孤独な闇魔法使いに聖騎士の溺愛

天城

文字の大きさ
24 / 34

八話 同じ穴の狢③




 カキアの言葉で、おそらくライオネルの中の闇魔術師は繋がってしまっただろう。元はと言えば稀少な属性だというし、組織の頭目がそう言ってるのだ。
 一番恐れていたことが、現実になってしまった。背に冷たい汗が流れる。

『いまだにお前を恨んでんだろ? どんな手の平返しするか見物だな!』

 あの時カキアの放った言葉がいまさら重く胸に伸しかかってくる。
 凍り付いたまま息を殺していたら、ライオネルの腕は変わらない力でオレの身体をぎゅっと抱き締めた。マントの隙間からライオネルの美しい口元だけが見える。

「貴様こそふざけたことを。私の客人は城に招かれ、皇帝陛下の依頼を見事に完遂した実績がある。陛下から賜った特例通行札を見るか? これは彼がいつでも皇宮に出入りできるという証明だ」

 ライオネルはオレを片腕に抱いたまま、その通行札というのを取り出して見せた。垣間見えたそれは金属でできていて、誰でも知ってる王家の紋章が刻まれている。
 これにはさすがのカキアも一瞬言い淀んだが、馬鹿の一つ覚えのようにまた同じことを叫んだ。

「なっ、そいつは奴隷で! 暗殺組織の闇魔術師だぞ!」
「これ以上彼を侮辱するなら、それは身元を保証した陛下への不敬罪にもなる。極刑は免れない。……彼らを連れて行け!」

 ライオネルはそれだけ指示すると、両腕でオレを抱き上げて建物の中に入った。
 迷いのない歩みから目的の場所があるのだろうが、オレはずっと落ち着かず身を縮めていた。何から聞いたらいいのか、どう問い質したらいいのか、頭の中がぐちゃぐちゃだ。



「ここで休んでいてくれ。少し片付けてくる用事がある」

 ライオネルがオレを下ろしたのは、神殿内にある貴族用の客間のようだった。信心深い貴族は数日祈祷のため泊まり込むこともあるらしいので、こんな部屋があるのだろう。ベッドに下ろされてマントが取り払われると、一日ぶりのライオネルがそこにいた。
 戦闘があったせいか少し乱れた銀髪がはらりと肩におりている。
 マントの隙間から見たライオネルの剣技は素晴らしかった。こいつ、オレを追い回していた時も、少し本気を出したらさっきのカキアみたいに腕を貫くとか……出来たんじゃないのか。
 ライオネルは大人しい犬のように床に片膝を突いてこちらを見上げていた。オレはなんとか声を絞り出そうとして、掠れた声で問いかける。

「……気付いてたのか」

 窓から差し込む月明かりでライオネルの銀髪は光を散らすように輝いていた。そしてアイスブルーの瞳と、眼帯が外れたもう片方は深い紫色に煌めいている。
 もともとのライオネルの瞳は、こんな色じゃなかったはずだ。矢傷の後遺症なのか?
 彼が怪我をしてからこちら側の目を見るのは初めてで、その不思議な色をまじまじと見つめてしまった。

「私は神官と同じように、他人の魔力の属性が分かる。それが色として視界に入り込んでくるんだ。だからあの暗殺組織にいる君が、他とは違う紫紺の闇を纏っているのを知っていた。一度感知した後は、近くにいればその色に気付く。だから私は何度も何度も、君を追いかけた。……この目のおかげで、怪我をして倒れている君も見つけられて、本当に良かったと思っている」

 ライオネルはオレの手を取って、その甲に額を押しつけ祈るように目を瞑った。

「始めは、こんな子供が暗殺集団に利用されているなんて、と憤ったのがきっかけだ。でも君にとってはそこが唯一の生きる場所だったんだろう。侮辱する気はなかったんだ、すまない。ただ……私は、どうしても君を保護したくて追いかけた。私のもとで慈しんで育てたら、幸せにできるのにと勝手な想いを抱いた。話を聞いて欲しいと何度も君に声をかけたのはそのためだ」

 彼が視線を上げると、アイスブルーと紫の左右違う輝きを帯びた瞳が、ひたとオレに向けられる。逃げることなど不可能に感じる強い視線に、無意識に背が震えた。ライオネルに抱き締められた時に感じる温かさに似たものが、胸の中心にじわりと広がる。

「団長の言っていた通り私の治癒能力は高く、目を潰されたくらいなら死にはしない。だからあの時、馬上で君は紫の影にしか見えなかったが、迫る矢から守りたくてこの身で受けた。……そのおかげで君が必死になって応急処置をしてくれて、私はとても嬉しかったんだ。嫌われていると思っていたから、温かい君の手が触れてきて夢かと思った」

