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全てが終わった日。

1話 夢からの目覚め

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終わりなんて一瞬だ。
真っ赤に燃える炎が視界いっぱいに広がる様を見て思った。
 
建物が倒壊する音が聞こえ、黒い煙で呼吸が苦しくなる。
逃げようにも、足が瓦礫の下に埋まっている。
原因は分からないが、突如家から火が出てあっという間にこんなことになっている。

神様。
不意に神の存在を思い出す。
なにか悪いことをしたでしょうか。
「ゲホッゲホッ、」

空気が熱い。呼吸をすればするほど熱を吐き出そうと咳き込み、負のループに陥る。
もうダメだ。

意識を手放した。
それから何時間だったのだろうか。


私は死んだのかな。



目を覚ますと、天井が見えた。
「…う…眩しい。」

なんだか、長い夢を見ていた気がする。
ふかふかのベッドに窓から差し込む明るい光。

ジリリリと煩くなる目覚まし時計を止める。
変な夢を見た気がする。

「メロウ!!準備は出来ているの!?」

メイド長の声に飛び上がる。
や、やばい!!

「しょ、少々お待ちを!!!」
今日は大事な日だ。

幼なじみ、セドリックが王に即位する日だ。
メイド全員で見送らねばならない。

赤いメイド服を着て、ブラシで髪の毛を整える。
「よ、よし!」
鏡に映った自分を見つめる。
艶のある黒髪と、透き通るような白い肌、つり目の青い瞳。
ん?青い瞳?……なにか、もっと、こう黒っぽい色だったような…。
「メロウ!」「は、はい!!」

ばんっと扉が開けられる。
この人はメイド長。カルラ。私の育ての母でもある。
金髪の髪に茶色い瞳は私を上から下まで見つめる。
「早く。」

一言話すと、くるりと踵返し、廊下を歩いていく。
その後を追いかけるように廊下を小走りで走り、赤いカーペットに並んでいるメイドたちと同じように列に並ぶ。

ガチャっと部屋の扉が開く音がした。

浅黒い肌に黒髪、非常に整った顔立ちに負けないほど目立つ緑とオレンジのオッドアイ。
だが、齢11。顔には丸みがあり、豪華な服を着ても、その幼さは隠しきれていない。

レッドウィング王国、ラドバル・ヴェクター王の息子。

セドリック・ヴェクターのお出ましだ。

セドリック様が通るとメイドたちはドミノのように順に頭を下げていく。

例に漏れず、私も頭を下げる。
気配は私の前で止まった。
「メロ、また寝坊した?」
「い、いえ、決してそんなことは。」
「ふーん?」
セドリックはニヤニヤと笑っているんだろう。見なくてもわかる。寝坊したさ、その通りだよ。
メイドの端くれである私と、王に即位するセドリックは幼なじみだ。
小さい頃からカルラに共に躾、育てられた。
私には両親の記憶もどこから来たのかも何一つなかった。こことは別の国の森にいて、偵察に来た国王に拾われたのだ。
私にとって、カルラは、本当のお母さんだと思っている。

成長しても変わらず、セドリックは話しかけてきてくれる。
だが、立場が全くと言っていいほど違いすぎるのだ。
王子と雇われ者なのだから。

即位と式典が行われる。
この世界の王族は、その身に神獣を宿す。
式典では、その力をさらに強くしたり、目覚めさせたりするものだとメイド長が教えてくれた。


今から3000年前。この世界、ヴァスザーレムができたと言われている。

神々は世界を作り、そして初めて作った人間の子供たちの成長を祈り、力を授けた。

それを神の子の称する。
神の子たちは、それぞれ国を作りあげた。
それが今の国になる。
王族たちは、代々力を子へ伝承することで、権力と地位の維持をしている。

水の神獣 セイレーン
火の神獣 フェニックス
風の神獣 フェンリル
雷の神獣 ヒュドラ
土の神獣 ティーターン
闇の神獣 オーディン
光の神獣 ユニコーン

親から子へ受け継がれるこの力は、兄弟が入れば個体差が生まれる。
王になるのは、生まれの早さでは無い、神の力が最も強いものなのだ。

ここ、火の神獣フェニックスを持つレッドウィング王国では、新たな王が誕生しようとしている。
小さな小さな王様が。





┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

終わりなんて、一瞬だ。

建物が倒壊する音が聞こえ、黒い煙で呼吸が苦しくなる。
逃げようにも、足が瓦礫の下に埋まっている。
式典の催しでフェニックスの加護が貰える建物にメイド長と同行していた。
火が出てあっという間にこんなことになっている。

神様。
不意に神の存在を思い出す。
なにか悪いことをしたでしょうか。
「ゲホッゲホッ、」

空気が熱い。呼吸をすればするほど熱を吐き出そうと咳き込み、負のループに陥る。

鋭く、悲しい鳥の鳴き声が遠くで聞こえる。

地面にちらばったステンドグラスには、美しい赤い炎を纏う不死鳥が空を舞っていた。
どうして。どうして、具現化しているの?


「……助けてっ…助けて、リック…。」
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