていると思っていたから、温かい君の手が触れてきて夢かと思った」
手を握られ、その指先が僅かに震えていることに気がついた。ライオネルは、必死になって言葉を探しオレに訴えかけていた。
「あの時、初めて間近でネロの声を聞いて、私が求めていたのは君自身だったと気が付いた。もっともらしく保護などと言っていたのは口実で、私は君を手に入れたかったんだ。私に挑みかかってきた少年を忘れられなくて、目に焼き付いて離れなくて、ただ欲した。だからこの目には闇魔法の残滓を取り込んである。君の残したぬくもりを忘れたくなかったから、ネロの色を貰ったんだ。……そしてこの目はより強く、君の魔力を感知するようになった」
魔力をほとんど使い尽したオレの髪は、赤色に染まっていた。その髪をひと房手に取ったライオネルは恭しくそこに口づける。
騎士の誓いのような仕草に見惚れて動けなくなっていると、その手が今度はオレの顎の下をついと引き上げた。
「だから何度奪われようと、必ず探し出す。……私のこの片目はもう盲目で構わない。ネロだけを見つめる目になったんだ」
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