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1.『10人目の恋人にフラレた』
⑥
しおりを挟む「どうかした?」
「ん、なんにも」
寒い、とブルブル身体を震わせて横からくっついてみた。すると目を細めて笑った熊獣人のオニーサンは、オレの肩に腕を回してくる。大きな手が肩を包んで、その熱に何だかホッとした。
「クマさん、名前は? オレは『リリ』」
「可愛い名前だね。俺は黒崎将人。驚いたな、熊獣人だって判るんだ?」
初対面でフルネーム言うやつ、どこに居るんだよ。いや、ここにいたわ。警戒心てものがないんだろうか、そんなに自信満々になるほど実家が太いとか? もしくは自分が権力者側のひと?
「判るよ、なんとなくだけど。……じゃあ黒崎さん」
「リリは名前だよね? じゃあこちらも将人でいいよ」
「……黒崎さん、で」
じっと見つめながら頑固にそう答えると、黒崎さんは困ったように笑って頷いた。それ以上はゴネなかったから感じは悪くないかな。案内されたオートロックのマンションはエントランスから豪華で、ホテルみたいでちょっと気圧された。
服装から金持ちの気配はあったけど、桁が違いそうだ。スニーカーにパーカーとブルゾンなんていうラフなオレの格好じゃ流石に浮いている。でも黒崎さんは気にする様子もなく、オレをエレベーターまでエスコートしていった。
乗ってすぐに気がついたけど、このエレベーター、階表示が一つしかない。あれ、これもしかして逃げられないヤツでは? と思って背中を冷や汗が流れ落ちた。
ネックガードは鍵付きのやつだから簡単には外せない仕様になっている。いまはオメガ相手だってアルファに強姦罪は適用されるし、番だろうと倫理的にダメだって言われてるし大丈夫だとは思うけど。
相手が反社会的組織でヤのつくお仕事とかだと生きて帰れる気がしないな。SSレアの兎オメガだしオレ。強姦監禁の上、売り飛ばされたりするかな。
緊張してドッと汗が吹き出した。巻かれてたマフラーがしっとりしちゃいそうで、自分で外す。それを見て不思議そうにした黒崎さんに、『もう寒くないから』と返した。
笑顔でマフラーを受け取った黒崎さんは、そのままオレの手をやんわり掴んで引き寄せる。強い力じゃなかったのに不意を突かれてよろけてしまって、分厚い胸板にむぎゅっと顔が押しつけられた。
頭に大きな手が当てられ、さらっと髪の中に指が入ってくる。
「ああ、熱はないな。こんな薄着で外にいたから、風邪を引いてしまったのかと」
「な、なに、いきなり」
「だってほら顔が赤いよ? きみ、アルビノだろう。従妹にアルビノの小型獣人がいてね、季節の変わり目はいつも風邪を引いて熱を出していたから」
「そんなのオレには関係、な……ッ」
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