 手を握られ、その指先が僅かに震えていることに気がついた。ライオネルは、必死になって言葉を探しオレに訴えかけていた。

「あの時、初めて間近でネロの声を聞いて、私が求めていたのは君自身だったと気が付いた。もっともらしく保護などと言っていたのは口実で、私は君を手に入れたかったんだ。私に挑みかかってきた少年を忘れられなくて、目に焼き付いて離れなくて、ただ欲した。だからこの目には闇魔法の残滓を取り込んである。君の残したぬくもりを忘れたくなかったから、ネロの色を貰ったんだ。……そしてこの目はより強く、君の魔力を感知するようになった」

 魔力をほとんど使い尽したオレの髪は、赤色に染まっていた。その髪をひと房手に取ったライオネルは恭しくそこに口づける。
 騎士の誓いのような仕草に見惚れて動けなくなっていると、その手が今度はオレの顎の下をついと引き上げた。

「だから何度奪われようと、必ず探し出す。……私のこの片目はもう盲目で構わない。ネロだけを見つめる目になったんだ」


感想 6

あなたにおすすめの小説

学園一のスパダリが義兄兼恋人になりました

すいかちゃん
BL
母親の再婚により、名門リーディア家の一員となったユウト。憧れの先輩・セージュが義兄となり喜ぶ。だが、セージュの態度は冷たくて「兄弟になりたくなかった」とまで言われてしまう。おまけに、そんなセージュの部屋で暮らす事になり…。 第二話「兄と呼べない理由」 セージュがなぜユウトに冷たい態度をとるのかがここで明かされます。 第三話「恋人として」は、9月1日(月)の更新となります。 躊躇いながらもセージュの恋人になったユウト。触れられたりキスされるとドキドキしてしまい…。 そして、セージュはユウトに恋をした日を回想します。 第四話「誘惑」 セージュと親しいセシリアという少女の存在がユウトの心をざわつかせます。 愛される自信が持てないユウトを、セージュは洗面所で…。 第五話「月夜の口づけ」 セレストア祭の夜。ユウトはある人物からセージュとの恋を反対され…という話です。

従者は知らない間に外堀を埋められていた

SEKISUI
BL
新作ゲーム胸にルンルン気分で家に帰る途中事故にあってそのゲームの中転生してしまったOL 転生先は悪役令息の従者でした でも内容は宣伝で流れたプロモーション程度しか知りません だから知らんけど精神で人生歩みます

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

堕とされた悪役令息

SEKISUI
BL
 転生したら恋い焦がれたあの人がいるゲームの世界だった  王子ルートのシナリオを成立させてあの人を確実手に入れる  それまであの人との関係を楽しむ主人公  

既読無視の年下幼馴染みの部屋に行ったら、アイドルグッズだらけだった。しかも推しは俺

スノウマン(ユッキー)
BL
国民的アイドルの朝比奈 春人(あさひな はると)はいつもラインを既読無視する年下の幼馴染、三上 直(みかみ なお)の部屋をとある理由で訪れる。すると部屋の中はアイドルのグッズだらけだった、しかも全部春人の。 『幼馴染の弟ポジジョン×国民的アイドルのお兄さん』になる前のドタバタコメディです。

【完結】一生に一度だけでいいから、好きなひとに抱かれてみたい。

村松砂音(抹茶砂糖)
BL
第13回BL大賞で奨励賞をいただきました! ありがとうございました!! いつも不機嫌そうな美形の騎士×特異体質の不憫な騎士見習い <あらすじ> 魔力欠乏体質者との性行為は、死ぬほど気持ちがいい。そんな噂が流れている「魔力欠乏体質」であるリュカは、父の命令で第二王子を誘惑するために見習い騎士として騎士団に入る。 見習い騎士には、側仕えとして先輩騎士と宿舎で同室となり、身の回りの世話をするという規則があり、リュカは隊長を務めるアレックスの側仕えとなった。 いつも不機嫌そうな態度とちぐはぐなアレックスのやさしさに触れていくにつれて、アレックスに惹かれていくリュカ。 ある日、リュカの前に第二王子のウィルフリッドが現れ、衝撃の事実を告げてきて……。 親のいいなりで生きてきた不憫な青年が、恋をして、しあわせをもらう物語。 ※性描写が多めの作品になっていますのでご注意ください。 └性描写が含まれる話のサブタイトルには※をつけています。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」さまで作成しました。

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。